第100話 死の未来
おかげさまで100話までこれました。読者の皆様に感謝です。
一時間後。城内の会合部屋に、七星天使のセアル、キエル、ミカ、ラファエ、イエグの五人が集結した。
「ミカ、体調の方は大丈夫か?」
「……もう平気。迷惑かけちゃってごめん」
「気にするな。ラファエはどうじゃ? あの人間の男に気絶させられたと聞いたが」
「ぼ、僕も大丈夫です。ごめんなさい、僕が不甲斐ないばっかりに……」
「謝る必要はない。あの男の実力を見誤っていたワシにも責任がある」
それからセアルは一通り部屋の中を見回した。
「ガブリはまだ来ておらんのか。まったくあいつは……」
「それよりセアル。俺達をここに集めた理由を聞かせてもらおうか」
キエルの言葉を受け、セアルは小さく息をついた。
「そうじゃな。いつまでもガブリが来るのを待つというのも馬鹿らしいし、そろそろ話すとするか」
室内の空気に緊張が走る。やがてセアルは口を開けた。
「先程ワシの【未来予知】が発動し、この『七星の光城』に覇王とその手下四人が攻めてくる未来が視えた」
セアルの発言に、この場にいた全員が驚愕した。
「覇王がこの城に……!? 地上と『天空の聖域』を行き来する手段はゲートを使う以外にないはずじゃ……!?」
震える声でラファエが言う。
「そのゲートの情報が覇王側に洩れたのじゃろう」
「そんな、どうして……!?」
「ワシにも分からん。だがこの予知はあの人間の男に脱走を許した矢先に視えた……。今にして思えば、あの男は覇王と何らかの繋がりがあったのかもしれないな。それならあの強さにも納得がいく」
まさかユートが覇王そのものであることなど、セアルには想像もつかなかった。
「セアルよ。先程から口にしている〝あの男〟とは一体何だ?」
事情を知らないキエルがセアルに尋ねる。
「ワシが七星天使に加えようと城に連れてきた人間の男のことじゃ。見事に逃げられてしまったがな。名前は確かユートとかいったはずじゃ」
目を丸くするキエル。この場にいる五人の中で、唯一キエルだけがユートの正体を知っていた。
「……なるほど。俺が地上にいる間にそんなことがあったのか」
しかしキエルはそのことを告げ口したりはせず、ただ小さく笑みをこぼした。
「なんにせよ、この未来はワシの失態が招いたものじゃ。本当に申し訳ない」
セアルは皆に向かって深く頭を下げた。
「セ、セアルさんは何も悪くないです! 僕がもっとしっかりしていれば……!!」
「今は責任の庇い合いなんてやってる場合じゃないでしょ? これから攻めてくる覇王にどう対処するのかを考えるのが先決じゃない?」
「……イエグの言う通りじゃな」
セアルは頭を上げ、気持ちを切り替える。
「ワシが視た未来はそう遠くないものじゃった。おそらく明日にでも覇王は四人の部下を引き連れて攻めてくるじゃろう」
「それは困ったわね。『幻獣の門』の封印を解くのに必要な人間の魂はまだ半分も集まっていないんでしょ? 絶対間に合わないじゃない」
「ああ。覇王は復活させた幻獣を利用して倒すという計画じゃったが、こうなった以上はワシらで迎え撃つしかない」
強い決意に満ちた目でセアルは言った。
「僕達が覇王と……!? 勝てるんですか……!?」
「勝てる。と断言したいところじゃが、覇王の力はワシらの想像を遙かに超えている。どうなるかは戦ってみないと分からないじゃろう」
「……本当に明日攻めてくるのであれば、のんびりはしてられないわね」
「ああ。そこで早速皆には迎撃準備にとりかかってもらう。七星天使の誇りに懸け、この戦いは必ず勝たねばならない。全員覚悟はいいな?」
セアルの言葉にキエル、ミカ、イエグの三人が頷く。
「ラファエもいいな?」
「……はい」
少し遅れてラファエも力無く頷いた。
「ではこれより作戦を伝える。時間がないので急ごしらえの作戦になることは予め了承してほしい」
セアルは皆に作戦を伝え、解散を告げた。ミカ、ラファエ、イエグの三人は会合部屋から退室していく。しかしキエルだけはその場から動こうとしなかった。
「どうしたキエル? お前も早く自分の持ち場に向かえ」
部屋に残ったセアルとキエル。キエルは真剣な眼差しをセアルに向ける。
「その前に、一つ聞いておきたいことがあってな」
「なんじゃ?」
「お前が【未来予知】で視たビジョンは、覇王が四人の部下を引き連れて城に攻めてくる未来、それだけか?」
キエルの問いに、セアルはピクリと肩を揺らした。
「お前が俺に念話をした時、お前の声から鬼気迫るものを感じ取った。この俺が戦場(バイト先)からの離脱を決断せざるを得ないほどのな。お前の視た未来がそれだけだったのなら、そうはならなかっただろう」
「……何が言いたい?」
「他にも視えたのではないのか? 何か尋常ではない未来が」
「…………」
無言で互いの目を見るセアルとキエル。
「……幼馴染みというのは厄介じゃな。隠し事もままならないとは」
やがて溜息交じりにセアルが言った。
「やはり視えた未来はそれだけではないのだな」
「ああ。他の皆には秘密にすると約束できるなら、お前にだけは教えてやろう」
「……分かった。戦士の名において約束しよう」
暫しの沈黙の後、セアルは静かに口を開いた。
「覇王との戦いで、ワシら七星天使の中から複数の死者が出る未来を視た」
セアルの発言に目を見張るキエル。
「何人だ? 誰が死ぬ?」
「そこまでは言えんな。だが、お前ではないとだけ言っておこう」
そう言って、セアルはキエルに背中を向ける。
「キエルよ。この間人間領でワシがお前に言ったこと、覚えているか?」
「…………」
――もし私の身に何かあった時は……。後のことは頼んだぞ、キエル。
あの時のセアルの言葉が、キエルの頭の中に蘇る。
「無論、覚えている」
「……ならばよい」
意味深な台詞を残し、セアルはその場から去っていった。




