第113話 セアルの最期
――七星の光城七階・エリトラVSキエル――
キエルと激しい攻防を繰り広げていたエリトラだったが、ユートからの念話をキャッチして動きを止める。キエルもほぼ同時に動きを止めた。
「……どうやら勝負はお預けのようだな」
城が崩壊していく音を聞きながら、キエルは呟く。
「この空間は悪魔達にとっては不利なフィールド……。次は対等な条件で戦いたいものだな」
「……ええ。その時が来るのを楽しみにしています」
エリトラとキエルの戦いは引き分けに終わった。
☆
――七星の光城三階・ユナ&ペータVSミカ――
「聞いたっすかユナ! ユート様から退避の命令っす!」
「……ええ」
時を同じくして、ユナとペータもユートからの念話をキャッチした。
「さっきから城全体がミシミシ言ってるっすからねー。城が崩れる前にとっととずらかるっす!」
これを聞いて、眉をピクリと動かすミカ。
「逃げるのお姉ちゃん? まだ勝負はついてないよ?」
「いや何言ってんすかアンタ! もう勝負どころじゃないって分からないっすか!? アンタも瓦礫の下敷きになりたくなかったら早く逃げることっすね!」
するとミカは小さく息をついた。
「ま、いいや。なんか邪魔者が入ったりしたし、このままお姉ちゃんを殺しても後味悪いだけだから」
「誰が邪魔者っすか!! ウチだってあまり活躍できなくて不満溜まってるんすよ!!」
そんなペータを無視し、ミカは暗い笑みをユナに向ける。
「一旦お別れだね、お姉ちゃん。次に会った時は――必ず殺してあげるから」
そう言い残し、ミカは一足先にこの場から退散した。
「いやあ、あの子のユナへの殺意ハンパなかったっすね。妹さんとの間に何があったんすか?」
「そ、それは……」
「っと、今はそんなこと話してる場合じゃなかったっす! ほら早く背中に乗るっす!」
ペータはユナに背中を向け、その場にしゃがみ込む。ユナは申し訳なく思いながら、ペータの背中に身体を預けた。
「……ありがとうペータ」
「お礼なんていいっすよ。でもユナ、ちょっと重くなったっすか?」
「はっ!? な、何言ってんのよそんなわけないでしょ!?」
「冗談っすよ。振り落とされないようにしっかり掴まってるっす!」
深手を負ったユナを背負い、ペータは城から脱出した。
☆
僕は【瞬間移動】を使い、『七星の光城』から少し距離を置いた場所に転移する。程なくしてアンリ達四人も城から抜け出してくるのが見え、僕の前に集結した。
「遅れて申し訳ございません、ユート様!」
「よい。全員無事で何よりだ」
僕は心の底から安堵した。とりあえず一人も欠けることがなかったのは良かった。アンリとペータはほぼ無傷だが、エリトラとユナは深い傷を負っており、特にユナの状態が深刻だ。早く回復してあげなくては……。
「!」
すると『七星の光城』全体が激しい音と共に崩れて落ちていき、やがてその全てが瓦礫と化した。あと少し脱出が遅れていたら大変なことになってたな。残りの七星天使も既に脱出済みだろう。
「…………」
僕は無意識に拳を握りしめた。セアルを倒すことはできたものの、肝心の『魂の壺』の破壊に失敗してしまった。これではセレナ達に顔向けできない……。
「ユート様、これから如何なさいますか? 七星天使の生き残りを追いますか?」
アンリに聞かれ、僕は考える。今も僕達はこの空間によるダメージを着実に受け続けている。これ以上この空間に留まっていたら、僕はともかくアンリ達の身体にどのような変調をもたらすか分からない。
アンリ達を先に地上に帰して僕だけ残ろうかとも思ったが、アンリ達の忠誠心の高さを考えると絶対に私達も残ると言い出すだろう。そもそも残りの七星天使がどこに逃げたのか、そして本物の『魂の壺』がどこにあるのか、今の僕には分からない。となれば――
「撤退するぞ。これより覇王城に帰還する」
僕は決断を下し、地上へ戻ることにした。こうして七星天使との第一次戦争は終結したのであった。
☆
ユート達が『七星の光城』から撤退した後のこと。瓦礫と化した『七星の光城』の上を歩く一人の男がいた。それはキエルだった。
「!」
瓦礫に埋もれたセアルの姿がキエルの目に止まる。キエルは静かに歩み寄り、周囲の瓦礫を一つずつ取り除いていく。
「セアル……」
キエルは優しくその名を呼んだ。覇王に敗れ、変わり果てた姿となったセアル。既に【最期の灯火】の効力も切れ、その身体は徐々に消滅が始まっていた。
「……キエル……か……?」
キエルの声に気付き、セアルはうっすらと目を開ける。
「ああ、俺だ」
「……すまんな……もうお前の顔も見えない……」
そう言って、セアルは力無く笑ってみせる。
「これが……世界の平和を求め続け……その理想を打ち砕かれた者の結末じゃ……笑いたければ笑え……」
「お前は最期まで己の信念を貫いた。その生き様を笑う者がどこにいる」
「……ふっ……お前らしいな……」
セアルは最後の力を振り絞り、キエルの方に手を伸ばす。
「手を……握ってくれないか……?」
キエルは何も言わず、セアルの手を力強く握りしめた。
「キエル……皆のこと……頼んだぞ……」
「……ああ」
「ミカは身体が弱い……お前が守ってやってくれ……。ラファエは優しすぎる一面がある……常に支えてやってほしい……。ガブリは色々問題が多い……何かしでかしそうになったら殴ってやれ……」
「……ああ」
「ま……一番の問題児はお前じゃがな……。バイトは程々しておくんじゃぞ……」
「……ああ」
セアルは安心したように微笑む。しかしその笑顔も、塵となって消えていく。
「……なんだか……眠くなってきたな……。そろそろ……逝くとするか……」
セアルの目がゆっくりと閉じていく。
「……じゃあな……キエル……」
キエルはそっと手を伸ばす。だがその時にはもう――セアルの身体は、そこにはなかった。
「……セアル……お前の遺志は……必ず……!!」
キエルの頬には、一筋の涙が伝っていた。
ご愛読ありがとうございました。これにて本作品は完結となります。
……というのはもちろん冗談でまだまだ続きますよ! 次回から新章「反逆のラファエ」編がスタートします!
構想はだいぶ先まで練ってあるので、あとは自分のモチベーション次第ですね。
そしてこのモチベーションは、読者の皆様からのブックマーク、評価、感想によって成り立っております。
というわけで、何卒よろしくお願いします……!
また最近なにかと忙しいので感想の返信が疎らになっておりますが、ちゃんとチェックはしておりますので、これからも感想をいただけると嬉しいです。
ではでは、今後とも「HP9999999999の最強すぎる覇王様」をよろしくお願いします!