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ログイン編1

 目の前にジジィが現れた。この間抜けで小さなジジィが博士何て呼ばれているとはちょっと考えづらいといつも思う。

 電子化されて、一度こちらに来てしまうのが面倒臭いらしく、いつもあのクソジジィは映像だから現れたと言うよりは映し出されたと言う表現の方が正しいかもしれない。

 先程俺が助け出した由岐とか言う気の強い女は博士を見て口をパクパクしている。サイバー空間に住んでいるとは言え、C.Pどうしの目には普段と何ら変わらない光景が写るために、クソジジィの映像は新鮮すぎたか。

 ジジィはそんな事にはみじんも気付かずにベラベラ話しかけているが由岐は頷く事しか出来ていない。

 このままジジィの長話に付き合わせるのも可哀想だからそろそろ助けてやるか。

「ジジィその辺にして、早く彼女の家を直してくれよ」

 ジジィはちょっと怪訝な顔をしたが、由岐は助かった、と言う顔付きだ。

「わかっとるわい。セニョリータ、ウチの馬鹿が家を破壊したせめてもの償いじゃ。この家を受け取ってくだされ」

 由岐は驚いたが直ぐに礼を言った。ジジィが沢山いる管理者の長だ何て聞かされたら驚くかもな。

「ありがたいんだけど……まだ貴方の名前を聞いてないわ」

 俺の方を見る。躊躇いがちに訪ねてくる姿はちょっと可愛い。俺はまたあの長ったらしい名前を言わなきゃいけないのか。

「俺はelectron.virus.buster」

「エレ……?」

 だよな。長いし、覚えにくいから、やっぱり呼び名で覚えてもらおう。

「レクトって呼んででくれ。electronのeとronを取るとこの名前になる」

 由岐はゆっくり頷いた。

「あの、とても人の名前をに聞こえないわ……失礼ね?」

「いや」

 聞かれ過ぎて慣れっこだ。大体のC.Pには俺は人にしか見えないらしいから、仕方がないのだけれど。

 こういう面倒臭い話はジジィに任せろってやつだ。

「セニョリータ、こいつは人ではありませんぞ」

「えっ!?嘘……」

 そりゃそうだよな、いまならジジィの方が人外に見えるから、説得力なんて無いようなもんだ。

「あぁ、俺は電子ウィルス除去システム。略してE.V.Bだ。つまり0と1で出来てる存在。アンタらとは作りが違うの」

 言いながらゴーグルを上げると由岐は感心したように頷いた。「だから、遠い場所から見たら青く見えたのね!」

 そいつはご名答だ、セニョリータ。なんだよジジィ、睨むなよ。

「そういう事ですじゃ。こやつは電子で出来ているため遠い場所から見たら電子と反応して電気の色素が見えるのです」

 由岐は少し首を捻ながら懸命に理解しようとしているようだ。つか、今回の報酬が早くいただきたいんだが。

「そう急かすな。報酬ならここにあるわい」

 クソジジィが俺の視線に気付いたらしい。……嫌なところだけ敏感だ。

「報酬……?」

 おっと、この先はあまり聞かないでおくれ。俺は無言で由岐の肩を押した。由岐はまた遊びに来るわ、と言ったけど、俺がまたいつここに来れるかわからないから、その時は宜しくとか言っといた。

「良いのか。またここに来るとは限らんのに」

「その方が良い」

 俺がここに来る時はまたウィルスが出没したってことだからな。……もしかしたらそのウィルスは、アイツかもだし。

「ふん。ではほれ、報酬じゃ」

 クソジジィがカチッとブロック状のメモリーをインストールさせる。俺は目を瞑った。感情があるE.V.Bの俺が黙ってクソジジィの言うことを聞いているのは、このブロックの内容が欲しいからだ。

