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HP9999999999の最強なる覇王様  作者: ダイヤモンド
第7章 反逆のラファエ編
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第132話 後悔の念

「それで、どうして七星天使のお前が人間領にいる?」

「! それは……」



 また暗い表情に戻り、押し黙るラファエ。こいつのことだから何か良からぬ企みがあるとは考えにくい。身なりから察するに、『七星の光城』で嫌なことがあって飛び出してきた、といったところだろうか。



「まあ、言いたくないなら別にいいけどさ」

「……ありがとうございます」



 ラファエは力のない声でお礼を言い、僕が差し出したお茶を口に運んだ。



「……先日、覇王と四滅魔が『七星の光城』に攻め込んできて、僕ら七星天使と大規模な戦闘を繰り広げました。と言っても、僕は何もできませんでしたけど……」



 それからラファエは十日前の出来事を語り始めた。



「覇王と対峙した際、僕は彼に侵攻の目的を問いました。その時僕は、彼が人々の魂を取り戻す為に来たことを知ったのです」



 それは僕も知っている。何故ならそう答えた本人がここにいるのだから。



「……ユートさんが、覇王にお願いしてくれたんですよね? 人々の魂を取り戻してほしいって」

「え?」

「セアルさんは、覇王とユートさんが繋がっているのではと勘繰っていました。てっきりユートさんが覇王に情報を与えたと思ったのですが……違うんですか?」

「……そ、そうなんだよ、よく分かったな! 実は僕と覇王は長い付き合いでさ! あっ、このことは誰にも言うんじゃないぞ!?」

「はい、分かっています」



 どうやらラファエの脳内ではそういうことになっているらしい。僕としてもその方が好都合だし、ここは話を合わせておこう。ま、普通は今の僕が人間に化けた覇王だなんて誰も想像つかないよな。



「でも聞いた話によると、結局覇王は人間の魂の奪還に失敗したんだろ?」

「……はい」

「その上、覇王はお前達のリーダーであるセアルを殺めた……。今のお前は相当覇王を恨んでるじゃないか?」



 僕がそう言うと、ラファエはベッドのシーツを強く握りしめた。



「確かに、少なからず許せないという気持ちはあります。でもそれ以上に……僕は自分が許せません」

「……自分が?」



 ラファエは小さく頷く。



「あの時、僕は無意識に〝セアルさんの命〟と〝人々の魂〟を天秤にかけたんです。そして〝人々の魂〟を選んだ僕は、覇王をセアルさんの所に行かせてしまいました……」



 ラファエの声が微かに震える。



「僕が覇王を止めていれば、セアルさんは死なずに済んだかもしれません。だから……」



 沈黙の後、ラファエはハッと我に返った顔をした。



「ご、ごめんなさい。こんな話をユートさんにしても何のことかサッパリですよね。忘れてください」

「……ああ」



 無論、その場にいた僕には分かる。仮にラファエが僕を止めていたとしても僕はそれを突破し、どちらにせよセアルは僕に殺されていただろう。それはラファエも薄々気付いているはずだ。


 だがそんなことはラファエには関係ない。〝セアルの命〟と〝人々の魂〟を天秤にかけ、〝セアルの命〟を切り捨てたこと自体が許せないのだろう。



 ――だが、これだけは言っておく。どのような結果になろうと、後悔だけはしないことだ。



 セアルのもとに向かう直前、僕はラファエにこう言った。しかし今のラファエは明らかにあの時の選択を後悔している。このままだとラファエは自分の心に押し潰されることになるだろう。



「!」



 するとラファエはベッドから下り、フラフラと立ち上がった。



「おい何してんだ! まだ安静してないと駄目だろ!」

「いえ、これ以上迷惑はかけられません。僕ならもう大丈……っ!」



 ラファエが倒れかかってきたので、僕はそれを胸で受け止めた。



「どこが大丈夫なんだよ! いいから寝てろ!」



 その時だった。部屋のドアが開き、アスタを先頭に皆が入ってきた。



「さて、昨夜海辺で倒れてたって男が一体どんな奴か――」



 アスタの言葉が止まる。セレナ、スー、リナが唖然とした表情を浮かべる。まるで時が止まったような沈黙が訪れる。


 そこで僕は悟った。皆の目には、僕とラファエが二人だけの部屋で抱き合っているように見えていると。



「ユートお前……実はそっちだったのか……」

「違う!!」

「ユート。セレナというものがありながら、それは有り得ない」

「だから違う!!」

「だ、大丈夫です。それでも私は、お兄様の妹ですから……」

「リナまで!?」

「そんな……ユート……!!」

「なんで泣くんだセレナ!? 僕を信じてくれえええええ!!」



 僕は皆の誤解を解くのに小一時間を費やしたのであった。




 それから僕達はラファエを説得してベッドに戻し、今日一日はこの別荘で大人しくすることを約束させた。



「とりあえず自己紹介しとく。私はスー。隣りはユートの恋人のセレナ」

「こ、恋人は言わなくてもいいでしょ」

「その隣りはユートの妹のリナ。本名は不明」

「リナが本名ですよ!?」

「その隣りは……えっと……」

「おい嘘だろスー!?」

「冗談。彼はアスタ。あとここにはいないけど、サーシャと子供達が多数。以上、『わくわく仲良し連合』のメンバーでした」



 いつからそんな名称になったんだ。



「ぼ、僕はラファエといいます」

「ラファエか。よろしくな」



 アスタが手を差し出し、ラファエと握手を交わす。



「……本当に、ここに居ていいんですか?」

「おうよ。オレ達は基本的に誰でもウェルカムだからな」

「……ありがとうございます。ところで先程スーさんが『子供達が多数』と言ってましたけど、ここでは子供を預かってるんですか?」

「ああ。正確にはここは別荘で、普段はちょっと離れた所にあるアジトに住んでるんだけどな。全員、七星天使に身寄りを奪われた子供達だ」

「!!」



 ラファエの目が大きく見開かれる。



「オレの親友やセレナの姉も七星天使に魂を奪われた。オレ達は奴らに復讐する為に――ってどうしたラファエ? なんか顔色悪いぞ?」

「あ、いえ。大丈夫、です……」



 ショックを隠しきれない様子でラファエは言った。無理もない、ラファエは七星天使が人々の魂を奪ったことに誰よりも責任を感じている。しかもそのせいで不幸な境遇に陥った者達を目の当たりにしたとあれば、胸を痛めるのは必然だろう。


 アスタ達はラファエが七星天使であることを知らない。先程アスタは「誰でもウェルカム」と言ったが、その事実を知ればただ事では済まないだろう。

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