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HP9999999999の最強なる覇王様  作者: ダイヤモンド
第7章 反逆のラファエ編
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第136話 ガブリの誘い

「やめろおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーー!!」



 そんな良い雰囲気をブチ壊すようにアスタが立ち上がって絶叫し、全員の肩がビクッと揺れた。



「きゅ、急にどうしたのよアスタ!?」

「うるせえ!! さっきからどいつもこいつも現実の話ばっかしやがって!! いいか、これは人生ゲームなんだぞ、リアルは関係ねえ!! 今後リアルの話を持ち出した奴は罰金として金貨10枚没収だ、いいな!?」

「はあ!? そんなの横暴にも程があるでしょ!!」



 僕とセレナのラブコメの波動がトドメとなったのか、ついにアスタの精神が限界を迎えたらしい。



「大目に見てあげてセレナ。アスタはリアルの人生が大して充実してないから、せめて偽りの人生の中でくらい良い思いをさせてあげるべき」

「スーの言う通り!! オレはリアルの人生が悲惨だから――って何言わせんだこら!!」

「……ふふっ」



 すると今まで静かにゲームをプレイしていたラファエが小さく笑った。



「おっ。やっと笑ったじゃねーか」

「……え?」



 アスタにそう言われ、ラファエはキョトンとした顔を浮かべる。



「お前、ここに来てから元気なさそうな顔ばっかで全然笑わないからよ」

「確かに。私からワンピースを着せられた時も、何故かずっと嫌そうな顔だったし」



 それは普通に嫌だったんだと思う。



「もしかして先程のアスタさんは、僕を笑わせるために、わざと……?」

「え? お、おう勿論だ! どうよオレ様の演技力!」

「……どうやら素だったみたいね」

「うるせえよ!!」



 するとラファエは目を細くして、静かに俯いた。



「僕、ずっと憧れだったんです。こんな風に誰かと笑い合って、楽しい日々を過ごすことに……」



 皆はゲームを中断し、ラファエの言葉に耳を傾ける。



「皆さんといると、凄く楽しいです。嫌なことや辛いこと、何もかも忘れそうになるくらいに。ずっとここにいられたらと思います……」

「だったらいればいいじゃねーか」

「……え?」



 ラファエは顔を上げ、目を丸くしてアスタを見る。



「お前の家庭の事情はよく知らねーが、もう戻るつもりがねーならこれからもオレ達といりゃーいい。なんせお前はもう、オレ達の仲間だからな」

「仲……間?」

「おう」



 にかっと笑うアスタ。ラファエの目にうっすらと涙が浮かぶ。



「み、皆さんと出会ってまだ一日も経っていない僕を、仲間だと言ってくれるんですか……?」

「水臭いこと言うなって。仲間になるのに日数なんて関係ねーだろ。仲間だと思ったらその時点でそいつは仲間だ。皆もそう思うだろ?」

「うん。アスタもたまには良いこと言う」

「たまにはって何だスー! オレはいつも良いことしか言ってねーだろ!」

「ま、ラファエはアスタと違って無害そうだし、アタシも大歓迎よ」

「オレが有害みたいに言うのやめろ!!」



 この心温まる光景に、僕にも自然と笑みが生まれた。ラファエには七星天使なんかよりも、アスタ達といる方がよっぽど合っているだろう。



「皆さん、ありがとうございます。許されるのなら、僕はこれからも、皆さんと……」



 そこまで言うと、ラファエはハッと我に返ったような顔をした。そして短い沈黙の後、ラファエは立ち上がった。



「ん? どうしたラファエ?」

「あっ、えっと、すみませんトイレです。お借りしますね」

「女子トイレはこの部屋を出て右に真っ直ぐ進んだ所にあるから」

「僕は男です!!」



 スーにツッコミを入れた後、ラファエは部屋から退出した。




  ☆




 廊下に出たラファエは、どこか思い詰めた表情を浮かべ、静かに拳を握りしめた。今のラファエの心を締め付けているのは、アスタ達に対する罪悪感だった。


 アスタ達は七星天使によって大切な人の魂を奪われ、今までとても辛い思いをしてきたに違いない。自分は魂狩りに参加していなかったとはいえ、その七星天使の一人であることに変わりはない。


 そんな自分に、あの輪の中に加わる資格があるのだろうか。仲間と呼ばれる資格があるのだろうか。そう思うと居たたまれない気持ちになり、思わず部屋から出てしまった。



「…………」



 しばらく思い悩んだ後、ラファエは決断した。


 やっぱり、ダメだ。アスタ達の気持ちは嬉しかったけど、自分はアスタ達の仲間になることはできない。自分を助けてくれたこと、そして美味しい料理を作ってくれたことにちゃんとお礼を言ったら、潔くここから去ろう。


 そうラファエが思い立った、その時だった。




『随分と楽しそうだなぁ、ラファエ』




 ある男の声が脳内に響き、ラファエの背筋に強烈な悪寒が走る。それはガブリからの念話だった。



『まさかオメーも人間領に来てたとはなぁ。今その三階建てのデッケー建物の中にいるんだろ?』

「……はい」



 ラファエは戦慄を覚える。この言い方だとガブリもすぐ近くにいることになる。



『あれから何をやってるのかと思えば、人間共と仲良しごっこかぁ? まあ別に構わねーけどよ』

「ガブリさん、僕は……!!」



 ラファエの声が震える。きっと人間の生け捕りをさせる為に自分を連れ戻しにきたに違いない。しかしそんなラファエの心を読んだかのように、ガブリはこう言った。



『安心しな。もうお前に人間の生け捕りを命じたりしねーからよ』

「え……?」



 予想外のガブリの発言に、ラファエは安堵より先に疑問が生まれる。



「そ、それじゃ、どうして僕に念話を……?」

『なぁに、ちょっとオメーと話がしてーだけだ。こんな形じゃなくて直接な。近くに山があんだろ?』



 ラファエは窓の外に目を向ける。確かにこの別荘から少し離れた所に、標高1000mほどの山が見える。



『今オレはその山の頂上にいる。今すぐお前も来い、いいな?』

「…………分かりました」



 そこでガブリからの念話は切れた。


 自分と話がしたい……ただそれだけのはずがない。ガブリは何かを企んでいる。だが自分がこれを拒めば、ここにいるアスタ達を危険に晒しかねない。始めからラファエに選択肢など存在しなかった。


 降りしきる雨の中、ラファエは一人別荘を出る。そして名残惜しそうな目でその別荘をしばらく見つめた後、深々と一礼した。


 ラファエは背中に羽を広げ、ガブリの待つ山の頂上に向けて飛び立った。もうあの場所に戻ることはないだろう……そんな予感を抱きながら。

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