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HP9999999999の最強なる覇王様  作者: ダイヤモンド
第7章 反逆のラファエ編
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第119話 ユナとペータ

「先程お前は〝結果的に〟と言ったな。つまり少なくとも、その決意を口にした時のお前の覚悟は本物だったのだろう?」

「そ、それはもちろん……」

「ならば何の問題がある。妹を殺したくないと思うのはごく普通の感情だ。それが唯一残された家族であるならば尚更だろう。よってこの件はこれで終わりだ」

「……っ」



 ユナは目を潤ませながら、その場で膝をついた。



「ユート様の海よりも深い慈悲、痛み入ります。ですが、七星天使が我々の敵であることに変わりはありません。次にミカが私の前に立ちはだかった時、私はどうすべきなのでしょうか……」

「それは余が口を挟むことではない。お前自身で答えを見つけるしかないだろう」

「私、自身で……」

「そうだ。お前がどのような答えを出そうと、余がそれを咎めることはない」



 いや、そもそも咎める権利もない。元々ユナとミカの関係は、僕なんかが踏み込めるような領分ではないからだ。仮に僕がこうしろと命令し、ユナがそれに従うだけでは、きっと後悔することになるだろう。



「ところで一つ質問だが、先程『ペータのおかげで命を救われた』と言ったな。その時ペータにお前達の関係を知られたりしてないか?」



 ユナとミカはとても容姿が似ているし、ペータに何か勘付かれたとしてもおかしくないだろう。そしてユナが悪魔と天使の間に生まれた子だということも。



「そのことなのですか……」

「ふっふっふ。全部知ってるっすよ!」



 突然柵の後ろからヒョコッとペータの顔が出てきたので、思わず僕は声を上げそうになった。いつからそこにいたんだ。



「ペータ!? 何してるのそんな所で!?」

「二人の話が気になったからこっそり聞いてたんすよ!」



 無邪気な顔でストッと柵から着地するペータ。この僕が気配を察知できなかったとは……やるなペータ。



「私はともかく、ユート様のお言葉を盗み聞きするなど許されることではない! ユート様、どうかペータに重い処罰を!」

「……まあ、今回は許そう。しかし次からこういうことは控えるようにな」

「御意っす!」



 ビシッと敬礼のポーズをするペータ。それに対し、ユナはいかにも納得のいかない様子を見せる。



「わ、私が言えたことではないですが、ユート様は配下に寛容すぎるところがあると思います。それがユート様の美点でもありますけど……」

「ん? お前は余に不満でもあるのか?」

「め、滅相もございません! ただその、あまり寛容すぎるとペータのように調子に乗る輩が出ないかと不安に思っただけです!」

「むっ。別にウチは調子に乗ってるつもりはないっすよ!」



 ユナの言いたいことは分かるけど、かと言って圧政を敷くのは僕の性に合わないし、前世の僕も人の上に立って皆を仕切るような器じゃなかったしな。むしろ友達のように接してくれるのが一番だけど、覇王という立場上それは厳しいか。



「話を戻すが、ペータはユナの妹が七星天使であることは知っているのだな?」

「はいっす! ユナを助けた直後に城の崩壊が始まったから戦うことはなかったっすけどね。ウチが助けに来なかったらユナは妹に殺されてたっすよ。つまりウチはユナの命の恩人というわけっす!」



 エヘンと小さな胸を張るペータ。ユナはどこか歯痒そうな顔を浮かべる。



「ではユナとミカが悪魔と天使の間に生まれた子であることも知っているのだな」

「えっ!? そうなんすか!?」



 あ、しまった。そこまで考えが及んでなかったのか。



「……すまぬユナ。お前の秘密を洩らしてしまった」

「い、いえ。いずれ知られていたと思うので……」



 僕が申し訳ない気持ちでいっぱいになっている一方、ペータは腕を組んで納得したように頷いていた。



「なるほどなるほど。なんで悪魔ユナの妹が天使なのかとずっと疑問に思ってたっすけど、それなら辻褄が合うっすね。なんかスッキリしたっす!」

「……な、なんとも思わないの?」

「え? 何がっすか?」



 恐る恐る尋ねるユナに対し、キョトンした顔でペータは言う。



「悪魔と天使の血が半分ずつ流れてるなんて、嫌悪して当然でしょう? しかもそれが四滅魔の一人だなんて……」

「そうっすか? ウチは全然気にならないっすけどね。悪魔だろうと天使だろうと、ユート様に忠誠を誓っているのなら何も問題ないと思うっすよ?」

「ペータ……」

「というか一つの身体に二つの血を宿してるなんて、厨二っぽくてカッコイイじゃないっすか! むしろ憧れちゃうっすよ!」



 するとユナは泣きそうな顔で、ペータの身体を勢いよく抱き締めた。



「えっ!? なんすかなんすか!? もしかしてユナって〝そっち〟だったんすか!?」

「違うわよ馬鹿! お願いだから今は黙って抱き締められなさい!」

「は、はあ……」



 戸惑い顔のペータ。幼い頃に両親を殺され、ずっと自分の出生に劣等感を抱いてきたユナにとって、ペータのあどけない優しさは心に染みるのだろう。数十秒後にようやくユナはペータを解放した。



「ペータ。分かってると思うが、このことは……」

「はい、誰にも言わないっすよ! これでもウチは口が堅いっすから!」



 これまでのペータの行いから考えるとあまり説得力はない気がするけど、とりあえずペータを信じるとしよう。



「特にアンリにだけは絶対に知らないようにしないとっすね。アンリってこういうことに凄く神経質なイメージがあるっすから」

「そうね……」



 苦笑するユナとペータ。これには僕も心の中で同意した。



「んんっ?」



 話も終わり、そろそろ大広間に戻ろうとした時。ペータが南西の空を見て目をパチパチさせていた。



「どうしたペータ?」

「なんか怪しげな鳥がこっちに向かって飛んできてるっす」

「鳥?」



 僕も南西に目を向けてみる。確かに一匹の鳥が覇王城に向かって一直線に飛んでくるのが見えた。体色は紫で、サイズは鳩と同じくらいである。



「如何なさいますかユート様? 念のため撃ち落としますか?」

「……いや、その必要はない」



 見た目こそ不気味ではあるが、あの鳥から邪悪な気配は感じられない。やがてその鳥はテラスの柵の上にピタリと止まった。



「今日の晩ご飯は焼き鳥で決まりっすね!」



 それはあんまりだろうと思いながら、僕はその鳥を観察してみる。すると鳥の足に一枚の紙が丸まった状態で括り付けられていることに気付いた。それを足から取り外すと、その鳥はパタパタと南西の空に帰っていった。



「あっ! 今日の晩ご飯が……」



 残念がるペータを余所に、僕はその紙を広げてみる。そこには次のような文章が書かれてあった。



『緊急事態が発生した。至急人間領に来てほしい。可能であればリナにも同行をお願いしたい。サーシャより』

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