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HP9999999999の最強なる覇王様  作者: ダイヤモンド
第6章 第一次大戦編
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第107話 エンターテイナー

 エリトラが胸ポケットから一本のナイフを取り出し、クルクルと空中で回転させる。するとそのナイフは空中で二本に増え、エリトラはそれらを華麗にキャッチ。それを繰り返し、ナイフは四本、八本と増えていく。



「……それも何かの呪文か?」

「いえいえ、これは単なる手品でございます。ただしナイフには毒が塗ってあるのでご注意を」



 エリトラは左手に掴んだ四本のナイフをキエルに向かって投げる。するとキエルの目の前に土の壁が形成され、四本のナイフを防いだ。続けてエリトラは右手に掴んだ四本のナイフを投げるが、それらも土の壁によって防がれてしまう。



「残念だが、その程度の小細工ならやるだけ無駄だ」

「それはどうでしょう? 視線誘導ミスディレクションは手品の基本の一つですからね」

「……何?」



 先程エリトラがシルクハットから出した二匹の鳩。その鳩達はキエルの斜め後方でパタパタと飛んでいる。すると突如として鳩達の姿がナイフに変わり、キエルに向けて放たれた。


 それは完全にキエルの不意を突いた攻撃だった。しかしすかさずキエルの背後に土の壁が形成され、二本のナイフはその壁に埋もれてしまった。



「おや? 今の攻撃は完全に貴方の意識の外だったはず。何故それが防がれる……?」

「どうやらお前は勘違いをしているようだな」

「……勘違い?」

「この土壌は俺の意志で動かしているわけではない。土壌自らの意志で腕を形成してお前を攻撃し、壁を形成して俺を守ってくれている。これが俺の【土壌領域】の力だ」

「……この土壌は生きているとでも言うのですか?」

「ま、そういう考えもアリだな」



 すると天井、壁、床、あらゆる方向から何本もの土の腕が形成され、一瞬にしてエリトラを取り囲んだ。



「さあ、果たしてこの数を先程の【攪乱箱】で回避できるか?」

「……無理ですね」



 エリトラは諦めたのか、肩の力を抜いて大きく息をつく。直後、土の腕が一斉に襲い掛かり、エリトラは叩き潰されてしまった。



「意外とあっけなかったな――と言いたいところだが、この程度でやられるようなタマではないだろう」



 床の一部がモコモコと動いている。やがてそれは大きな穴となり、そこから煙と共に直方体の箱が出現した。



「……やはりな」



 不敵に微笑むキエル。やがてその箱がゆっくりと開き、中からエリトラが姿を現した。



「ジェネシーーーーース!! これぞ奇術師エリトラの大脱出ショーでございます!」



 両手を大きく広げるエリトラに、キエルは惜しみない拍手を贈った。



「お見事。敵ながらアッパレだ」

「ホホホ。楽しんでいただけたようで何よりです。しかし我のショーはここからが本番ですよ。呪文【幻想分身】!」



 パチンと指を鳴らすエリトラ。するとエリトラが一人から二人、二人から三人と増えていき、最終的には五十人以上にまで増えた。



「さあ、本物の我を当てることができますか!?」



 全てのエリトラが胸ポケットからナイフを取り出し、キエルに襲い掛かってくる。



「……これは厄介だな」



 それに反応するように土の腕が何本も形成され、エリトラの分身を次々と叩き潰していく。しかしエリトラの数は土の腕が対処できる範囲を明かに超えていた。


 その隙にエリトラの本体がキエルの頭上を舞う。それに瞬時に気付くキエルだったが、避ける間も呪文を使う間もなく、キエルは咄嗟に右腕を上げて防御する。



「腕一本、いただきますよ!」



 キエルの右腕を斬り落とすべく、エリトラはナイフを勢いよく振り落とした。



「!!」



 しかしそこでエリトラは驚愕の光景を目の当たりにする。キエルの腕を斬り落とそうと振り下ろしたナイフは、キエルの皮膚を数ミリ程度刻んだにすぎなかった。その腕はまるでダイヤモンドのような固さだった。



