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HP9999999999の最強なる覇王様  作者: ダイヤモンド
第7章 反逆のラファエ編
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第147話 復活の巨竜

 一方のサーシャは二体の竜の復活にさして驚いた様子はなく、ただ嘆息を洩らすばかりであった。



「やっと闘う意欲を見せたかと思えば、ここにきて他力本願とはな。呆れるのを通り越して感心すら覚えてしまう」

「おいおい、その言い方はねーだろ。俺にはこの二匹を〝操る〟っつー重要な役割があるんだからよ。そこは戦略と言ってほしいもんだ」



 【死者乱舞】によって蘇ったものは自分の意志を持たない代わりに、その呪文の詠唱者が自由に操ることができる。それはつまり、竜たちの唯一の欠点である知能の低さを完全に補うことを意味していた。



「忠告しておくが、そんな中途半端な状態で復活させた竜二体で倒せるほど私は甘くはない。せいぜい時間稼ぎがやっとだろう」

「ま、普通に闘わせたらそうかもしれねーな。だが――呪文【闇同化】!」



 次の瞬間、二体の竜は暗闇に溶け込むようにして姿を消した。



「何……!?」



 サーシャは素早く周囲を見回すが、どこにも竜は見当たらない。二体の竜は暗闇と同化したことで、サーシャの視界から完全に消えていた。



「さあ、二匹の竜はどこにいるかな? 鬼ごっこの次は隠れん坊ってなぁ!」

「……こんな暗闇に私を誘い込んだのはこれが狙いか」



 サーシャは神経を研ぎ澄まし、気配によって竜の居場所を探ろうとする。だがその気配すらも全く読み取ることができなかった。【闇同化】は姿だけでなく気配をも闇に同化させてしまうのである。



「!!」



 サーシャの背後に潜んでいたペインドラゴンが口から濁水を放つ。しかしその濁水まで同化させることはできないので、サーシャはほぼ反射的に身体を転がし、辛うじて回避することに成功した。



「ほう、見事な反射神経だ。だが……」



 すかさず前方に潜んでいたヘイトレッドドラゴンが炎を放射する。これには身体が追いつかず、サーシャはその炎をまともに喰らってしまった。



「くっ……!!」



 サーシャはなんとか体勢を立て直したものの、戦況は明らかに不利だった。一体だけならまだ対処できたかもしれないが、見えざる敵が二体ともなると流石のサーシャにも限界があった。



「……呪文【蛍光】!」



 サーシャは小さな光を次々に生成する。闇と同化しているのならば、空洞内を光で照らしてしまえば竜は姿を現すはず……サーシャはそう考えた。



 だが突如として発生した強風によって、全ての光はあっさりと掻き消されてしまった。姿を隠した二体の竜が翼を羽ばたかせ、突風を発生させたのである。ガブリによって操られていなければ、ここまで迅速な対処はできないだろう。



「がはっ!!」



 直後、ペインドラゴンの頭突きがサーシャの左脇腹に炸裂し、サーシャは岩の壁に叩きつけられてしまった。



「ハハハハハ!! いいザマだなぁオイ!!」



 相変わらずガブリは自ら動こうともせず、安全な位置からサーシャが傷つく様子を愉快げに眺めている。



「さぁどうする!? なんとかしねーとこの洞窟がオメーの墓場になっちまうぜ!?」

「……げほっ。まったく、幼気な少女をいたぶって心は痛まないのか……?」



 軽口を叩きながら、サーシャは口の端から流れる血を右手で拭う。強烈な一撃をお見舞いされたサーシャだが、HPにはまだ余裕がある。しかしこの状況が長く続くのは望ましくない。


 直接ガブリを仕留めることができれば【死者乱舞】の効力も消え、それに伴い二体の竜も消滅する。だがこの距離と暗さの中で攻撃を仕掛けても容易にかわされるのがオチだ。距離を詰めようにも、二体の竜に阻まれてそれも叶わない。やはりまずは二体の竜を片付けるのが先だろう。



「……呪文【星龍の嘆き】!」



 サーシャは頭上に向けて無数の羽根を放つ。しかし手応えは一切なく、依然として二体の竜は姿を眩ましたままである。



「ヤケになって闇雲に攻撃し始めたかぁ!? んなことしたってMPの無駄遣いにしかならねーと思うけどなぁ!」

「…………」



 サーシャは何も言い返さず、ただ静かに俯いた。



「おやっ!? どうやら死ぬ覚悟ができたみてーだなぁ! さあ竜ども、望み通りあのガキを地獄へ叩き落としてやれ!!」



 勝ち誇ったようにガブリは言い放つ。だがサーシャは不敵に笑ってみせた。



「さて、どうかな……?」



 サーシャは右斜め後方に視線を向ける。そこには暗闇に溶け込んでいたはずのペインドラゴンの姿が部分的に露わになっていた。



「なっ!? まさかてめえ……!!」



 その時ガブリはサーシャの意図に気付き、大きく目を見開いた。


 先程のサーシャの攻撃は竜を狙ったものではない。【星龍の嘆き】によって放たれる羽根はあらゆる物体を貫通する。それは洞窟の天井とて例外ではない。サーシャは最初から天井に無数の穴を空けるつもりで【星龍の嘆き】を発動していたのである。


 夜空に瞬く星の光を洞窟内に差し込ませ、暗闇と同化した竜の姿を照らし出すために。



「隠れん坊の時間は終わりだ。呪文【星龍の叫び】!!」



 虹色のレーザーがペインドラゴンの心臓部を的確に撃ち抜く。続けてサーシャはヘイトレッドドラゴンの位置を見定めると、同じく【星龍の叫び】で心臓部を撃ち抜いた。



「永い眠りから無理矢理叩き起こされて、さぞ不愉快な思いをしたことだろう。再び安らかに眠れ……」



 祈りを捧げるようにサーシャは目を閉じる。間もなく二体の竜は塵となって消滅した。



「おいおいマジかよ……」



 これにはガブリも思わず頬を引きつらせる。完全な状態で復活させていなかったとはいえ、二体とも一撃でHPを0にされるなどガブリは予想もしていなかった。



「さて、次はお前が眠りにつく番だ」



 サーシャはガブリを睨み据える。するとガブリの目から徐々に闘志の色が消えていき、やがて元の冷めた目に戻った。



「あー、ダメだ。やっぱ真面目に闘うってのは俺の性に合わねえ……」



 とても真面目とは言えない闘いぶりだったが、ガブリにとってはこれでもよくやった方だった。



「呪文【月光砲】!」



 ガブリが光のレーザーを放つ。しかしそれはサーシャへの攻撃ではなく、頭上に向けたものだった。


 レーザーは洞窟の天井に直撃し、岩の破片が洞窟内に激しく飛び散りサーシャの視界を遮る。その隙にガブリは背中に翼を生やし、レーザーによって空いた大きな穴を抜けて洞窟から脱出した。



「この期に及んでまだ逃げるか……!!」



 無論このまま逃がすつもりなどサーシャにはない。サーシャは再び【飛翔】を発動し、同じくその穴を抜けてガブリの後を追った。

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