第122話 水着回?
「さて。アスタは放っておくとして、早速準備するとしよう」
「準備?」
「さっき自分で言っただろう、海水浴と。海で泳ぐのに水着に着替えないでどうする」
「……水着、か」
思わずセレナの方に目が行き、ゴクリと喉が鳴る。モデル顔負けのスタイルのセレナが水着を着たら、一体どれだけの破壊力を生み出してしまうのか。
「……ユート、今エロいこと考えてるでしょ」
セレナがジト目で僕を見ていることに気付く。しまった見抜かれた。
「い、いや? 別に何も考えてないけど」
「思いっきり顔に出てるけど。ま、いいけどね。ユートが変態なのは最初から分かりきってたことだし」
するとスーがちょんちょんと僕の肩を突き、耳元に顔を近付けてきた。
「ここだけの話、昨日水着を買いに行った時、セレナは五時間くらいどれを買うか悩んでた。『ユートが一番気に入りそうな水着ってどれだろ……』って何度も呟きながら」
「こらスー!! 話を捏造するのはやめて!!」
「捏造なんてしてないけど」
「もー!! スーのバカバカバカー!!」
ポカポカとスーの背中を叩くセレナ。スーは相変わらずセレナをからかうのが好きなようだ。
「あの、すみませんサーシャさん。私、水着を持ってきてなくて……」
申し訳なさそうにリナが手を挙げる。海水浴なんて知らなかったわけだから持参してないのは当然だ。
「それなら心配ない。リナの為に水着は何着か買ってきてあるから、その中から選んでもらう形になる。好みの水着がなかったら申し訳ないが」
「あっ、いえ! 私なんかの為にありがとうございます! そもそも私、水着なんて着たことがないですから、よく分からなくて……」
「へー、珍しいわね。それじゃ泳ぐのも今日が初めてなの?」
「はい。恥ずかしながら……」
まあリナはずっと奴隷として生きてきたわけだから無理もないか。それを考えるとサーシャに騙されてまで海に来た甲斐はあったかもしれない。
するとスーがリナの肩をポンと叩き、無表情のままグッと親指を立てた。
「安心してリナ。私がリナの水着を選んであげるから」
「本当ですか! ありがとうございます、心強いです!」
無邪気に喜ぶリナ。なんだか嫌な予感しかしないけど、男の僕が選ぶわけにもいかないし、ここはスーを信じよう。
「……で、僕の水着は?」
「お前は自分でなんとかしろ」
この扱いの差である。まあ僕には【創造】の呪文があるので水着くらいどうにでもなるし、サーシャもそれを分かった上で言ったのだろう。後でこっそり生成するか。
それから僕は別荘の空いている部屋を適当に借り、そこで生成した海パンに着替えて再び海辺に出た。
「いいか皆、絶対に足の付かない所まで行くんじゃないぞ」
「はーい!」
そこでは早くも水着を着た子供達が砂浜で小山を作ったり浮き輪を付けて泳いだりして楽しそうに遊んでおり、それをサーシャが監視員のように見張っている。まだセレナ達の姿は見えない。
「……サーシャは着替えないのか?」
未だに私服姿のサーシャに僕は聞いてみる。
「なんだユート、そんなに私の水着姿に期待していたのか?」
「……生憎、六歳児の身体に興味はなくてな」
今のサーシャは【急成長】の呪文で大人の姿になっているとはいえ、実年齢を考えるとそういう目で見てはいけないと僕の本能がブレーキをかけていた。
「私には子供達を見守るという大事な役目があるからな。最初から泳ぐつもりがないのなら水着になってもあまり意味はないだろう」
「……でもせっかく海まで来たんだし、サーシャだって泳ぎたいだろ? 子供達の見張りなら僕も交替でやってやるからさ」
「気持ちは嬉しいが、本当にいいんだ。何故なら……」
「何故なら?」
空虚な笑みを浮かべながら、静かに海を見つめるサーシャ。
「私はな……カナヅチなんだ」
「……それなら仕方ないな」
自分が泳げないのを承知で皆を海に連れてきたのかと思うと、なんだか少し同情してしまう。ま、皆が楽しければそれで良いというスタンスなのだろう。
「……ユート」
背後からセレナの声がしたので、僕は振り返る。その瞬間、僕は目の前の光景に釘付けになってしまった。
今にもこぼれ出しそうな胸。素晴らしいとしか言いようがない身体のライン。セレナの水着姿に、僕は一瞬で目と心を奪われてしまった。
「な、何よ? 言いたいことがあるならハッキリ言ったら?」
セレナは恥ずかしそうに頬を赤らめ、それが更に水着の威力を倍増させる。気が付けば僕の頬には涙が伝っていた。
「僕……生きててよかった……!!」
「泣くほど!? ちょ、ちょっと! これじゃアタシもどう反応したらいいか分かんないじゃない!」
今日死んだとしても悔いは残らないだろう。それほどまでに僕は感極まっていた。
「……ごめん。あまりに似合ってたから感動してしまった」
「そ、そう? ま、ユートのことだからどうせエロいことしか考えてないだろうけど、一応お礼は言っておくわ」
満更でもさなそうにセレナは言った。
「ところでリナとスーは? まだ着替え中か?」
僕がそう聞くと、セレナはやや不機嫌そうな顔になった。
「もうすぐ来ると思うけど……何? アタシより二人の水着に興味があるの?」
「えっ!? いや別にそういうわけじゃ……」
「ふん」
プイッと顔を逸らすセレナ。些細なことで嫉妬するセレナもまた可愛い。まあ実際のところ、二人の水着に全く期待していないと言ったら嘘になるわけだけど。
「お、お待たせしました……」
「お待たせ」
背後からリナとスーの声。それでもセレナの水着の威力を上回ることはまずないだろう。そんなことを思いながら振り返ると――
「ぶーっ!?」
僕は全力で噴き出した。スーの水着は至って普通だが、問題はリナの方だ。布地が明らかに少なく、必要最小限の部分しか隠れていない。もはや水着ではなくただの紐であり、ほとんど全裸と変わらない。当然本人の顔は茹で蛸のように真っ赤である。
「どど、どうしたリナ、その格好は!?」
「は、初めて水着を着る女性は、通過儀礼としてこのような水着を着る決まりがあると、スーさんが言ってましたから……」
「おいスー!! リナに嘘の知識を吹き込むのはやめろ!!」
「ええっ!? う、嘘なのですか!?」
やっぱり嫌な予感が的中した。もちろん悪いのはスーなんだけど、リナもリナで少しは疑うべきだろうに。純粋すぎるというのも困りものだ。
「騙したことは謝る。だけどユートもこういうのは嫌いじゃないでしょ?」
「そ、そりゃあ……」
否定できないのが悲しいところである。
「しょ、正直恥ずかしくてどうにかなりそうですけど、お兄様に気に入っていただけたのでしたら、私、こ、この水着で頑張ります!」
「リナがそう言うなら――っていや駄目だろ!! ここには子供達もいるしあまりにも刺激が強すぎる! 今すぐ別の水着に着替えてきなさい!」
「は、はいっ!」
リナは身体にタオルを巻き、急いで別荘の方に戻っていった。
「負けた……完全に……」
すぐ傍では何故かセレナが絶望の表情で膝をついていた。




