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HP9999999999の最強なる覇王様  作者: ダイヤモンド
第8章 謀略のガブリ編
159/227

第159話 4対4

 覇王ユートとガブリの分身の闘いが始まったのとほぼ同時刻。悪魔領の東地区に向かったユナは、既にガブリと対峙していた。



「おや? なんかどっかで見たことある顔だと思ったら、ミカによく似てんなぁ」



 ユナの顔をジロジロと眺めた後、ガブリはポンと手を打った。



「ああ! もしかしてミカが殺したがってるお姉ちゃんってテメーのことか?」

「……そうよ」



 嘘を吐いても仕方ないと思い、ユナは素直に認めた。



「まさかミカの姉が覇王の配下だったとは驚きだなぁ。妹が七星天使で姉が四滅魔とは、なんとも哀しい運命じゃねーか」

「…………」

「ん、待てよ? 姉妹で悪魔と天使がいるってことは、テメーとミカは悪魔と天使の親から生まれたってことになるのか? こいつは何やら入り組んだ事情がありそうだなぁ。興味あるから是非とも話してくれよ!」

「……お前に話すことなど何もないわ」



 ユナは脇に差していた剣を静かに抜き、剣先をガブリに向ける。これ以上ユナには目の前の男に無駄口を叩かせる気などなかった。



「ンッフッフッフ。そいつは残念だ……」





 一方、悪魔領の西地区にて。



「お願い……どうかこの子だけは……!!」



 小さな子供を抱いてうずくまる女悪魔のもとに、ガブリがゆっくりと歩み寄っていく。もはや逃げることも叶わず、ただ必死に懇願することしかできない。



「いいねえ、その恐怖に歪んだ顔! 最高にそそるぜ……!!」



 だがそれはガブリにとって逆効果でしかなかった。ガブリは邪笑を浮かべると、二つの儚い命を刈り取るべく、静かに右手をかざした。



「ごばあっ!?」



 その時、何者かの拳がガブリの右頬に炸裂した。ガブリの身体は吹き飛ばされ、その先にあった大木の幹に激突した。



「弱い者いじめはウチが許さないっすよ!」



 駆けつけたのはペータだった。突如現れた救世主に、女悪魔の頬が涙に濡れる。



「あ……ありがとうございます……!!」

「お礼はいいから、その子と早く逃げるっすよ!」

「は、はい……!!」



 女悪魔は慌ててその場から退避した。遠くなっていく背中を見届けた後、ペータは改めてガブリの方を見据える。



「あー……いってえいってえ……」



 ガブリがゆらりと起き上がる。ガブリの身体が激突した衝撃で、大木はメキメキと音を立てて半分に折れた。



「なーんか最近、ガキに邪魔されることが妙に多いなぁ。俺はガキが嫌いなんだから勘弁してくれよ」

「むかーっ! 誰がガキっすか!」



 以前『七星の光城』でミカにお子様と言われた時のように、ペータは怒ってみせる。



「とにかくこれ以上の悪行はウチが許さないっすよ! 覚悟を決めるっす!」



 ガブリは口の端から流れ出る血を拭いつつ、不敵に笑う。



「ンッフッフッフ。やってみなぁ……!!」





 悪魔領の北地区。ここではアンリがガブリと対峙していた。



「会えて嬉しいぜアンリちゃん! 実はずっと前から会いたかったんだよ! いやーこうして見るとやっぱり可愛いなぁ! 俺の好みド真ん中だ!」



 悪魔領に現れた四体のガブリの中で、このガブリが一番テンションが高い。対するアンリは、まるでゴミを眺めるかのような冷めた目でガブリを見ている。



「一つ提案なんだが、今からどっかの店で俺とお茶でもしねーか? どうにもアンリちゃんとは闘う気になれなくてなぁ」

「黙れ。ユート様が治める悪魔領に土足で踏み込んだ罪は万死に値する。貴様にはここで消えてもらう」



 呆気なく拒絶されたガブリだったが、その表情はますます愉悦を帯びていく。



「ンッフッフッフ。そうかそうか、となると力で屈服させるしかなさそうだな。んでその後は俺と大人の夜を楽しもうじゃねーか!」

「寝言は自害して言え。私がこの身体を捧げるとすれば、その御方はユート様以外に有り得ない。私はユート様に尽くす為、この世に生を受けたのだから」



 ガブリはさも面白くなさそうに舌打ちをする。



「さっきからユート様ユート様ってよぉ。あんな奴にアンリちゃんは勿体ないと思うけどなぉ」

「ユート様の魅力を理解できないとは哀れな奴め。貴様などユート様に比べればそこらに転がっている石ころ同然だ。いや、その例えは石ころに対して失礼かもしれないな」

「おいおい、そりゃ言い過ぎだろ。さすがに泣きそうになってくるぜ」

「……戯れ言に付き合ってやるのはここまでだ。呪文【自害剣】」



 禍々しさを纏った漆黒の剣が、アンリの手に握られる。



「おっ、やる気満々だなぁ。だったら俺も見せてやるよ、石ころの力ってやつを。ンッフッフッフ……!!」




  ☆




「げほっ……がはっ……」



 ガブリの分身との戦闘開始から約十五分が経過した。僕は瀕死の状態で地面に横たわるガブリの分身を、何の感慨もなく見つめていた。


 戦況は終始僕の圧倒的優位だった。奴は様々な呪文で攻撃を仕掛けてきたものの、僕へのダメージはほぼ0。所詮は呪文で生み出された紛い物、僕を倒せる道理などあるはずもない。その上ガブリの使った呪文はどれも以前対峙した時に見たものばかりなので目新しさもなかった。


 もはや奴のHPは風前の灯火だろう。トドメを刺していないのは、まだ奴の目的を聞き出せていなかったからだ。すぐに口を割るだろうと高を括っていたが、どうやら僕の見通しが甘かったらしい。


 僕はガブリの分身のもとに歩み寄り、喉元を鷲掴みにして身体を宙へと吊り上げた。



「吐け。貴様の目的は何だ?」



 業を煮やした僕は、喉が千切れない程度の力を右手に込めながらストレートに問い質した。



「げほっ。だーかーらー、ただの気晴らしだって言っただろ。苦しいから離してくんねーかなぁ……」



 掠れた声でガブリは答えた。やはり分身相手に拷問紛いのことをしても無駄か。



「……この期に及んでまだ白を切るとなれば、もはや生かしておく理由はないな」

「あれ、俺殺されちゃうの? ま、どうせ分身だから別に構わねーけどよ……」



 こいつも覚悟はできているようだ。ならば早いところ始末して、アンリ達の状況を確認するとしよう。


 僕がトドメを刺そうとしたその時――ガブリの表情が狂笑に歪んだ。

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