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「かみさま、」  作者: 退
2/6

かみさま、わたしのじんせいをかえしてください。

 私は、とても在り来りな、ごくごく平凡な女です。

 今も、昔も。

 これからも、その、つもりでした。

 でも、ああ、なぜですか。

 どうして私は、見知らぬ人たちに囲まれて、紗奈という名前のまま、見知らぬ人の子供になっているのですか。




 どうやら、私は死んでしまったようだ。

 今息をしているのはじゃあ誰なんだ、という質問は逆に私がしたいくらいで。

 今でもあの日のことは鮮明に覚えているのに、私は今、こうして小さな体で、見知らぬ人の子供になって、今までとは全く違う暮らしをしている。

 私は生まれ変わり、というのをしてしまったらしい。

 らしい、というのは、もしかしたら本当は私は意識不明で、これは夢ではないか、という可能性も否めないからで。

 そう、信じたかった。

 信じなければ、彼とあの子、母や父、兄との思い出が塗りつぶされそうで、怖かった。

 なぜ、私はこんなところにいるのだろう。

 あの子や彼は今頃どうしているのだろう。泣いているのだろうか。私のせいで、悲しんでいるのだろうか。

 私はここで生きている。それなのに、二人はどこにもいない。

 これほどまでに辛いことはあるのだろうか。

 いっそ、あのまま死にきってしまったほうが楽だった。

 だって、こんなにも生きることが辛い。

 生き地獄。まさにそれのようで。

 これは、無様にも死にたくないと思ってしまった私への罰なのだろうか。

 でも、誰でも死ぬのは怖いものだ。そうでしょう?

 生きているのに、会えない。声を聞くことも、姿を見ることも叶わない。

 私が愛した二人はどこにもいない。

 そのことに嘆き、泣きじゃくる私を、最初こそは心配し構っていた両親も、数ヶ月経つ頃には鬱陶しがり始めた。

 仕方ないだろう。二人からすれば意味も無く泣いているようにしか見えないのだから。

 迷惑をかけている。そうは思っても、泣くのを止めることは出来なかった。

 だって、悲しいのだ。辛いのだ。苦しいのだ。寂しいのだ。

 きっと、あの子たちからしてみれば、置いていったのは私の方なのだろうけれど。私からしてみれば、置いて行かれたようにしか感じられなくて。

 会いたい。会いたい。まだ名も付けてあげられなかったあの子が心配で、泣き虫な彼が愛おしくて。

 怖い。怖い。

 知らない人たちに囲まれ、けれどとても似た世界にいることが。

 せめて、全く違う世界なら良かったのに。

 こんなにも似ていたら、会えるかもしれないという、虚しい希望も抱かなかったのに。

 希望は直ぐに絶望となり、ふとした瞬間虚しいだけの希望に変わって、また砕け散る。

 その、繰り返し。

 私が生まれ変わって、六年という長い年月が経って、私は、私の両親じゃない人に育てられて、小学一年生になった。

 それと同時に、私は泣くことを止めた。

 見知らぬ両親が私が泣くことを疎ましく感じているのは知っていた。

 だから、止めることにした。ただ、それだけ。

 乗り越えられたわけでも、強くなったわけでもなく。

 しかし、この胸の中の感情をどうやって吐き出せばいいのかわからなくて、私は口を閉じることにした。

 もちろん、そんな私に友達なんてものは出来るはずも無く。学校では、私は一人ぼっちだった。

 もちろん悲しくなんてなかった。

 最初は無理に話しかけていた人たちがいたけど、そのうち誰も私に近寄って来なくなった。

 私に関わってくるのは、担任か、近所に住んでいるという物好きな男の子が懲りもせずに話しかけてくるぐらい。

 それでも、私は無視をした。どうでも良かったからだ。何もかも、自分がどう思われようが、興味なかった。

 友達なんて、いてもいなくても変わらない。理解者なんて、以ての外だ。

 どんなに笑顔でいたって、頑張ったって、現実は変わってはくれない。

 あの子たちに会えないことには変わりはない。

 だから、ひたすら黙った。

 そうしなければ、この吐き出せない感情のままに叫び出してしまいそうだったから。

 新しい両親は、そんな私を気味悪がった。

 別に愛してくれなくていい。優しくしてくれなくていい。

 何もいらない。


 だから、ねぇ、神様。


 もう一度彼に、あの子に会わせてください。

 なんど祈ったところで、叶わない願いだと気づいていても、それでも望んでしまうのです。

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