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HP9999999999の最強なる覇王様  作者: ダイヤモンド
第8章 謀略のガブリ編
167/227

第167話 アンリ、死す……?

「…………」



 意識が戻った時、アンリは自分が暗く狭い部屋の中に閉じ込められていることに気付いた。両手首には手錠のようなものが掛けられており、左足は床に取り付けられた鎖と繋がれている。


 身に覚えのある強烈な頭痛と吐き気、ジワジワと削られていくHP。これらのことから、アンリは自分が『天空の聖域』にいると理解した。朦朧とする意識の中、アンリは自分の身に起きたことを思い返した。確かガブリと闘っていたはず――


 ガブリの【怨念剣】によって生み出された、混沌を具現化したような剣。アンリはあらゆる呪文を反射する【自害点】を発動していたが、結果として【怨念剣】の前にその呪文は何の意味も為さなかった。もはやあれは呪文という概念すら超越した剣であった。


 意識が途切れる直前、脳裏に〝死〟の文字が過ぎったアンリだったが、かろうじて致命傷は免れており、今も尚こうして生きている。命があるだけでも奇跡という他ない。もっとも敢えて生かされた可能性の方が高いだろうが。となると、ここは七星天使の根城の中に違いない。


 もはや今のアンリには鎖を引きちぎるどころか、自力で起き上がれないほどに消耗していた。己の不甲斐なさに、アンリは歯噛みするしかなかった。


 その矢先、部屋のドアが内側に開かれる。暗闇に光が差し込むと共に、一人の男が悠然と入ってきた。



「やぁ、おはようアンリちゃん! やっと目が覚めたみたいだな!」



 屈託のない笑顔で挨拶するガブリに、アンリは憎悪に満ちた眼差しを向ける。



「あ、言っとくけど呪文で何かしようとしても無駄だぜ? 今のアンリちゃんはその手錠の効果で呪文の発動が封じられてるからよ」



 アンリの両手首に掛けられた錠は、かつてセアルがユートに対して使用した【魔封じの枷】と同一のものであった。



「殺すならさっさと殺せ……これ以上生き恥を晒すつもりはない……!!」

「おいおい、物騒なこと言わないでくれよ。俺がそんな残忍な男に見えるか? アンリちゃんは大事な人質なんだから殺したりしねーよ」

「……では何の用だ。私の身体で卑猥なことでもするつもりか……?」

「んん~、そうしたいのは山々だが、生憎キエルの野郎に止められちまってなぁ。覇王の次に厄介だよあいつは」



 愚痴をこぼしながら、ガブリはその場でしゃがみ、アンリと目線を合わせる。



「これから覇王と闘うにあたって、準備は万全にしておきたいからなぁ。てなわけで、覇王の弱点とかあったら教えてくんねーか? アンリちゃんなら色々知ってるだろ?」



 ガブリの問いに対し、アンリは勝ち誇ったように口元を歪める。



「ユート様に弱点など存在しない……仮にあったとしても貴様などに教えてなるものか……!!」

「ま、そう答えるよなぁ。だったらしょうがねえ。悪趣味かもしれねえが、ちょいと頭の中を覗かせてもらうぜ。呪文【記憶読取メモリー・リード】」



 にやつきながら、ガブリはアンリの頭に右手をかざす。初めて耳にする呪文だが、ガブリの発言とその名称から察するに、他者の記憶を覗き見る呪文に違いない。


 そう推測したアンリは、次の瞬間――驚愕の行動をとった。



 ガリッ。



 鈍い音が響く。直後、アンリの頭がガクッと項垂れる。口の端からは赤い液体が滴り落ち、真っ白な床を染めていく。



「……おや?」



 ガブリは呪文の発動を中断し、糸が切れた人形のようになったアンリをまじまじと見つめる。それからアンリの右腕を手に取り、脈がないことを確認すると、ガブリは深々と嘆息した。



「あちゃー、舌を噛んで自害しちまった。迷わず死を選ぶとはたまげたもんだ。ま、アンリちゃんにとってはお誂え向きの最期ってところか……」



 脳機能が停止してしまっては当然、記憶を覗き見ることはできない。仕方なくガブリは腰を上げ、部屋から去っていく。



「まあいい、計画に支障はねえ。むしろ楽しみが一つ増えたってもんだ。ンッフッフッフ……!!」



 アンリの遺体を目にした時、果たして覇王はどんな顔をするだろうか。それを想像しただけで、ガブリは高揚を抑えきれなくなった。




  ☆




 僕の【瞬間移動】によって、僕はユナ、エリトラと共に〝ゲート〟の前に転移した。この大きく黒い渦が『天空の聖域』へと繋がっている。


 調査班の報告通り、そこには天使の気配もトラップも皆無であり、かつてセアルの【認識遮断】によって視認できなくされていたゲートも、このように丸見えの状態で晒されている。これでは「どうぞ来てください」と言っているようなものだ。もはや罠が待ち構えているのは明白である。



「お前達、引き返すなら今の内だぞ」

「ホホホ、お戯れを。我の運命はユート様と共にあります。ん~~ジェネシス!」

「…………」



 エリトラはいつも通りだが、ユナは険しい顔で拳を震わせていた。無理もない、七星天使の中にはユナの生き別れた妹、ミカがいる。もしかすると再びミカと相見えることになるかもしれないのだから。



「ユナ、大丈夫か?」



 僕が声を掛けると、ユナは迷いを断ち切るかのように、決然と頷いた。



「ユート様の前であれだけ大口を叩いておきながら、怖じ気づくわけにはいきません。今はアンリを救うことだけに集中します」

「……それでこそ余の配下だ」



 さて。『天空の聖域』に乗り込む前に、一つやっておくことがある。



「呪文【不変証文】」



 僕がその呪文を唱えると、手元にA4サイズの一枚の紙が出現した。続けて【創造】を発動して一本のペンを生成し、その紙にペンを走らせていく。この様子を、ユナとエリトラは不思議そうに見つめていた。



「ユート様、一体何を……?」

「ま、ちょっとした下準備というやつだ」



 程なくして書き終わり、僕はその紙を懐にしまった。


 アンリの奪還は勿論だが、『天空の聖域』にはセレナの姉やサーシャの父、その他大勢の人々の魂が未だに捕らえられたままである。欲を言えばそちらも取り返したいが、二兎追う者は一兎も得ずになっては元も子もない。


 それに人々の魂については、自分との一対一の決闘に勝てば解放するとキエルが約束してくれた。セレナ達には悪いが、今はアンリの救出を最優先にしよう。



「では行くぞ。目的はガブリの抹殺とアンリの奪還。必ずや成し遂げるのだ!!」



 僕は二人の配下と共に、ゲートの中に身を投じた。





 一方、ゲートの先で待ち構えるのは七星天使の三人――ガブリ、キエル、ミカ。間もなく覇王・四滅魔と七星天使による、第二次にして最後の大戦が幕を開けようとしていた。



「さあ来い、覇王!! ンッフッフッフッフッフ……!!」

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