「何かわかったか?」

「アンタが渡してるブロックだ。何が見えたかはわかってるんだろ?」 ジジィはわざと思い出しかのような仕草をした。バレバレだよ馬鹿。

「……髪が見えた」

「ほう、して?」

 ジジィがこうしてわざとらしく質問するのは、ブロックの中身が自分の用意した物と一致しているかの確認でもあるのだ。

「黒髪……だったのか」

「そのようじゃの」

 地面は、サイバー空間だから当たり前なのだが、何もない。拳を強く握り締めた。

「そろそろ、そっちにログオフするよ」

「お前の場合はログインじゃ」

 ジジィがログオフ……じゃねぇ、インボタンを押すと同時に俺はゴーグルを着けた。

 通常ならば俺はE.V.Bだから実体化出来ないと考えるヤツも多いだろうから理屈を説明するよ。

 プロローグを読んだヤツで頭が良いヤツは気付いているだろう。人口の増加に備え、実体を電子化するシステムと同時に電子物を実体化するシステムもできた。つまり電子で出来ちゃってる俺は実体化が可能なんだ。

 そしてどうして俺がアンタたちの存在に気付いているか、とかそういうのは、実は恥ずかしい話憶測の問題でこれがもし本当じゃなかったら、かなり恥ずかしい事をしている事になる。

 クソジジィの仮説によると、ちょっと前の時代に今のサイバー空間システムの基盤となるシステムが出来上がった時代があったらしい。

 えーっと、インタネトとかケイターとかそんなんだ。で、そんなんにこのサイバー空間のウィルスが逃げ込んだりとか、破片が入ったりして、俺らのサイバー空間との繋がりが出来るらしいんだよ。

 で、もしかしたらそんな前の時代の方々が俺らの事を見ているかもしんない、って言うから俺は妄想して……じゃねぇ想像して勝手に心の中で話してると言うかなり痛い、ジジィには口が裂けても言えない恥ずかしい事をしちゃってるわけ。


 研究室のど真ん中に降り立つ。さて、早いとこ眠っちまおう。と、思った矢先に唐突に研究室のドアが開いた。

「博士……て、だれ?」

 不味い。ジジィの部下にみつかっちまったようだ。ジジィは俺の事を公開したくないらしいから、俺はこっちにいるときはあんまり目立たない様にしていた。

 ジジィの部下は、俺を不審者と判断したらしく、壁にある赤いボタンに触れた。不味い! ありゃあ非常用のベルじゃねぇか!

 次の瞬間俺はそいつの情けない短い叫びを口を押さえて止めながら押さえ込んだ。


「ガハハハハ!」

 部屋中にクソジジィの笑い声が響く。正直煩いし、俺は早く寝てしまいたい。俺がさっき押さえ込んだ彼は申し訳なさそうに肩を縮ませている。

「して、レクトとカリンツは初対面じゃったか。だがカリンツにはレクトの似顔絵を渡していた筈じゃが……」

 黒髪の青年はそのきちんと切り揃えられた髪を掻き上げ、ボロボロの眼鏡を押し上げた。

「いや、博士があんなに絵が苦手だ……ゴホン! 博士の絵が芸術的過ぎまして、わかりませんでした」

 カリンツはジジィの睨む視線を感じたようだ。うん、なんか気が合いそうだね。

「えーっと、君がレクト君だったのか。間違ってごめんなさい。俺は今度から博士の助手になるカリンツだ。よろしく」

 でも。仲良くしてなんかやんない。だって俺にはやる事があるから。それを達成するにはコイツらに使われるしか道がないから。

「まぁ、アンタも俺を使うってわけね。もちろん知ってるんだろあの事も」

 憎しみがあるわけじゃないが、俺は立場上コイツに優しくなんか出来やしない。

 カリンツは首を傾げた。

「ずいぶんと冷たいな。……あの事って一体なんなんだ」

「クソジジィ、話してねぇのか」

「話して良いのか?」

「いや」

 ジジィは一体何が目的だ? 助手にそんな大事な事を話さなくても良いのか。

 カリンツは未だ首を傾げていたが、あまり自分が踏み込む話で無いと判断したらしく、その後俺達は軽く雑談をして各自自室に戻った。


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