第152話 激闘の果て
すみません。前回の後書きで「次の話で第7章は完結」と書きましたが、5000字を超えそうなので2話に分割しました。次の153話で本当に完結です。
「次の攻撃で全てを終わらせる!! そして僕の圧倒的な力の前に平伏すがいい!!」
「……平伏す、か」
笑みをこぼす僕を見て、ラファエは怪訝な表情を浮かべた。
「何がおかしい?」
「……結局最後まで、貴様が余を〝殺す〟と明言することはなかったな」
ラファエは瞠目する。そのことにラファエ自身も気付いていなかったようだ。
「貴様の全身から迸る殺意は紛れもなく本物だった。だが、どうやら心と身体を完全に切り離すことはできなかったようだな。果たして貴様は心の底から余を〝殺したい〟と思っていたか?」
「……黙れ……!!」
「認めよう、貴様の力は余が見てきた者達の中で最も強大だ。しかしその強大な力に対して貴様の心はあまりにも優しすぎた。言うなれば力と心のバランスが取れていなかった。だからこそ貴様は自らの力に封印を施すしかなかったのだろう」
「黙れと言っている!! 今更何を言おうが結末は同じだ!!」
ラファエは刃物のような目つきで僕を睨みつける。しかしながら、その瞳の奥は確かに揺れていた。今のラファエの意志を支えているのはセアルへの罪滅ぼし、ただそれだけなのだろう。
「呪文【火炎流星群】!!」
再び上空から轟音が鳴り響く。僕は思わず溜息を洩らした。
やはり説得で闘いを終わらせることは最後まで叶わなかったか。元より期待していなかったが、もっと相手の心に響くようなことを言えたらと、多少なりとも悔いが残ってしまう。
僕の残りMPは80。もう【絶対障壁】を発動させるだけのMPは残っていないが、使える呪文がなくなったわけではない。とは言っても、この残りMPで使えるのはせいぜい第二等星呪文までが限界だ。
「今から余は一つの呪文を唱える。その呪文でこの戦況を覆してやろう」
僕の宣言に、ラファエは表情を大きく歪ませる。
「またハッタリか!! その僅かなMPで唱えた呪文が今の僕に通用すると思っているのか!!」
「さて、どうだろうな……」
炎を纏った無数の岩石が、僕の命を終わらせるべく空から降り注いでくる。だが僕はそれを意に介さず、静かにその呪文を詠唱した。
「呪文【属性奪取】!」
第二等星呪文、【属性奪取】。消費MP50。その効力とは、簡単に言えば〝相手の特性を一時的に自分のものにできる〟ことだ。
まず特性を備えている者がほとんどいない上、効果も三十秒しか持続しない等のデメリットがある為、下から二番目の等星に分類されている。だがこの状況に限定すれば、この呪文は第六等星呪文以上の価値を発揮する。
「これにより貴様の特性『第三等星以上の呪文の効力を受けない』を奪った。するとどうなるだろうな」
「なっ……!?」
ラファエ Lv999
HP2000/2000
MP2000/2000
ATK100
DFE100
AGI100
HIT100
全身の力が抜けたように、ラファエはガクリと膝をついた。特性を失ったことでラファエは自らの【弱者世界】の効力を受け、ステータスが大幅に減少したのである。逆に僕はその特性を得たことで【弱者世界】の効力を受けなくなり、強制補正されていたステータスを取り戻した。
「呪文【絶対障壁】!」
僕は上空に幾つもの障壁を展開し、ラファエの【火炎流星群】を完全にシャットアウトした。
当然取り戻したステータスにはMPも含まれているので、今なら呪文はいくらでも発動できる。どちらにせよラファエから奪った特性によって僕が【火炎流星群】によるダメージを受けることはなかったが、これ以上地盤を破壊されると立つこともままならなくなりそうだしな。
――それとお前さん、【属性奪取】という呪文は持っておるかえ?
――【属性奪取】? どうだったかな……。
以前の梅干し屋の婆さんとのやり取りが否応にも思い返される。他の力に頼っては駄目だなどと言っておきながら、結局あの婆さんの言葉に頼るような形になってしまった。僕がこの呪文の発動を渋っていたのは、言ってしまえばそれが嫌だったからだ。
「こんな……馬鹿なことが……!!」
急激なステータスの変動により、ラファエは立ち上がるのにも精一杯といった有り様だった。
「安心しろ、【属性奪取】の効果は30秒しか持続しない。無論、それまでに決着はつけさせてもらうがな」
そう言いながら、僕は右手を天に掲げた。
「呪文【神罰の巨掌】!」
ラファエの頭上に禍々しい紋章陣が出現し、その中心から紫色の巨大な〝手〟がゆっくりと伸びてくる。
「【神罰の巨掌】は余が消費したMPと同じ数値を対象のHPから削り取る。DEF(防御力)の数値に関係なく、な」
「何……!?」
「余が消費したMPは530000。さて、HPが2000しかない今の貴様がこれを喰らったらどうなるか……?」
その紫の手はラファエに狙いを定めた途端、驚異的な速度でラファエに向けて振り落とされた。
「……!!」
ラファエは悲鳴を上げることすらできないまま、その手によって虚しく叩き潰されたのであった。
☆
【神罰の巨掌】によって出現した手が消滅すると、そこには仰向けに横たわるラファエの姿があった。まだ息はある。
視線を上に向けると、【弱者世界】によって夜空を照らしていたオーロラが消えているのが分かった。ラファエが【神罰の巨掌】を喰らう寸前に【弱者世界】を解除したと思われる。理由は言うまでもなく、ステータスを強制補正前の状態に戻す為だろう。
無論それは想定通りだった。ラファエのHPは530119。【神罰の巨掌】でラファエが受けたダメージは530000。よってラファエのHPは119残った計算になる。それだけあれば命に別状はないだろう。
「僕の……負けです……」
ラファエの姿が、最終形態から元の姿へと戻っていく。それは戦意の喪失を意味し、ラファエが敗北を認めた証でもあった。