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HP9999999999の最強なる覇王様  作者: ダイヤモンド
第7章 反逆のラファエ編
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第118話 ユナへの制裁

「すまぬアンリ。本日の余は体調が優れていない。何度も引き延ばして悪いが、また後日ということにしてほしい」



 ここは適当な嘘でごまかそう。すると衝撃の真実を突きつけられたかのように、アンリの目が大きく見開かれた。



「な、何故もっと早くおっしゃってくださらなかったのですか!? 至急覇王城の、いえ悪魔領全土の回復呪文の使い手を集結させ、24時間ユート様の介護に――」

「その必要はない。今のは冗談だ」



 内心動揺しながら僕は言った。そうだ忘れてた、アンリは極度の心配性だった。


 あまり下手な嘘はつかない方がいいな。そもそも本当に体調が悪かったとしても自分の呪文だけでどうにでもなる。



「……ユート様」

「なんだ?」

「わ、私の体型にご不満があるようでしたら、遠慮なくおっしゃっていただいて構いません。胸ですか? それともお腹周りでしょうか……?」



 目を潤ませながら、アンリは弱々しい声で言う。



「……何故そんなことを聞く?」

「ゆ、ユート様は、私の身体にあまり興味を示されていないと感じましたので……」



 まさかそう捉えられるとは。するとアンリは立ち上がり、今にも泣きそうな顔で僕に迫ってきた。



「胸に問題があるようでしたらバストアップに励みますし、お腹周りでしたら今まで以上に体重の減量に励みます!! それとも他にご不満な点が――」

「落ち着くのだアンリ。ひとまず余の話を聞いてほしい」

「ハッ! もも、申し訳ございません! つい取り乱してしまいました……!!」



 アンリは慌てて下がり、再び床に膝をつく。



「お前の身体に不満などあろうはずもない。お前の容姿とスタイルは余が見てきた女の中で一位二位を争えるだろう」



 これはお世辞でも何でもなく、僕の正直な評価である。するとアンリの表情は太陽のように明るくなった。



「ありがたきお言葉……!! し、しかしそれでは何故、ユート様は私の身体をお求めにならないのですか? ユート様に肉体を貪っていただける時を、このアンリは今か今かと心待ちにしているのです……!!」



 そりゃ僕も健全な男だし、アンリと疚しいことをしたいという感情が全くないと言ったら嘘になる。


 でも今の僕には心に決めた女の子――セレナがいる。だからセレナよりも先に他の誰かとそういうことをするというのは、なんだか罪悪感があった。



「…………」



 ふと、僕の脳裏にセレナの顔が浮かんだ。あれからセレナとは一度も会っていない。日数的には十日ほどしか経ってないものの、なんだか一年以上会っていないような感覚に襲われてしまう。


 セレナに会いたい。だけど僕はセレナのお姉さん達の魂を取り戻すと心に誓っていたにもかかわらず、それに失敗した。今の僕にセレナと会う資格はない……。



「ユート様、如何なさいました?」



 アンリの声で僕は現実に戻り、アンリと話してる最中だったことを思い出す。とにかく今はアンリとそういうことはできない。何か上手い言い訳を――



「よく聞けアンリよ。余は食事において好きなものは最後に食べる派なのだ」

「? と、言いますと……?」

「分からぬか? 一番の楽しみは最後にとっておきたいと言っている。今お前の身体を貪ってしまえば、その楽しみが消えてしまうではないか」



 僕の言葉の意味を理解したようで、アンリは絶頂の表情を浮かべた。



「そ、そうだったのですね!! そのようなお考えがあったとは知らず申し訳ございませんでした!! では来るべき時までこのアンリ、女としての魅力の向上に努めさせていただきます!!」

「うむ」



 これ以上アンリの魅力が向上したらどうなるのか興味があるが、とりあえずアンリの貞操を奪うことは避けられたので良しとしよう。


 そう僕が安堵していると、大広間の扉をノックする音がした。



「……失礼します」



 入ってきたのはユナだった。そういえばここ数日顔を見てなかった気がする。



「ユナか。余に何か用か?」



 僕がそう問うと、ユナはどこか思い詰めたような顔で口を開いた。



「ユート様とお話がしたいと思い……できれば二人だけで……」

「そうか。分かった」



 理由も聞かないまま僕は承諾した。ユナの声色から察するに、きっと重要な話なのだろう。



「まさかユナも私と同じく、ユート様に身体を捧げるつもりで……!?」



 多分違うと思う。




 僕とユナは大広間を出てテラスに向かった。内緒話をするにはこのテラスは些か不向きかもしれないが、ここは以前ユナが初めて自分の身の上を明かしてくれた場所なので、ここで話を聞くのがお誂え向きだと僕は考えた。



「それで、余に話とは?」



 周囲に誰もいないことを確認した後、僕はユナに尋ねる。短い沈黙の後、ユナはこう言った。



「ユート様。どうか私に処罰をお与えください」



 思いがけないユナの発言に僕は目を丸くした。何故そんなことを言うのだろう。少なくともユナが処罰を受けるようなことをやらかしたという報告は受けていない。僕の中で疑問が渦巻く中、ユナは言葉を続ける。



「十日前の七星天使との戦いで、私は妹を――ミカを殺めようとした時、無意識にその手を止めてしまいました。ユート様にミカと戦う決意を表明していたにもかかわらず、私は最後までミカと戦うことができなかったのです。ペータのおかげで命は救われましたが……」



 僕がセアルと戦ってる間に、ユナ達の間でそんなことがあったのか。



「この事を伝えるべきか、昨日までずっと悩んでおりましたが、やはりユート様に隠し事を抱えたままというのは耐えられず、今日になってようやく覚悟が固まりました。本当に申し訳ございません」



 ここのところ姿を見せていなかったのはそれが理由か。



「結果的に私はユート様に嘘の決意を表明していたことになります。それはユート様の配下として決して許されることではございません。ですからどうか、私に厳格なる処罰をお願いいたします」



 ユナの目は本気だ。覇王城から去れと言ったら去るだろうし、自害しろと言ったらアンリじゃなくても自害するだろう。



「確かに余への虚言はどのような理由があろうと許されることではない。よってこれよりお前に処罰を下す」



 僕はユナに向かって手を伸ばす。ユナは怯える様子もなく、ただ全てを受け入れるように、そっと目を閉じた。



「きゃっ」



 僕はユナの額にデコピンをした。思いの外可愛い声が出たな。



「処罰は完了した。どうだ、痛かったであろう」

「……え? え?」



 ユナの頭上にはいくつものクエスチョンマークが踊っていた。まったく、ユナは真面目すぎる。

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