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HP9999999999の最強なる覇王様  作者: ダイヤモンド
第8章 謀略のガブリ編
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第177話 覇王の策略

「いやあ、こんなことってあるんだな! まさに奇跡の演出、感動しちまったよ俺! パーティのクライマックスに相応しい見世物だったぜ!」



 惜しみなく拍手を贈るガブリ。奴には今の光景が余興にしか見えなかったらしい。だが僕はもはや怒りすら感じなくなっていた。



「さてと。目一杯楽しんだことだし、余韻が冷めない内にパーティもお開きにするか。ラストはテメーの断末魔で華々しく飾らせてもらうぜ」



 僕が【覇導穿】を炸裂させた衝撃で、セアルが手にしていた【怨念剣】はガブリの近くまで転がっていた。ガブリはそれを拾い上げ、不気味に口角を上げる。


 どうやら奴は既に自分の勝利を確信しているようだ。無理もない、ステータスの差は歴然であり、もう僕にはまともに闘えるだけのHPとMPは残っていないのだから。



「……そうだな。終わりにしよう」



 おそらく決着はすぐそこだろう。だがその前に、奴には言っておかねばならないことがある。



「この闘いを通じて、一つ分かったことがある」

「あぁん? ここにきて自分語りか? まあいい、遺言くらいは聞いてやるよ」



 僅かな沈黙を置いて、僕は奴に言った。



「貴様は弱い。セアルやラファエよりも遙かに劣る」

「……は?」



 あまりにも衝撃的な発言だったのか、しばしガブリは唖然とした顔で固まっていた。



「テメー……今なんつった? 俺がセアルやラファエよりも遙かに劣る、だと?」

「そうだ。その様子だと自覚はなかったようだな」



 ガブリは額に青筋を刻み、怒りを露わにする。



「馬鹿かテメーは? 足し算って知ってるか!? 今の俺はラファエの魂を取り込んだことでその力がプラスされてんだ! その俺がセアルよりも、ましてやラファエよりも劣るだと!? とうとう頭のネジまで飛んじまったかぁ!?」



 この手の煽りは効果覿面らしく、ガブリは激しく反発してきた。



「確かに、ステータスや呪文の点から見れば貴様の方が上かもしれんな。だが余が言っているのはそういうことではない」

「はぁ……?」

「貴様の攻撃はあまりにも軽い。どれだけ余のHPを削り取ろうが、余の心には何一つ響かない。それは貴様の信念があまりにも薄っぺらいからだ」



 ピクピクと頬を引きつらせるガブリを見ながら、僕は言葉を続ける。



「セアルは世界の平穏を保つために、ラファエは大切な者への罪滅ぼしのために、余との闘いに臨んだ。正否はどうあれ、あの二人には背負うものがあった。揺るぎない信念があった。だが貴様はどうだ? 背負うものなど何もなく、ただ自分本位の欲求を満たす為だけに闘っている。その程度の信念で余を打ち負かすだと? 片腹痛いぞガブリ」

「……ククッ。ハハハッ。ハハハハハハハハハハ!!」



 狂ったような笑い声が空間内に反響する。



「ああそうさ!! 俺にはあいつらみてーなご大層な信念なんざねえよ!! だがテメーはそんな俺に今から殺されるんだぜ!? これほど無様なことはねーよなぁ!?」

「さて、どうかな。一つ忠告しておくが、あまり慢心が過ぎると足下を掬われても気付かなくなるぞ」

「あぁ……!?」



 時は満ちた。僕はガブリの傍で横たわるアンリに目を向ける。



『今だ――アンリ!!』



 僕は念話でそう呼びかけた。



「なっ!?」



 次の瞬間、ガブリの表情が驚愕に染まった。地に伏していたアンリが突然起き上がり、ガブリが手にしていた【怨念剣】を奪い、その剣先を奴の喉元に突きつけたからだ。



「なん、で……!?」

「動くな。妙な真似をすれば頭と胴体が分離することになるぞ」



 冷酷な声でアンリが宣告する。


 馬鹿な。有り得ない――そんな心の声がガブリの顔から見て取れる。無理もないだろう、ガブリにとっては自害したはずのアンリがいきなり起き上がり、今まさに己の首を刈ろうとしているのだから。だが全て僕の計画通りである。




  ☆




 これは悪魔領に四体のガブリが現れ、その迎撃に出向く直前のこと。大広間から退室しようとしたアンリを僕が呼び止めた場面まで遡る。



「お前には少しばかり話がある。今から余の部屋に来てほしい」

「……ハッ!? も、もしやユート様、出撃前に英気を養うべく私の肉体を……!? か、かしこまりました、ですか少々お時間を頂けると幸いと存じ――」

「話と言っただろう。いいからすぐに来い」

「……御意」



 僕はアンリを部屋に連れ込み、ドアを閉めて鍵を掛ける。ここから誰かに聞かれる心配はないだろう。



「ユート様、私にお話とは一体……?」

「驚くかもしれんが、冷静に聞いてほしい。今朝方、余の【未来予知】が発動し、ある未来の光景が余の脳裏に映し出された。おそらくそう遠くない未来だろう」

「【未来予知】……。それはどのような未来なのですか?」

「場所は不明だが、そこで余とガブリが対峙していた。そしてガブリの傍らには……アンリ、お前の遺体が横たわっていた」

「えっ……!?」



 アンリは声を上げ、驚愕の反応を示す。【未来予知】が発動した時に触れた〝僕がよく知っている者の遺体〟とは、まさしくアンリのことだった。



「そ、それでは、私は……」

「ああ。近い将来ガブリに捕らえられ、殺されることになるだろう」



 いきなり残酷な予言を突きつけられ、アンリの顔が青ざめていく。



「そ、その未来を変えることはできないのでしょうか!?」

「そうだな。【未来予知】の的中率は99%だとサーシャも言っていた。余が視た光景を変えるのはまず不可能だと思った方がいい」

「……サーシャ、とは?」



 あっ、しまった。



「サーシャとは……そう、余の架空の友人のことだ。時折夢の中に現れて余の話し相手になってくれるのだ」

「は、はあ……」



 なんかもの凄く哀しい人になってしまった。さすがのアンリも困惑顔である。けど【未来予知】が人間から貰ったものだとアンリにバレたらどうなるか分かったもんじゃないからな……。



「ともかく、私がもうじき死ぬということは理解できました。敵の手に掛かって殺されるくらいなら、いっそここで自害を――」

「早まるな。余がそんな未来を易々と受け入れると思うか?」

「ですが、その未来を変えるのは不可能なのでは……?」



 その通りだ。たとえ1%の確率に賭けて悪い未来を変えようと奮闘しても、それが原因でより悪い未来を招いてしまうというのはお約束だ。ならば未来の光景には下手に抗わない方がいい。


 そこで僕は発想を転換し、あの未来の光景を逆に利用することを考えた。

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