「悪いな。ナイフ一本で差し出せるほど俺の腕は安くはない」

「……化け物ですか」



 そのままキエルは左手でエリトラの腕を掴む。そして右手の拳に力を込め、エリトラの腹部に炸裂させた。



「がはっ!!」



 隕石が衝突するようなキエルの一撃にエリトラの身体は吹っ飛ばされ、後方の壁に激突した。



「俺の所持呪文の数はセアル達に比べたらかなり少ないが、ATKとDEFは七星天使の中で最も高い。屈強な身体こそ戦士である証だからな」



 その時キエルは自分の右腕が麻痺し始めていることに気付いた。右腕の傷口を見ると、そこから皮膚がジワジワと紫色に染まっていくのが分かる。



「そういえばナイフには毒が塗ってあるとか言っていたな。全身に毒が回ればいくら俺でも厳しいだろう。その前に決着をつける必要がありそうだ」



 キエルは土の壁に大きくめり込んだエリトラに目を向ける。



「……もっとも、奴がまだ生きていたらの話だが」



 エリトラの身体が壁から剥がれ落ち、ドサッと床に落下する。しかしエリトラはなんとか身体を起こし、右手で腹部を押さえながら立ち上がった。



「ほう。俺の渾身の一撃を喰らってまだ立てるとは感心だ。流石は覇王の配下といったところか」

「……ホホホ。ショーを途中で投げ出しては奇術師失格ですからね。ピンチを演出してこそエンターテイメントというものです……!!」



 仮面の隙間から流れ出る血を拭いながら、エリトラは言った。




   ☆




 ――七星の光城最上階・覇王VSセアル――



「命を貰う前に一つ聞いておこうか。貴様らは何の為に人間共の魂を狩っている?」



 セアルの背後に置かれた『魂の壺』に目を向けながら、僕はセアルに問う。七星天使が人々の魂を集めている目的は既にラファエから聞いていたが、それが真実かどうか念の為確認しておく必要がある。



「『幻獣の門』の封印を解き、幻獣を復活させる為じゃ。門の封印を解くには1000の人間の魂を生贄に捧げる必要があるんじゃ」

「そして復活させた幻獣の力を利用して余を滅ぼす……という算段か」

「察しが良いな。だが貴様がここに現れた以上、ワシが直々に戦うしかなくなってしまったがな」



 やはりラファエが話していた通りか。



「貴様が【魂吸収】の呪文を他の七星天使にも付与し、魂を狩らせていたことは知っている。ガブリという男が丁寧に教えてくれた」



 僕がそう言うと、セアルは呆れたように溜息をつく。



「あいつめ、余計なことを……。お前の言う通り、ワシは【能力共有】によって他の奴にも【魂吸収】の呪文を与えていた」

「【能力共有】……。【能力付与】の上位互換、といったところか」



 僕が所持している【能力付与】の場合、他者に与えた呪文は自分の中から消えてしまうので、付与というよりは譲渡と言った方が近い。現にリナに与えた【災害光線】は僕の中からなくなっている。また同時に複数の者に与えたりすることもできない。



「あながちそうとは言えんさ。【能力共有】はその呪文の所持者が死んだ場合、もしくは何らかの原因でその呪文を失った場合、他者に与えた呪文も全て消えるという欠点があるからな」

「……それは本当か?」

「おっと、うっかり口が滑ってしまった。おそらく人間と悪魔を含めても【魂吸収】を使えるのはワシ以外に存在しない。つまりワシがここで死ねば人間の魂を奪う手段はなくなってしまうというわけじゃ」

「……なるほど」



 良いことを聞いた。こいつが嘘をついていないことが大前提だが、セアルを葬りさえすればこれ以上人々の魂が奪われる心配はなくなるということか。

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