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HP9999999999の最強なる覇王様  作者: ダイヤモンド
第2章 七星天使編
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第18話 覇王様のバイト

 歩くこと数分、僕は一軒の花屋の前に到着した。うん、ここで間違いない。


 まだ開店前らしく、入口はシャッターが下ろしてある。とりあえず裏口に回ってみたところ、ドアがあったので二回ほどノックしてみた。



「アルバイトの面接を受けに来た覇王だ。ここを開けてもらいたい」



 これから面接を受ける者とは思えない態度だと我ながら思うが、ここは覇王としての振るまいを優先することにした。


 それから三十秒くらい待ってみたものの、何の返事も返ってこない。おかしいな、面接の時間は合ってるはずなんだけど。ドアノブに手をかけてみたところ、鍵が掛かっていなかったので、僕は静かにドアを開けた。


 中は薄暗く、花は沢山置かれているものの、人の気配がない。すると床に一枚の紙が置かれていることに気付き、僕はそれを拾い上げた。そこにはこう書かれてあった。



『しばらく店を空けます。命だけは勘弁してください。 店主』



 店主に逃げられた!!


 きっと覇王がこの店に来ることを知り、身の危険を感じて逃亡したのだろう。まったく困ったものだ、僕はただ面接を受けに来ただけだというのに。まあ逃げたくなる気持ちは分かるけどさ。


 それから店内の部屋を見て回ったが、やはり誰もいなかった。他の従業員も僕を恐れて店に来てないのか、元からこの花屋は店主一人で経営していたのか。


 どちらにせよこのままじゃ花屋を営業する人がいないではないか。地図を見たところ花屋はこの村でここだけみたいだったし、絶対に困る人が出てくるはずだ。



「うーむ……」



 僕は少し考えた後、顔を上げた。よし決めた、僕が店主の代わりに花屋としての務めを果たそう。本来なら面接を受けてすらいない僕がこの店で働く資格はないが、勝手に面接をほっぽり出されたんだから文句を言われる筋合いはない、はず。わざわざここまで足を運んだんだし、せっかくだから働いて帰ろう。


 僕はシャッターを上げ、店をオープンした。一応更衣室でこの店の制服らしきものを発見したが、この覇王の図体に合うサイズの制服なんてあるわけがなかったので、そのままの服装で臨むことにした。一人で店を回せるか少し不安だけど、花屋って客の出入りは大人しいイメージがあるし、多分大丈夫だろう。


 そういや人間時代はコンビニでバイトしてた時期もあったっけ……懐かしいな。まあ店長の性格が合わずに一ヶ月も経たず辞めちゃったけど。


 だけど問題なのは、僕に花に関する知識が全くないということだ。だからお客さんに花について何か尋ねられたらどうしよう。しかしこの不安はすぐに杞憂だと分かった。



「!」



 すると店のドアが開き、一人の客が入ってきた。見た目二十代の若い女性である。ようし、コンビニバイトで教わった接客六大用語を胸に、笑顔で応対しよう。



「いらっしゃいま――」

「ひいっ!! ししし失礼しましたー!!」



 その女性はまるで化け物に遭遇したかのように顔を真っ青にし、光の速さで逃げていった。


 ちょっと酷くない? 確かに化け物という自覚はあるけども、化け物がバイトをしてはいけないなんてルールは存在しないだろう。誰が花を売ろうが花が花であることに変わりはないじゃないか。



「お前達もそう思うだろう?」



 僕は目の前の花達に問いかける。しかし当然、返事は返ってこなかった。




 それから一時間が経過。その間も何人か客は訪れたものの、皆僕を見るなり一目散に逃げていってしまう。なんか段々悲しくなってきたんだけど。


 てかなんて僕こんなことしてるんだっけ? 確か元々は僕のイメージアップが目的だったはずだよね?



「……やめよう」



 なんだか虚しくなったので、僕はバイトを途中で切り上げることにした。おそらく二十四時間ここにいたとしても誰も花なんて買ってくれないだろう。これでは閉店してるのと同じだ。僕は溜息をつきながら店のシャッターを下ろした。


 しかし働いたことに変わりはないので、ちゃんと給料は貰って帰ろう。僕はカウンターの引き出しから時給分の銅貨を取り出してポケットに入れると、【瞬間移動】で花屋を後にした。




 次に僕は雑貨屋の面接を受けるべく、その店がある村の前までやってきた。


 いや続けるんかい! とツッコミを入れたくなるかもしれないが、このまま城に帰ったらせっかくバイトを見つけてきてくれたリナの苦労が水の泡になっちゃうし、「必ず成し遂げる」と言っちゃったからな。まあ花屋のバイトは成し遂げたと言えるかどうか微妙なラインだけど。


 だが先程の二の舞になるようなことは避けたい。何か良い方法はないものかと、僕は腕を組んで喉を唸らせる。



「あっ」



 思わず僕は声を出した。そうだ、呪文の【変身】を使って人間に姿を変えればいいじゃないか。そうすれば誰からも恐がられることはない。なんでこんな簡単なことに気付かなかったんだろう。



「呪文【変身】!」



 人間時代の僕を頭の中に思い浮かべ、【変身】を発動。僕は覇王から人間へと姿を変えた。鏡がないので自分の姿を確認することはできないが、ちゃんと成功したはずだ。それから僕は若干緊張しながら村の中に入った。


 おおっ、誰も僕を見て逃げない! しかも中には軽く会釈をしてくれる人までいる! なんか感動だ! 僕は思わず目頭が熱くなってしまった。


 ただし前にも説明した通り【変身】は他の呪文を使用すると強制的に解除されてしまうという欠点があるので、実質この姿の間は呪文を使うことができない。まあ呪文を使わざるを得ない状況なんてそうないだろう。



「ん……?」



 しばらく歩いていると、いかにも不良っぽい風貌の男達が十人ほど、道端に座り込んで屯しているのが見えた。ああいった連中はどこの世界にもいるものなんだな。



「……おい」

「……ああ」



 そして男達が僕の方を見て何やらヒソヒソと話し合っていることに気付いた。人間時代の僕は舐められやすい顔つきだったせいか、不良に絡まれたことも何度かあった。だからあいつらが何を企んでいるのか大体想像がつく。まあいい、気にせず先に進もう。



「おっと」



 すると男達が気味の悪い笑みを浮かべながら僕の周りを取り囲んだ。



「くくっ、坊や。ここから先は通行料が必要だぜ」

「さあ、有り金全部出しな」



 僕は小さく息をついた。やっぱりこういうパターンか。


 もし今の僕が覇王の姿だったらこんなことにはならなかっただろう。なんだか今日は尽く外見が裏目に出るな。もうすぐバイトの面接の時間だというのに、遅刻したらどう責任をとってくれるんだか。



「……嫌だ、と言ったら?」

「ちょいとばかし〝弱い者イジメ〟をさせてもらうことになるな」

「怪我したくなかったらさっさと出せや」



 無意識に笑みがこぼれてしまう。現在の所持金は花屋のバイトで手に入れた銅貨数枚だけだし別にくれてやってもいいんだけど、それではつまらない。

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