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HP9999999999の最強なる覇王様  作者: ダイヤモンド
第6章 第一次大戦編
110/227

第110話 自害の極致

 空を見上げると、一個の巨大な隕石が驚異的な速度で飛んでくるのが見えた。標的は当然僕である。



 これをまともに喰らうのはまずい。だがこれを僕が回避すれば、下の階にいるアンリ達まで巻き込んでしまう。ここは下手に呪文で対抗するより、ATK99999の僕のパワーで確実に相殺する!



「ぬうん!!」



 僕は飛んできた隕石に自らの拳をぶつけた。凄まじい衝撃波が巻き起こり、床に亀裂が生じる。



「ぐっ……おおおおお!!」



 僕は隕石を粉々に破壊した。だがその反動は小さくなく、HPが大幅に削られると共に右腕に激痛が走った。僕が痛みを感じたのはいつ以来だろうか。



「隕石をも破壊してしまうとはな。もはや驚きを通り越して感心すら覚えてしまう」

「……ふっ。石ころ一つで余を殺せると思うな」



 僕は思わず笑みをこぼす。想像以上の展開に、僕の胸は確実に高揚していた。戦いの中でこのような感情を抱いたのは初めてかもしれない。



「長々と遊ぶつもりはなかったが……面白い。貴様の執念は称賛に値する」



 死人にはHPが存在しない。よっていくらダメージを与えたところで意味はない。こいつを止めるには身体を四散させる以外に方法はないだろう。だが――



「【最期の灯火】の効力は十分と言ったな。ならばその十分は貴様にくれてやる」

「……何?」

「生憎死体蹴りの趣味はないものでな。十分だけチャンスをやると言っている。その僅かな時間で余を滅ぼしてみせよ」



 僕の言葉を受け、セアルの口角が上がる。



「言ってくれるではないか。その余裕がいつまで続くか楽しみだ……!!」



 僕は最期まで付き合うことに決めた。セアルの信念に敬意を表して。




  ☆




 ――七星の光城五階・アンリVSイエグ――



「呪文【黄金津波】!!」



 イエグの周囲の金塊が全て液状化し、波となってアンリに襲い掛かる。しかしアンリは驚異的な跳躍力で難なくそれをかわし、その勢いを保ったままイエグの身体を自害剣で切り裂く。しかしやはりイエグは傷一つ負っていない。



「何度も何度も無意味な攻撃を……。一体何がしたいのかしら?」

「さあな」



 アンリはイエグの度重なる攻撃をかわし続け、イエグは自害剣によってダメージを受けないので、戦局は最初の状態からほとんど変化がないように見える。だが――



「……そろそろ頃合いか」



 小さく呟くアンリ。そして再び剣を構え、イエグに向かって駆け出した。



「甘いわよ!!」



 イエグは素手でアンリの剣を受け止めた。何度もアンリの攻撃を受け続けたおかげで、ついにイエグの目はアンリの動きを捉えた。



「自分を傷つけることはできても他人を傷つけることはできない……。その剣の効果がそれだけのはずがないわよね?」

「くっ……」



 アンリの頬を汗が伝うのを見て、イエグは不敵に微笑む。



「どうやら図星のようね」



 イエグの【金色世界】は周囲の物体を金塊に変える力。よってアンリの自害剣も金色に染まっていく。アンリは素早く後ろに跳んだものの既に手遅れであり、自害剣は完全に金色に染まってしまった。



「ふふっ、美しい剣になったじゃない。そして【金色世界】によって金塊に変わったものは全て私の思いのまま。つまり――」



 パチンと指を鳴らすイエグ。それを合図にアンリの自害剣は粉々に砕かれてしまった。



「あははははは!! その剣にどんな効果があって何を狙ってたのか知らないけど、これで貴女の目論みはパーよ!!」

「……ふっ」



 高らかに笑うイエグに対し、アンリは静かに笑みをこぼした。



「あら、何がおかしいのかしら?」

「おかしいに決まっている。なんせそのような無意味な深読みで得意気になっているのだからな」

「……何ですって?」

「お前は自害剣に他にも何か効果があると読んだようだが、そんなものはない。自分も傷つけることはできても他者を傷つけることはできない、本当にただそれだけの剣だ」



 アンリの言葉に、イエグは眉をひそめる。



「仮にそうだとして、それじゃ貴女は何の為に私を斬り続けていたというの?」

「……どうやら説明が必要なようだな。私が自害剣を出した直後に【界層低下】という呪文を唱えたのを覚えているか?」

「界層低下……?」



 イエグは自らの記憶を辿ってみる。



「まあ、確かにそんな呪文を唱えていた気もするわね。それが何だというの?」

「まだ気付いていないとはな。自分のステータスを確認してみるがいい」

「ステータス……? なっ!?」



  イエグ Lv287



 イエグはステータスの一行目を見て驚愕した。HPやその他のステータスは一切変動していないが、999あったレベルが300近くまで減っていたのである。



「どういうこと!? 何故私のレベルが……!?」

「【界層低下】は端的に言えばレベルを減少させる呪文。私はこの呪文を自害剣に纏わせていた。つまりお前が自害剣に斬られる度に、お前のレベルは下がり続けていたんだ」

「……ふっ。ふふふふふ……!!」



 イエグは顔に手を当て、不気味に笑い出す。



「尚更理解に苦しむわね。レベルだけ下げて一体何の意味があるというの?」

「私の所持呪文の中に【自害強要】というものがある。これはその名の通り、相手に自害を強要する呪文だ。ただしレベル300未満の者にしか効果がないという欠点がある」

「へえ、怖ろしい呪文ね。でもレベル300未満の相手にしか使えないなら私には何の意味も――」



 イエグの言葉が止まる。その顔はみるみるうちに真っ青になった。



「……理解したようだな」

「ま、待って!! こんな、こんなことで私が……!!」

「呪文【自害強要】。自害せよイエグ」



 アンリの無慈悲な呪文が発動する。間もなくイエグの身体が勝手に動き出し、自らの能力で金塊を槍に変え、自らの心臓に突き立てる。



「た……助けて……!!」

「最後にもう一度言っておこう。私は決して自らの手で他者を殺すことはしない」



 アンリは自分の胸にそっと手を当てる。



「何故ならこの肉体は、いずれユート様の寵愛を受けるもの。それが〝殺しの咎〟に染まっていたのでは、ユート様の品位を下げてしまいかねない……」



 頬をほんのり赤く染めながらアンリは言った。



「こんなの……こんなの全然……美しくないいいいいいいいいいい!!」



 ドシャッ。イエグの心臓を金色の槍が貫く。イエグは血を吐きながら倒れ――その肉体は塵となって消滅した。



「価値観の相違だな。私の目には自害の瞬間こそ最も美しく映る……」



 七星の光城五階・アンリVSイエグ  勝者――アンリ

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