第123話 男の勝負
それから僕は海に潜って様々な生き物を観賞したり、子供達と一緒に砂の城を造ったりと、それなりに海水浴を満喫した。
が、やはり一番の醍醐味は、なんと言っても女子達の水着姿である。セレナ、リナ、スーの三人は今、浅瀬で水をかけ合って遊んでいる。
そしてその光景を少し離れた所で眺める僕。こうしているだけで日頃の疲れが癒えていくようだ。
「いやー、ほんと目の保養になるよなー」
僕の隣りではアスタがだらしない顔で、同じくセレナ達を眺めていた。いつの間のか戻ってきたらしい。
「特にセレナの破壊力はハンパねーな。あの反則ボディ、もはや兵器だ」
「……同感だ」
動く度に上下に揺れるセレナの胸を見ながら僕は答えた。
「ちっ、オメーはいいよな。いつでもあの尻を触り放題おっぱい揉み放題○○○舐め放題なんだからよぉ!!」
「い、いや、まだそういうことは全然してないって」
「まだってことはいつかはするつもりなんだろ!? そうなんだろ!?」
「……そりゃ、まあ」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーー!!」
いかん、アスタが壊れた。
「なんかすっげームカついてきた!! こうなったらオレと勝負だユート!! その勝負にオレが勝ったらセレナはオレのもんだ!! いいな!?」
どうしてそうなる。僕には何のメリットもないし。
「ちょ、ちょっと! 二人で何を勝手に決めてんのよ!」
アスタの声が耳に入ってきたらしく、セレナが慌てて駆け寄ってきた。
「ふっ。男と男の真剣勝負に口を挟まないでもらおうかセレナ。そしてこの勝負が終わった時、お前はオレのもんになるのさ!」
「そんなことしても無駄よ! だって……」
セレナは恥ずかしそうに頬を染め、チラリと僕の方を見る。
「だって、アタシはもう、ユート以外の男なんて考えられないし……」
「がっはあっ!!」
盛大に血を吐き、その場に倒れるアスタ。それを見た子供達がキャッキャと笑いながら砂をかけていき、アスタの首から下が砂山に埋まった。
「……ふ、ふふふ。なかなかやるじゃねーか。今のは結構効いたぜ……!!」
ただ自滅しただけだろ。
「だがセレナがどう思うが関係ねえ!! とにかくオレはセレナがユートのものになっちまったことが許せねーんだよ!! オレは必ずユートに勝ってセレナを奪ってみせる!!」
「あのねえ、アンタいい加減に――」
アスタの暴走を止めようとしたセレナを、僕は右手を出して制した。
「分かった。その勝負受けよう」
「っしゃあ!! そうこなくっちゃな!!」
砂山を破壊して立ち上がるアスタ。一方のセレナは驚愕の表情で僕を見ていた。
「どうしてこんな馬鹿げた勝負を受けるのよ!? あ、アタシの事なんて、どうでもいいってこと……?」
「そんなわけないだろ。ただアスタの気が済むまで付き合ってやろうと思っただけだ。セレナを渡す気なんて微塵もない」
僕がそう言うと、セレナは安心した表情を浮かべた。
「そういうことなら、まあ……。けど負けたら承知しないわよ!」
「分かってる」
こういった茶番は別に嫌いではない。それにアスタも本気で言ってるわけじゃないだろう……多分。
「で、勝負方法は? この前のように『先に足以外のどこかが地面に付いた方が負け』ってルールでやるか?」
「それでも構わねえが、せっかく海まで来たんだ。どうせならそれにちなんだ勝負をしようぜ」
「……ちなんだ勝負?」
「つーわけで第一回戦は……ビーチバレー対決だあああああ!!」
砂浜にビーチバレー用のネットが設置され、それを挟んで僕とアスタが対峙する。これが終わったら続けて第二回戦と第三回戦を行い、先に二勝した者がセレナを真の彼女にできる、ということらしい。改めて考えても僕に何のメリットもないな。
「先に五ポイント取った方の勝ちだ! いいな!?」
「ああ」
僕は適当に頷いた。念のため水着に着替える前に【弱体化】でステータスは下げてきてあるので、誤ってアスタに大怪我を負わせたりすることはないだろう。
「それではビーチバレー、スタート」
審判のスーによって開始が宣言される。サーブはアスタからである。
「覚悟しなユート。かつて〝ボールに愛された男〟と言われたオレ様の実力を思い知らせてやるぜ!! 呪文【電撃祭】!!」
バチバチと電撃をボールに纏わせるアスタ。それアリかよ。
「くらえ!! スーパーアルティメットエレクトリックサーブ!!」
アスタから強烈なサーブが放たれる。大口を叩くだけあってかなりのスピードだが、僕にはシャボン玉と同じくらいゆっくり動いて見える。僕は軽くそのボールを打ち返した。
「ぷぎゃっ!!」
するとボールはもの凄いスピードでアスタの顔面に直撃し、風船のように破裂した。ドサッと砂浜に倒れ、目を回して気絶するアスタ。
どうやらパワーが強すぎたようだ。まだ力の調整は完璧とは言えないか……。
「アスタ、戦闘不能。ユートの勝ち」
審判のスーが判定を下した。もはやルールが変わってるけど、勝ったからいいか。
「第二回戦は……水泳対決だあああああ!!」
海岸に立つ僕とアスタ。およそ1km先には大海原に浮かぶ小さな孤島が見える。先にあの島に着いた方が勝者となる。泳ぎはあまり得意な方ではないが、問題はないだろう。
「降参するなら今の内だぜ? かつて〝海に愛された男〟と言われたオレ様が負けるはずねーからな!」
色々愛されすぎだろ。
「よーい、ドン」
スーの合図によって、僕とアスタは海に飛び込んだ。アスタは華麗なクロールでどんどん先を進んでいく。海に愛されているかはともかくとして、その泳ぎは素人目から見ても大したものであった。
「何やってんのよユート!! このままじゃ負けちゃうわよ!!」
未だにスタート地点で呑気に浮いている僕を見かねたのか、後方からセレナが発破をかけてきた。心配されなくても負けるつもりなど毛頭ない。
僕は大きく息を吸って海に潜り、両足で強く水を蹴り上げた。すると僕の身体は水の抵抗など者ともせず、ジェット機のように海中を突き進み、あっという間に孤島まで辿り着いたのであった。
「第三回戦は……スイカ割り対決だあああああ!!」
「いや、もう僕が二回勝ったんだから対決する意味ないだろ」
「うるさい黙れ!! この対決に勝った方は10000ポイント獲得できるんだよ!!」
どこのバラエチィ番組だよ。アスタの往生際の悪さには感心すら覚えてしまう。まあいいか、本人の気が済むまで付き合うって決めたことだし。
しかし困った。これまでの勝負はパワー押しでなんとかなったが、スイカ割りにパワーはほとんど関係ない。主に〝直感〟に頼った勝負となる。
流石の僕もスイカの気配まで察知することはできない。アスタめ、考えたな……。