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ユキノ編

 俺はクルリと回転し、地面に足をついた。背中に背負っている刀を抜く。成程な、今回のR10はなかなか強いじゃねえか。しかも。

「集団とは聞いてないぜクソジジィ!」

 俺達の耳の中には、オフの世界(現実)と繋がるマシーンが埋め込まれていて、それが三半器官や鼓膜の役割もしているのだが、同時に向こうからのジジィの声が聞こえる様になっている。

 逆に俺達は専用のインカムを着けてログオフしなきゃならないからこちらの声もジジィの耳に届くわけだ。

「そうじゃったかの?」

 誤魔化すなよ。大体二日前に最新型と組む事知らせといてまだ知らせてない事が有るなんてビジネスとして成り立たねぇよ!

「だー! もう、片付ければ良いんだろ? そのユバって人、大方アンタの後輩だろ。断るに断れないし、見栄ってやつだな」

「……」

 ジジィは無言だ。この場合の態度は大人気ないジジィだから、肯定としてとって良い。その代わり、今回の報酬は二倍だからな!

 俺は必死に敵の攻撃を交すユキノをフォローしつつ、一体の背後を捕えた。

「うらっ!」

 敵は真っ二つだ。はぁ、やっと一体か。それにしても気になるのはあのユキノだ。

 俺達E.V.Bにも感情は存在する。なぜなら……いや、ここでこの話をすると長いからまた今度の機会に回すとして、ユキノは妙だ。

 さっきユキノが攻撃を交すのを見て漸く気付いた。俺が見る限り、彼女は無表情なのだ。いや、正確に言うと表情はあるが目に光がない――そんな感じだ。

「――タスケテ」

 そしてこの声。俺は敵の攻撃を交す。一回転して頭上を捕えたが逃げられてしまう。

 さっきログオフした時に聞こえた気がしたのもきっとこれだろう。

 ユキノが背後を捕えた。今の今まで見る余裕がなかったためか気付かなかったがユキノの武器は……

「ど、鈍器……?」

「はっ!」

 敵が潰れた。さ、さぁ後一体だ!

「こりゃまた、大層なデカさで」

 最後の一体は他の二体を指揮っていたやつだ。俺がさっき逃してしまった。スピードも攻撃力もさっきの二体とは比べ物にならない。

 R10が、俺に向かって液状の物質を飛ばしてきた。避ける。

「痛っ!」

 何て攻撃範囲だ。右腕がヤられた。ユキノも透かさず攻撃するが全くピンピンしてやがる。

「タスケテ」

 こんな時にまただ。俺はとりあえず目の前の敵に集中することにした。

 やっぱ、対ウィルス用弾丸を使うしかないか。対ウィルス用弾丸は、ウィルスを貫いた瞬間に特殊な液体が噴出され、ウィルスを固めてしまう効果がある。値段が高価だからあんまり使うとジジィに怒られるが、今回は仕方ない。

 しかし対ウィルス用弾丸にはもちろん専用の銃が必要だ。銃には射程距離と言うものがつきものである。この距離はかなり厳しい。それにあまり近付くとまたあの液状の餌食だ。どうする?

 考えている間にも敵が迫ってくる。ヤバイこれはピンチとか言うやつじゃ。考えろ俺……この弾丸を遠くに……野球みたいに打ち飛ばせれば……ん。

「ユキノ……アンタの鈍器でコレを打てるか?」

 直径僅か三センチメートル。長さ五センチメートルの弾丸ただ一発しか使う余裕はない。

「わからない……でもやってみます」

 その言葉を信じるよ。今はそれにかけるしかない。

「じゃあアンタはこの弾丸だけを見ていてくれ。俺がちょうど良いタイミングで手を離すから思いっ切り敵に目がけて打つんだ」

 ユキノは静かにうなずいた。俺はまたあの声が聞えたが、無視することにした。

 敵が迫る。五メートル、四メートル、三メートル……

「行けっ」

 ユキノが放った対ウィルス用弾丸は真っ直ぐに敵に目がけて飛んで行く。俺は一瞬も目を離さなかった。弾丸が迫っていく。敵の胴体へ、その薄い胸へ――命中!

「ぎゃぁぁぁああ!」

 鼓膜が破けるような叫び声と共にあの声が聞こえた。

「タスケテ……!」

 そうだ、この声、うん、それならつじつまが会うじゃないか。

「ユキノ。助けてやる」

 ユキノは少し驚いた様な表情をしている。そうだ、ユキノなんだよあの声は。助けを求めるユキノの感情だ。

「アンタの感情はどこにいる?」

 ユキノは少し躊躇う仕草を見せたものの、細々と話だした。

「ユバ博士が持っています」

 アイツ……そうか。ジジィの野郎最初からこれが目的だったのか。

 サイバー空間において、電子ウィルス除去システムには原則として感情を入れなければならない。これはジジィが決めた事だ。なぜなら科学的な根拠に基づいて、E.V.Bの人を助けたいと言う感情は大きな力を生む事を証明しているからだ。ただ問題はそれだけじゃない。もっと複雑な問題も有るわけだ。まぁ、次回に回すとしよう。

 だがユバはジジィと反対の意見を持っていて、その良さを見せ付けるために今日の仕事が舞い降りたわけだ。

「ユキノ、良くやったね」

 ユバがログインしてきた。手に持っているスーツケースには何が入っているんだ?

 ユバは唐突にある方向を向きジジィに話しかけた。

「この様に感情はいりません。E.V.Bの感情はこのような」 ユバは懐からキューブ型の物を取り出した。

「キューブに詰めれば良い。キューブを開けて対象物に向けると感情を吸い取れます。因みにこれはユキノの物だ」

 おっさん、詰めが甘いぜ。

「おっと悪りぃ! 足が滑った!」

 俺は一回転してユバの手の中にあるキューブを蹴りあげた。落ちた衝撃でユキノの感情が戻ってくる。

「なっなにをする!」

「アンタの感情こそいらねぇよ!」

 俺はキューブをユバに向けた。

「うわああぁぁ!」

 後に残ったのは抜け殻みたいになったユバだった。


「ありがとうございます!」

 ユキノはログインした後ジジィと俺に礼を言った。うん、今なら何の違和感もなく可愛いと思える。

「ジジィ今回は報酬二倍だ」

「わかっとるわい」

 と、何だ。まだいたのか。

「あの、レクトさん、本当にありがとう……これはお礼です」

 ん。え? 頬に柔らかい感触が。

「若いって良いのう!」

「だぁぁぁあ!? ユキノ! お前何して!?」

 ユキノはニッコリ笑って答えた。

「キスですよ」

 俺は暫くこの少女に振り回されそうだ。


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