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ユキノ編その後

「今回は二倍だ」

「ちっ……」

 てめークソジジィ。舌打しやがったな。

「インストールする」

 俺はゆっくり目を閉じた。先ず脳裏に浮かんできたのは漆黒の瞳と高く筋の通った鼻。パーツの色は変わってても形は変わってないらしい。

「ふうん。まぁこんなもんか」

 前に俺はある情報が欲しくてジジィにこき使われている、と言った筈だ。あんまり話したくないけどアンタらが未来を作る人達だから、俺みたいなヤツも産まれてくるんだって事を知っててほしい。

 今までの話の中に少しだけ顔を除かせていた俺の欲しがっている情報、それは己の姿だ。

 ここからはちょいとストレンジな話になるから、覚悟しておいてくれ。俺達E.V.Bが感情を持つ理由は話したな。でも、それだけじゃない。もう一つどうしても感情を無くせない理由があるんだ。

 それは、E.V.Bは元々人間から出来たシステムだからだ。例えば、こんな事が起きたとしよう。サイバー空間内で人間が亡くなった。するともうその人間はそれなりの処置をしなきゃならない。だから通常は遺族の許可を得て火葬する。だが、遺族がいなかったら……?

 収集がつかない遺体が積もってしまう。そこでジジィは当時かなり深刻な国際問題だったウィルス除去システムに改造したんだ。だから俺達にも感情があるし、寿命もある。体の構成物質が電子だからある程度成長したら老化はしないけど。E.V.Bの寿命は約百年間で、体に纏う電子が尽きた時点で消失する。話によるとまるで星になったかのように美しいらしい。

 ジジィも長年かけて完璧なE.V.Bを造り上げる過程で人間に感情が必要不可欠であるように、俺達にも感情が無くてはならないものだとわかったんだ。

 科学的な研究の下、ある囚人からあらゆる感情を取り除いた結果わずか三日でその囚人は亡くなったそうだ。

 人間を元にしたE.V.Bは、構成物質以外は殆んど人間とかわりない。つまり、俺達も感情を取り除いたら死ぬってわけだ。

 生産されたE.V.Bは戦闘のみに集中できるよう、生前の記憶を消去され、また生前の友人等にバッタリ出会ってしまった時の事を考慮して容姿を変えて耳にマシーンを埋め込む。……ちょいと残酷だけど、拾い手が無い遺体を倉庫に放置しておくよりはずっと良いと思う。

 その事実を知ってるE.V.Bは数えるくらいしかいないのだが、俺は昔、ジジィからその事実を聞いたんだ。

 俺は、他のE.V.Bとは事情がちょいと違う。俺はジジィに拾われたんだ。俺は、生まれて三年くらいたった時にサイバー空間の人通りの少ない場所においてけぼりにされた。今冷静に考えたら捨てられたんだと思う。

 食べ物もなくて終に力尽きて路上で瀕死の状態だったのをジジィが見付けて研究室まで運んだけど、もうその時には息がなくて、哀れに思ったジジィは俺をE.V.Bにした。

 それから、俺は自分の姿を知るためにずっとウィルス除去をしてきた。ジジィが毎回報酬としてくれているのは、俺の容姿についての記憶だ。

 それ以外の記憶は、ジジィは俺をウィルス除去に向かわせる気は無かったから残されたんだけど。まぁジジィも俺が自分の姿を知りたがるなんて思いもしなかった筈だ。

「なぁ、父さん」

 俺はふざけてジジィに向かって話しかけてみた。電子戸籍上、俺はジジィの養子なんだよ。

 ジジィは

「ふん。お前に父さんなんぞ言われると気色悪いわ!」

 と吐き捨てたが、その声に怒りは感じなかった。

 明日はサイバー首都、ムルガリセブンに買い出しに行く。ジジィは忙しいからパシリだ。


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