第14話 妹の誕生
「リナよ。何でもいいから妹っぽいことをするのだ」
「えっ!?」
動揺のあまり、思わず僕はリナの耳元でこんなことを言ってしまった。何を言ってるんだ僕は、こんなの無茶振りにも程があるだろう。
「すまない。今のは忘れて――」
「分かりました。やらせていただきます」
分かったの!?
一体何をするつもりなんだと僕がハラハラしていると、リナは腕を組んで頬を少し膨らませ、プイッと僕から顔を逸らした。
「べ、別にお兄ちゃんのことなんか全然好きじゃないんだからねっ!」
やばい、リナも相当テンパッてる!! ある意味妹っぽいけどそんな知識どこから仕入れたんだ!? というかこの世界にそういう文化が存在していたことに驚きだよ!
「こ……これは……」
「ああ……」
そんなリナを見て、悪魔達の間からどよめきが起きる。もはやここまでか。こんなのが僕の妹であることの証明になるはずが――
「間違いなくユート様の妹君だ!!」
「ユート様にこのような態度をとれるのは妹以外に考えられない!!」
「このツンデレっぷりで妹でないはずがない!!」
なるんかい!!
「疑うような真似をして申し訳ありませんでした、リナ様。貴女様は紛れもなくユート様の妹君でございます……!!」
アンリまでもが認めてしまっていた。こんなことがまかり通るなんて逆に心配になってくるんだけど。
「オホン。これでリナが余の妹であるとお前達も確信を得たはずだ。もし妹の身に何かあった時は……分かっておるな?」
「は、はい!!」
「我々一同、リナ様に忠誠を誓います!!」
まあ、これでリナの安全を確保できたことだし、良しとするか。
大広間で悪魔達を解散させた後、僕とリナは城の最上階にある一つの部屋の前にやってきた。
「さあ、ここが今日からお前の部屋だ。一応城内で二番目に広い部屋となっている」
「こ……ここが私の……!?」
部屋の中を見てリナが目を丸くしている。最上階の部屋にちょうど空きがあったのは幸いだった。僕の部屋もここから近いし、何かあった時はすぐに対応できるだろう。
「どうした、そんなに驚いたか?」
「は、はい。前の家庭では馬小屋で藁を敷いて寝てましたから……」
僕はその光景を想像し、胸を痛める。寒い日はさぞ辛かったことだろう。
「それと先程保留した呼称の件だが、お前が余の妹になった以上、余のことは『お兄様』と呼んでもらうことになる」
「お、お兄様、ですか?」
「ああ。それが嫌なら『お兄ちゃん』でも構わないが」
「そ、それはさすがに……」
「ふっ、今のは冗談だ」
僕は一人っ子だったから「お兄ちゃん」と呼ばれることにちょっとした憧れを抱いていたものだが、覇王という立場上そう呼ばせるわけにはいかないからな。
「では、お兄様と呼んでよろしいでしょうか?」
「うむ。お前の許可も貰わず勝手に妹ということにしてしまってすまないな」
「あ、いえ、全然大丈夫です! ご主人様が私の為にその考えを打ち出したということは分かってますから!」
「お兄様、な」
「あっ! も、申し訳ありません、お兄様!」
リナは慌てて頭を下げた。自分で言っといてなんだけどお兄様って呼ばれるのもなんだかむず痒いな。
「それで、私はこれからこの城で何をすればいいのでしょうか……?」
「好きに過ごして構わない。この城には図書館もあるし、知識を蓄えたいのならそこで本でも読むといい。今までずっと奴隷として生きてきたのなら、まともな教育も受けていないだろうしな」
「い、いいのですか?」
「うむ。お前は余の妹ということになっているから文句を言う者は誰もおるまい。もっとも同じ元人間としてお前にしかお願いできないことが出てくるかもしれないから、その時は何か頼み事をするかもしれないが」
「わ、私にできることがあったらいつでも言ってください! 何でもしますから!」
その発言は誤解を招いてしまう気がする。
「ああ、それと……」
僕は右手をリナの方にかざした。
「呪文【能力付与】!」
この呪文によって、僕は所持呪文の一つをリナに与えた。
「たった今、余の【災害光線】をお前に授けた。何か危険が迫った時はその呪文で身を守るといい」
「あ、ありがとうございます……」
これで僕は【災害光線】を使えなくなったわけだけど、攻撃系の呪文なら他にも腐るほどあるので特に問題はない。でもちょっと過保護すぎるかな?
「ではそろそろ寝るとしようか。初めてのベッドの感触を思う存分堪能するといい」
「あ、あの!」
その場から去ろうとした僕をリナが呼び止める。
「どうして私のような者の為に、ここまでしてくれるのですか……?」
「…………」
僕は改めてリナの方に向き合った。
「お前は十年以上も奴隷として〝自由〟を奪われた人生を送ってきた。ならばせめて少しでもお前に自由を与えてやりたいと思ったのだ。もっともこんな狭苦しい城の中で得られる自由など、高が知れてるだろうがな」
「そんな、狭苦しいだなんて……」
「だがお前が本当の自由を手にするのは、お前自身がやりたい事を見つけ、この城を出た時だ。その時が来るまでお前は余が支えよう」
「……!!」
リナの目からポロポロと涙がこぼれ落ちる。
「ありがとうございます……本当に……ありがとうございます……!!」
「ふっ、お礼ならもう何度も聞いた。早く部屋に入って身体を休めるがよい。色々あって疲れているだろう」
「はい……」
リナは涙を拭いながら部屋に入り、静かにドアを閉めた。
それから僕は大きく息をつく。何故僕がリナにここまでするのか。リナに自由を与えてやりたい、それが二つの内の一つ目の理由だ。もう一つの理由は――
「やっぱ、可愛いからだよなあ……」
男子高校生に戻ったような口調で、僕は呟いた。
次回から新展開になります。




