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HP9999999999の最強なる覇王様  作者: ダイヤモンド
第1章 異世界転生
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第1話 覇王に転生

 ここは『ラルアトス』と呼ばれる異世界。僕は三日前に一度人生を終え、この世界の悪魔達を統べる〝覇王〟として転生した。


 死ぬ前の年齢は十六歳、名前は阿空悠人あぞら ゆうと。死因は交通事故とかだった気がするけどその辺の記憶はあやふやである。


 そして現在僕は、覇王っぽい城の中の覇王っぽい広間で覇王っぽい玉座に覇王っぽい服装で座っている。



 ……いや、なんで覇王?



 僕も子供の頃は正義のヒーローとか世界を救う勇者とかに憧れてたから、この世界に転生した時は「キター!!」と思ったものだ。でもなんだよ覇王って。思いっきり世界を滅ぼす側じゃないか!!


 そして事実、僕には世界を滅ぼすだけの力が宿っている。実際に力を行使したことはないが、僕にはその確信があった。ではその根拠は何か? 僕は自分の右斜め上に表示されているステータス画面に目をやった。



 覇王 Lv999


 HP9999999999/9999999999

 MP9999999999/9999999999

 ATK99999

 DFE99999

 AGI99999

 HIT99999


 所持呪文 ※※※※※


 

 何このチートスペック。こんなのがゲームにラスボスとして出てきたら速攻でソフト叩き割るぞ。


 ちなみにHPは体力、MPは魔力、ATKは攻撃力、DEFは防御力、AGIは速さ、HITは命中率。所持呪文は数が多すぎて表示がバグを起こしているようだ。この世界の人間の平均HPは500程度と聞いているので、その差は歴然である。


 まあだから、世界を滅ぼそうと思ったら多分一日も掛からないんじゃなかろうか。しかし僕にそんな大層な野心はない。むしろ世界を救いたい側だったのに、なんでこんなことになったんだろうな……。なんだか憂鬱になり、僕は深く溜息をついた。



「覇王様、どうかなされましたか?」



 すると僕の目の前で膝をついていた女悪魔が心配そうな表情で尋ねてきた。彼女の名前はアンリ。僕に仕える〝四滅魔〟と呼ばれる悪魔の一体である。悪魔と言っても姿は人間にかなり近く、綺麗な長い黒髪にそこそこ立派な胸。正直かなり可愛い。


 四滅魔というくらいだから他に三人の滅魔がいるはずだが、今は何かの任務で覇王城から出ているらしく、城にいる滅魔はアンリ一人である。他の三人の滅魔はまだ顔も見たことがない。ちなみに地位は覇王(僕)>>>>>>四滅魔>>>その他の悪魔といった感じだ。



「気にするなアンリ。それより余のことは〝ユート〟と呼べと言ったはずだろう」



 僕は覇王っぽい声と口調でそう言った。覇王を演じるのも一苦労である。ただ〝覇王様〟と呼ばれるのはなんだかムズ痒いので、この城にいる悪魔達には〝ユート〟と呼ぶように言ってある。前世の名前は悠人だったからな。


 するとアンリはとても動揺した様子で頭を下げた。



「もも、申し訳ございませんユート様!! この罪を償うため自害します!!」



 しなくていいから!! と思わずツッコミたくなるが、それは覇王っぽくないので心の中に留めておく。



「その必要はない。間違いは誰にだってあるものだからな」

「あ、ありがとうございます!! お救いいただいたこの命、一生をかけてユート様に捧げる所存です!!」



 うーん、この台詞を聞くのも何度目だろうな。そんなことを思いながら、僕は玉座から腰を上げた。



「ユート様、どうかなされましたか?」

「ん? 喉が渇いたので飲み物でも取りに行こうと思ってな」

「そ、そんな! 覇王様が自ら動くようなことではありません! 私が飲み物をお持ちいたします!」

「……そうか。ではオレンジジュースを持ってきてくれ」

「御意!」



 アンリは嬉しそうに広間から出て行く。飲み物くらい自分で取りに行くんだけどな。オレンジジュースはちょっと覇王っぽくない気もするが、まあいい。未成年のまま死んだからワインとかは飲めないし。


 にしても転生したばかりの頃に紫色でドロドロに濁った謎の液体を飲み物として出された時は目眩がしたな。一応悪魔達の間では最高級の飲み物だったらしいが、僕は中身は普通の人間のままなのでそういうのは拒絶反応が起きてしまう。



「お待たせいたしました、ユート様」

「うむ、ご苦労」



 僕はアンリからオレンジジュースを受け取り、それで喉を潤した。それから少し経った後、俺は再び玉座から腰を上げた。



「ユート様、どうかなされましたか?」

「ん? 少し城の外を散歩でもと思ってな」

「そ、そんな! 覇王様が自ら動くようなことではありません! 私が代わりに散歩してきます!」



 それに何の意味が!?



 まあ、こんな感じで身の回りのことはほぼ全てアンリがやってくれるので、僕は城の外はもちろん今いる大広間からもほとんど出たことがなかった。せっかく転生したというのにまるで引き籠もりみたいな生活である。


 そしてアンリはというと、ずっと僕の目の前で膝をついている。この三日間、朝から晩までずっとだ。僕が何かしようとすれば全て代わりにやってくれる。ありがたいと言えばありがたいんだけど、果たしてアンリはこんな毎日を送って楽しいのだろうか。



「……アンリよ。別に四六時中余の側にいる必要はないのだぞ?」



 俺は気遣いのつもりでアンリに言った。するとアンリの顔がみるみるうちに青ざめていくのが分かった。



「私、何かユート様のご機嫌を損ねるような振る舞いをしてしまったのですか……!?」

「え?」

「ご期待に添えられず申し訳ありません!! 今すぐ自害してきます!!」



 なんかもの凄く曲解してる!! どうやらアイリには僕の言葉が「お前は不要だからさっさと死ね」みたいな感じに聞こえたようだ。



「そういう意味で言ったのではない。お前は本当によくやってくれているし、感謝もしている」

「も、勿体なきお言葉! 嬉しさのあまり自害してしまいそうです……!!」



 どんだけ自害したいのこの子。



「ただ、ずっとそうしてるのは退屈ではないかと余は心配しただけだ」

「退屈など感じるはずがございません。私にとってはユート様のお側でお仕えすることこそが至高の喜びなのです」



 本当だろうか。



「それに害ちゅ――人間の中にはユート様を打ち倒さんと画策する輩も多いと聞きます。不躾かとは思いますが、ユート様をお一人にするわけにはいかないのです」



 今人間のこと害虫って呼ぼうとしなかった?



「しかしご安心ください。この覇王城の内外には常に悪魔達による厳戒態勢が敷かれておりますから、ユート様の御身の安全は我ら〝覇王軍〟が保証いたします」

「……そうか。ご苦労」



 まあ覇王なんてものが存在していたらそりゃ討ち取りたくもなるよね。


 だが仮に僕の命を狙う者がすぐ目の前に現れたとしても、HPが99999999999もあるんじゃ逆にどうやったら打ち倒せるのかと問いたい。だからぶっちゃけ厳戒態勢なんて敷いてもらわなくても自分の身は自分で守れる。


 そこで僕は考えた。悪魔を統べる覇王として僕が最初にやるべきことは、彼女達をこの束縛から解放してやることではないのかと。ただ僕を守り続けるだけの人生なんて絶対に楽しくないだろう。僕が悪魔達の立場だったら絶対に耐えられない。


 よし、決めた。

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