ログイン編2
一瞬にして由岐のヒーローになった少年は、まだまだ正体不明だがまた会ってくれると約束してくれた。さて、家に帰ったら、早速デザイン画を描こう。由岐の足取りは軽い。
ジジィの下使われている俺、みたいなヤツは、実は多数いる。それぞれが感情があって、特性も違うから個性的だ。俺達は、各研究室のPCからログオフしてウィルス除去を行う。
因みに俺みたいに物理的攻撃をしないと倒せない旧式の他、最新型のやつらは触れるだけで消滅させる事が出来るとか。
さて、ここでなぜ俺をジジィが実体化させるのかを話そう。
俺達は電子で出来ているためサイバー空間では繋ぎ止めておく事が出来ない。そこであのクソジジィが俺達を実体化させる装置を作った。
C.Pを電子化、実体化する装置と要領は同じだ。でも俺達は前も行ったように、0と1で出来ているために根本的な物は同じだけど出力装置に改善の余地があったわけだ。
で、実体化された俺達は各研究室から繋がっているE.V.Btownにログインする。townと言っても、町が実際にあるわけではなく、E.V.Bの情報交換の場であるバー等がいくつかあって、その他は俺達個々体の寝室になっている。
俺達にとっては睡眠も食事も必要ではないから、専用の娯楽施設みたいなもんだ。
「おい、レクトじゃねぇか!」
振り向くと浅黒の肌と綺麗に揃った歯が視界に入った。思わず声そいつの名前をに出していた。
「トロン……!」
俺達の間にも、友情は存在するが何せ多忙な仕事のため一度会って仲良くなっても次また会えるかはわからない。とくに俺みたいな旧式のやつは特に。
しかし幸いながら、俺とトロンは五回も再会している。
「久しぶりだなおい! ちょっと髪がのびたのか」
「ばーか、気のせいだよ。E.V.Bの髪がのびたらビックリだ」
そういうとトロンは手をヒラヒラと振って思い出したかのように笑った。
ここはtownでは一番人気のバーで、マスターと呼ばれる名前が不明の老人がやってる。料理はおいしいし、何より人が集まるから俺もここを使わせていただいてるんだ。
トロンは俺とほぼ同時期に造られたE.V.Bで、一度仕事で組んだ事がある。トロンはまぁ座れよと自分の隣の席をあけ、俺が座るとわざとらしく、小声で聞いてきた。
「なぁ、あの事は大分わかったのか?」
「この前は髪の色がわかった」
「あのジーサンも意地悪いな……微妙な場所じゃねぇか。で、何色?」
「黒髪」
トロンはあからさまにエッと驚いた。俺も驚きだよ。今と全然違う。
「そりゃお前……大層な変わりばえで」
俺の髪を眺めながら話すのに悪気が無いのは知ってる。そういや、トロンは今回最新型の奴と組んだ筈だ。
「なぁ、そういや最新型、どうだった」
それを聞くとトロンはあからさまに眉根を寄せた。
「あぁ……奴らが触れるだけで消滅させる事が出来るとか言うのはマジだ」
「なっ」
そりゃヤベェ。そんなことになったら、俺達なんか用済みだぞ?
「なんてな! んなわけねぇよ! 経験も浅いし、戦力にならないから今後はあんまり数を増やさないようにする筈だぜ。ここもそろそろ狭くなったしな」
白く揃った歯が光る。コイツに嘘を吐かれてもなぜか腹が立たないのは俺だけじゃないに違いない。
「あぁわかったよ。いつもの冗談ね。ありがとう。俺も明日は最新型の奴と組むんでな。早く寝る事にするよ」
俺が席を立つとトロンは中指に人指し指を載っけた。俺達がまた会えるために、「さよなら」の変わりに使う挨拶だ。
同じ事を返した後、俺は部屋に戻った。
ジジィの研究室には、カリンツの隣に気むずかしそうな男が立っていた。
「ユバ、アイツがうちのレクトじゃ。単純にelectronから名をっておる」
「……どおも」
ジジィが睨んで来た。何だよ。
「ドランクザン博士、これがウチのユキノです」
ジジィがユバと呼んだ男の隣には、ツインテールが何ともチャーミングな少女がいた。にっこりと笑ってみせる。
「宜しくお願いします」
凄く可愛い。でも俺はこの時物凄い違和感を感じた。
通常俺たちがログオフする時はジジィが発行するログオフ許可証がいる。サイバー空間にはウィルスが星の数程もいるから、またたくまにあちらこちらのサイバー住所区に現れる。
今回俺とユキノが除去するのはR10だ。通称リオ、と呼ばれている。R10をローマ字に見立てて読むとちょうどリオとなるからだ。
だけど、その可愛らしい名前の反面、その能力は恐ろしく、電子化された人間がウィルスに感染した場合、PC上に表示されなくなり、存在が消滅してしまう事になる。
「レクト、早く支度をせんか。ユキノが待っている」
おっと、長話が過ぎたみたいだ。ジジィの機嫌を損ねると面倒臭いから、早いとこログオフしないと。
「わーってるよ。……待たせたな」
俺とユキノはジジィの研究室の中央にある入力タワーへ立った。通常入力タワーは各研究室に一から二しかないが、ジジィの立場上ウチの研究室には四つも入力タワーがある。
「今回は1000258番地にウィルスが出現した。まだ人間が残っておるから、救出してからウィルス除去にかかること」
「わかったよ、ジジィ」
「……了解しました」
俺はやはりユキノに違和感を感じながらサイバー空間にログオフした。途中、少女の声が聞こえたのは気のせいかもしれない。