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HP9999999999の最強なる覇王様  作者: ダイヤモンド
第7章 反逆のラファエ編
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第130話 口止め料

「ユート、どうかしたの?」

「な、何でもない!」



 運良くセレナには聞こえていなかったらしく、棚を二つ隔てた所から不思議そうに僕を見ている。何故僕の正体がバレたのかはともかく、この婆さんが僕の正体を広めたりしたら面倒なことになる。



「婆さん、そのことは誰にも言うなよ……!?」



 セレナに聞こえないよう、僕は小声で婆さんに囁いた。老人の耳には厳しいかと思ったがしっかり聞こえたらしく、婆さんはニンマリと笑う。



「ヒッヒッヒ。なら口止め料を払ってもらおうかのう。金貨三枚じゃ」



 なかなか悪どい婆さんだ。一応サーシャから預かった金とは別に金貨数枚は持ち合わせてるし、【創造】の呪文をもってすれば金なんていくらでも生成できるので、金貨三枚くらいどうということはないが……。



「その代わり、お前さんにはこれをやろうかの」



 そう言いながら婆さんは椅子を立ち、店の奥に姿を消す。しばらくすると、婆さんは一個の梅干しが乗った皿を持って戻ってきた。



「この梅干しには、三時間だけHPとMP以外の全てのステータスを1000上昇させる効能があるんじゃ」

「……それは凄いな」



 これが本当なら、常人がこの梅干しを食べれば一撃で家屋を破壊できるほどの力が手に入るだろう。と言っても既にステータスがMAXの僕には不要なものだ。


 僕が覇王だと見抜いた婆さんならそれくらい分かっていると思うが……。他の誰かに食べさせろ、ということなのだろうか。



「この梅干しの値段は金貨三枚じゃから、口止め料を払った証明としてはちょうどいいじゃろうて」

「金貨三枚? 他の梅干しに比べたら安いな」



 店内に陳列してある梅干しを見た限り、確か一番安いものでも金貨五枚だったはずだ。決して効能が微妙というわけでもないのに、何故この値段設定なのか。売り場の棚に置いていないということは、何か訳ありなんだろうか。



「それがこの梅干しには大きな欠点があっての」

「……欠点?」

「これを食べたら一時的に強大な力を得られる代わりに、寿命が十年減ってしまうのじゃよ。じゃから今は売り物としても出しておらん」

「……まじか」



 たった三時間の為に寿命が十年も削られるのではとても割りに合わない。ますます僕にはいらないものだ。



「その梅干しは結構だ。金貨三枚は払うから、それでいいだろ?」

「いやいや、これはお前さんが持っておくべきものじゃ。いずれお前さんの役に立つ時が来る」

「……この梅干しが?」



 普段ならただの妄言として聞き流すところだが、僕の正体を見破った婆さんの言葉だ。僕には不要という考えは変わらないが、無下にすることもできない。



「……分かった。一応貰っとくよ」

「ヒッヒッヒ。毎度あり」



 僕はポケットから三枚の金貨を取り出し、カウンターの上に置く。婆さんはその梅干しを小さな箱の中に入れて僕に手渡した。



「それとお前さん、【属性奪取】という呪文は持っておるかえ?」

「【属性奪取】? どうだったかな……」



 なんせ僕の所持呪文の数は百を超えているので、それらを全て把握するほどの余裕はない。確か持っていた気もするけど、この程度の認識しかないということは、きっと大した呪文ではないのだろう。



「その呪文がどうかしたのか?」

「ヒッヒッヒ……」



 婆さんは笑うだけで、その先は何も言わなかった。肝心なところは明言を避けるから非常にもどかしい。まったく食えない婆さんだ。



「ユート、そろそろ出よ?」



 梅干しを見て回るのにも飽きてきたのか、セレナが僕の所まで歩いてくる。そして僕が左手に持っている梅干しを見て大きく目を見開いた。



「えっ!? もしかして買ったの!?」

「あ、ああ。買ったというか、買わされたというか……」

「正気なの!? お腹壊しても知らないわよ!?」

「い、いや、食べるつもりはないから……」



 僕はたじたじになりながら、その梅干し屋を出たのであった。




  ☆




 それから僕とセレナはサーシャの別荘に戻り、皆で晩ご飯の焼きそばを食べた。サーシャの善意で別荘に泊めてもらうことになった僕とリナは、就寝時間まで子供達と遊ぶなり風呂に入るなりして別荘で過ごした。


 そして、深夜。昼間水着に着替える際に使用した部屋をそのまま寝室として借りることになり、僕は今その部屋のベッドで仰向けに転がっている。なんとなく転がっているわけではなく、主に二人の人物について考え事をしていた。


 一人は梅干し屋の婆さん。あの婆さんは何故僕が覇王だと分かったのか。何故この梅干しを僕に渡したのか。そもそもあの婆さんは何者なのか。様々な疑問が僕の脳内で錯綜する。


 僕は例の梅干しが入った箱に目をやる。婆さんは「いずれ役に立つ時が来る」と言っていたが、ステータスMAXの僕がこれを食べたところで何の意味もない。ただ寿命が十年減るだけだ。嫌がらせと言われた方が納得するだろう。


 ただ、あの婆さんは敵ではないと僕の直感が告げていた。婆さんの正体については気になるところではあるが、今は特に探るつもりはない。名前くらい聞いておけばよかったと後悔したが、どうせ聞いても不気味な笑いではぐらかされていたことだろう。


 もう一人はキエル。五日後に僕はキエルと決闘の約束を交わした。『七星の光城』で対峙した時には「できれば戦いたくない」と口にした僕であったが、不思議と今はそのような気持ちは全くなかった。


 それはやはり、この戦いが明確に『魂の壺』を賭けたものだからだろう。キエルとの勝負を制すれば、今度こそ奪われた人々の魂を解放できる。それを思えば「戦いたくない」などと言っている場合ではない。五日後、僕は本気でキエルとの決闘に挑むつもりだ。



「……さて」



 僕はベッドから身体を起こし、静かに立ち上がる。


 まあでも、婆さんの正体のこともキエルとの決闘のことも、今だけは忘れよう。何故なら僕はこれから〝夜の戦い〟に赴くからだ。


 皆も寝静まった頃だろうし、そろそろ行くとするか。僕は深呼吸で緊張と高揚を落ち着かせ、セレナの部屋に向かった。

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