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HP9999999999の最強なる覇王様  作者: ダイヤモンド
第7章 反逆のラファエ編
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第149話 苦い決着

「涙ぐましいねえ! 脆弱な人間共を守る為にそこまで身体を張るなんてよ!」



 全身がボロボロになっていくサーシャを見て、ガブリは高らかに叫ぶ。


 サーシャが町の人間を見捨てていたなら、このような窮地に立たされることはなかっただろう。だがサーシャには最初からそのような選択肢はなかった。大切な者を失う苦しみや悲しみを、誰よりも理解していたからだ。



「……呪文【星龍の叫び】!」



 だからと言って、やられっぱなしというわけにもいかない。サーシャは意識を朦朧とさせながらも、隙を突いてガブリの分身を標的にレーザーを放った。


 苦し紛れの攻撃だったが、そのレーザーは見事ガブリの分身に直撃した。所詮は呪文によって生み出された紛い物に過ぎないので、ガブリの分身はその一撃で消滅した。


 だがそれすらもガブリの読み通りだった。サーシャの意識がガブリの分身に向けられている間に、ガブリはサーシャの背後に回り込んでいた。



「〝三日月斬〟!!」



 ガブリの放った斬撃が、至近距離でサーシャの背中に炸裂した。



「がはっ……!!」



 その衝撃で、ついにサーシャの意識が途絶えてしまう。それに伴い【飛翔】の発動が維持できなくなり、サーシャは重力に従って落下していく。この高さから地面に叩きつけられたら確実に命はないだろう。



「あばよクソガキ。あの世でママと感動の再会を果たすんだなぁ」



 サーシャの死を確信したガブリは、サーシャに最後の言葉を投げかける。だが、その時――



「呪文【重力操作】!!」



 どこからともなく呪文を詠唱する声がした。その瞬間、自由落下していたサーシャの身体が、シャボン玉のようにふわりと宙に浮いた。



「あぁん……?」



 予期せぬ光景に、ガブリは眉間にシワを寄せる。すると低空を飛行する一匹のモンスターがガブリの目に留まった。その背には三人の人間が乗っている。



「あいつら、ラファエと一緒にいた人間……!!」



 それはセレナ、アスタ、スーだった。スーの【生類召喚】と【憑依】によって三人は飛行モンスターに乗ってこの場に駆けつけ、セレナの【重力操作】がサーシャの窮地を救ったのである。



「〝電撃弾〟!!」



 予め【電撃祭】を発動していたアスタがガブリに向けて電撃弾を放った。突然の攻撃に反応が遅れ、それはガブリの顔面に直撃した。



「いってえなぁ!! いきなり何しやがる!!」



 それほどガブリにダメージは与えられなかったが、一瞬の隙を作るには十分だった。この間にセレナ達はモンスターに乗ったまま、宙に浮いたサーシャを保護した。



「おいしっかりしろサーシャ!! 大丈夫か!?」



 アスタの必死の呼びかけに、サーシャの目がうっすらと開く。それを見て三人はホッと胸を撫で下ろした。



「よかった、とりあえず命に別状はないみたいね……」

「……お前達……どうしてここに……?」

「その話は後! 今は無理して喋っちゃダメよ!」



 夜空に謎の二つの物体と大きな爆発を見たセレナは、その後別荘にユートとサーシャの姿がないことに気付いた。ただならぬ事態を感じたセレナは、アスタ達を叩き起こして二つの物体が消えた方角へ向かい、ガブリとサーシャの戦闘に遭遇した――といった経緯である。


 流れ星に見えた二つの物体の正体を、この時セレナはようやく理解した。



「あいつ、七星天使か……?」

「ええ、間違いないわ。七星天使の一人、ガブリよ」

「……あいつのこと知ってるのか?」

「……まあね」



 アスタの問いに、セレナは苦々しく返事をした。


 セレナは以前『七星の光城』でガブリの分身に襲われそうになったので、その顔も名前も知っていた。あの時ユートが助けに来てくれなかったら、一体どんなことをされていたか分からない。


 同じくその時のことを思い出したのか、ガブリはセレナを見てニンマリと笑った。



「ンッフッフッフ。どっか見た顔だと思ってたが、セアルに人質にされた女じゃねーか。やっぱり俺に犯されたくなって会いに来てくれたのかなぁ……?」



 生理的嫌悪感を覚えるその視線に、セレナは背筋をゾッとさせる。すると何も言えずに固まっていたセレナに代わり、スーが口を開いた。



「ふざけたこと言わないで。セレナはユートに初めてを捧げるって決めてるんだから」

「ちょっとスー!! 今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ!?」



 顔を真っ赤にするセレナに対し、スーは首を傾げる。



「ひょっとして、もうしたの? だったらごめん」

「だ、だからそういうことは……!!」

「チッ、んだよ非処女だったのかよ。まあ俺はそういうのあんまり気にしねータイプだから別にいいんだけどよ」

「……!!」



 まだしてないし非処女でもないと言い張ろうとしたセレナだったが、自分で「そんなこと言ってる場合じゃない」と言ったばかりなので、仕方なく口を噤んだ。



「しかし残念なことに、俺にはこれ以上テメーらの相手をしてる暇はねーんだ。そろそろ〝あっち〟も決着がつく頃だろうしなぁ……」



 ガブリは覇王ユートとラファエが闘っている荒野の方角に目を向ける。



「つーわけで、あばよ人間共。あーあ、ガキのせいでだいぶ時間を無駄にしちまったぜ……」



 ブツブツ文句を垂れながら、ガブリは夜空の向こうへ去っていく。



「待ちやがれ!! おいスー、早くあいつを追いかけて――」

「駄目よ!!」



 セレナは大声でアスタの言葉を遮った。



「なんでだよセレナ!? お前も七星天使には恨みがあるはずだ!! その上サーシャをこんなに傷つけられて黙ってられるわけねーだろ!!」

「分かってるわよそんなこと!!」



 セレナの拳が震える。今すぐサーシャの敵を討ちたいのはセレナも同じだった。



「だけど、アタシ達の実力じゃ七星天使には勝てない。それはアスタも分かってるでしょ……?」

「……っ!!」



 皆の脳裏には、否応にも『邪竜の洞窟』でセアルとイエグの前に何もできずに敗北した記憶が蘇る。サーシャですら勝てなかった相手に自分達が勝てるはずがないと、セレナは冷静に判断した。



「それに今は、一人でも多くの命を救うことが先よ……」



 ガブリの非道な攻撃によって火の海と化した町を、セレナ達は悲痛な表情で見つめる。



「……悔しいが、セレナの言う通りだな」



 アスタは自分の感情を抑え込むように大きく深呼吸をし、気持ちを切り替えた。



「スー、お前は先にサーシャと別荘に戻れ。オレとセレナは町の救援に向かう」

「わかった」

「セレナ、頼む」

「うん」



 セレナは【重力操作】を自分とアスタに対して発動し、モンスターの背から飛び降りて町中に着地する。スーは引き続き【憑依】でモンスターを操り、サーシャの別荘へ向かった。



「……すまない、スー……」

「気にしないで。これくらい大したことない」



 仰向けに横たわるサーシャに、スーは小さく笑いかけた。



「……くそっ……」



 顔に右手を当てて、サーシャは呟く。


 ガブリを倒すことができなかった。サーシャの胸には、途方もない悔しさが込み上げていた――

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