ある日の京極蓮の朝
「蓮!起きなさい!」
「へぶぅっ」
ゆっくり寝ていると、母に布団を剥がされて叩き起こされた。
五月だがいつもより少し寒いため、布団を剥がれただけで体が冷える。
「さっさと着替えなさい!」
頭上では、目覚まし時計がけたたましく鳴っている。
やかましい母の声と目覚まし時計で、流石の蓮の目も覚めた。
蓮が起きたことを確認した母は、早く着替えなさいよ、とだけ言って部屋から出て行った。
「んうぅー…いでっ」
伸びをした途端ベッドのふちに手が当たり、その拍子に目覚まし時計が頭に落ちてきた。
痛む頭をさすりながらリビングに行くと、楽しげに朝食を作る母と、それを愛しそうに見つめる父が目に入った。
――バカップル
いつも通りの光景に、いつもと同じ感想を抱く。
「蓮おはよう。ほら、今日の朝食は炊き込みごはんだぞ」
蓮が来たことに気付いた父に声をかけられた。心なしか嬉しそうなのは、これが母の手料理だからだ。父は、母の手料理なら何でも食べる。だから、これが炊き込みご飯じゃなくても彼は嬉しそうに蓮に言う。
「蓮おはよう。さっさと座って、朝ごはんにしましょう」
「ん、おはよー」
炊き込みごはんの入った茶碗と味噌汁が並ぶテーブルに着く。
「いただきます」
三人で声を揃えて食事を始める。
直後にできた沈黙は、蓮によってすぐ破られた。
「ん、んまっ」
炊き込みご飯を口に入れ、感嘆の声を漏らす。
「本当?今回は手を抜いたのよー」
フフッ、と口元に手を当てて恥じらう母。
そんな母を見て頬を緩める父。
きっと、蓮の精神年齢が幼いのは、お互いを溺愛しあっている両親に甘やかされてきたからだろう。
朝食を食べ終えた途端に、ポケットが振動した。
「ん、莉音から電話だ。出ていい?」
莉音を信頼している両親の許可を得て、食器を片手に席を外す。
流し台に食器を置いて、通話ボタンを押す。
「もしもし、莉音どうした?」
『ああ、蓮おはよう。今日は朝練に行けそうにないんだ。部長に言っておいてくれる?』
聞こえた涼やかな声は焦りの色を含んでおり、いつものように茶化せないことを察する。
「どうした、夢羽か?」
『うん、熱出しちゃって。両親揃って二時間は帰って来ないんだ。それまでは面倒を見るつもり』
「二時間って…学校始まるぞ?」
『うん、まあ仕方ないかな』
「そっか、了解」
『じゃ、よろしく』
早口でそう言うと、莉音は電話を切った。
ツーツー、と無機質な音を切って、自室へ着替えに行く。
「それじゃ、行ってきます」
少し離れたところに建つマンションの下で夏野陽と、陽のマンションから学校に向かって歩いてすぐの曲がり角で莉音と、それぞれ合流する。
今日は、莉音がいないということを頭にインプットする。
「いってらっしゃい」
「気を付けるんだぞ」
親バカな両親に見送られて家を出る。
これが京極蓮の日常。