006 ★
7/3:修正 文章のはじめの字下げ追加
7/21:改稿 書きミス等を直し、文章を少し追加しました。
隠れ家を出てしばらくして私は運よく湧水が出ている場所を発見していた。
不思議な女の子も一緒に。
岩壁を辿るように歩く事、約一時間ほど。周りをうかがいつつ慎重に歩みを進めていたので、たぶん距離的に言えば1キロも歩いていないところに、岩の割れ目から水がちょろちょろと流れ出している場所を発見した。
『水は高いところから低いところへ流れるので、しみこんだ雨水も土の中でも同じように高いところから低いところに流れる。そして、水をすいにくい岩の層で水は溜まり土や岩の層のかたむきにそって流れ、層の割れ目や段になっている箇所から湧き出す』
水を探そうと思った時に、そんな記憶が頭の片隅にあったので、とりあえず岩場に沿って歩いていたことが功を奏したようである。
昔行った社会科見学の感想文を真面目に書いて出したかいあったわぁ。昔から好奇心旺盛だった自分に感謝!
私は好奇心旺盛で知らないことをそのままにしておくことが出来ない子供だった。
興味の赴くまま、色々な事を調べ、体験し、それを吸収していった。そして、一度学んだことや調べた事、体験した事を忘れる事はなく、何らかのキーワードさえあれば蓄えた知識の中から情報を引っ張りだすことができる、人に自慢が出来る唯一の特技である。
何でもできる器用な女だから――以下略、となる訳だわ。
ひっそりとため息をつき、既に空になっていたペットボトルを綺麗にすすいで湧水をペットボトルに汲む。そして、キャップをしっかり閉めた時だった。
バキバキバキバキッ ドサッ
「ひっ!!!?」
背後で木の枝が大量に折れた音が響き、その直後何か重いものが地面に落ちた音が聞こえた。突然の事に飛び上るほど驚き、小さく悲鳴が出た。心臓はバクバクと痛いほど大きな音を立てて鼓動している。
何!? 何なの!?
飛び跳ねる心臓の辺りを手で押さえ、恐る恐る後ろを振り向く。――と、緑の豊かな茂みから、折れた木の枝と、よく日焼けした小麦色の小さな2本の足が折り重なっているのが見えた。
――え? あ……し!?
「え!? どっから?! ――っていうか、子供!?」
慌てて茂みに駆け寄り、小さな足の主に覆いかぶさっている木の枝を急いで取り除く。そして、茂みの中に腕を突っ込み手さぐりで体の位置を探り当てる。
温かい! 大丈夫!! 生きている!
私は慎重に慎重にその小さな体に腕を巻きつけると、ゆっくり身体を持ち上げた。予想外にその小さな体は軽くて、非力な私でも腕の力だけで軽々と持ち上げることが出来た。
そっと茂みから救いだし、少し離れた木の下にその小さな体を横たえる。怪我がないかざっと全身に目を走らせる。
クリーム色のワンピースから覗く、綺麗に日焼けしたすらりと伸びた手足は細く、身長は私の背丈より頭一つ分くらい小さい。ただ、身に着けているものはワンピースだけで、足は素足。
落下した拍子に脱げてしまったのかな? ――それにしても、あんなにハデな音を立てて落ちてきたのに、擦り傷や痣の一つもないなんて――運のいい子だわ。
目に見える範囲には異常は見えない。
全身を覆うくらい長いストレートの髪色以外は。
あれぇ? さっき見た時には黒だと思たけど、よく見ると濃い緑色だね?
その緑色の長い髪を、一房手に取ってみる。――つやつやのさらさらで女子としてはうらやましい限りである。
うーん、染めたにしては全然痛んでないし。――子供の髪はさらっさらのつやつやふわふわでうらやましいなぁ。
うっとりとその髪を触っていると、その髪の持ち主がぴくりと体を動かすのが見えた。どうやら気がついたようだ。
「あ、アナタ大丈夫? 体痛いところないかな? なんで木の上から落ちてきたの? 木登りでもしてた?」
小さく頭を振って体を起こしたその子に、矢継ぎ早に質問を投げかける。しまった。急いで聞きすぎたかな? 思わぬところで人に逢えてテンションがあがっちゃったよ。失敗失敗。
「ぁ、あの……?」
私の矢継ぎ早の質問に驚いたのか、戸惑ったような声色でその子の第一声が耳に届く。
――が、長い髪の中から現れたその子の小さな顔を見た瞬間、私の体は驚きで固まった。
小さな唇は健康的につやつやと輝き、開いた口からはまっ白い歯が覗いている。形の良い小さな鼻、弓型の眉の下には濃い睫に覆われ、零れ落ちそうな程に大きい瞳。その全てのパーツが綺麗な卵型の顔に絶妙に配置されている。
とんでもない美少女がそこにいた。
キラキラと光を反射している緑色の瞳に見つめられるだけでドキドキしてしまう。
いーーーーやーーー!? 何この美少女!? 外人さん!? かわいい! かわいい! かわいいぃぃぃぃ!! 仲良くなりたいぃぃ!!
『カワイイは正義』を信念としている私としては、目の前の美少女はドストライクすぎる。きっと今私の顔はとんでもないことになっているに違いない。その証拠に目の前の子の瞳に怯えの色が見える。
落ち着け、落ち着け私! 怖がらせてどうするの!? まずは名前と保護者が一緒かどうか確認しないと!!――運が良ければ今日中に家に帰れる!!
深呼吸して心を落ち着け、緩む頬を必死に引き締めると、怖がらせないように声をかける。
「ぇ、えっと、私何もしないから、怖がらないで? さっきそこの茂みに落ちたて気絶していたアナタをここまで運んだだけだから」
「ぇ……ぁ……そうなんですか……。すみません、お手数おかけしました」
ぺこりと小さな頭を下げると、さらりと緑色の髪が揺れる。
やばいです。天使がここにいます。なんて素直なの!?
再度緩みそうな頬を必死に意志の力で引き締める。
「それで、アナタのお名前を教えてもらってもいいかな? あ、私は早風楓、よろしく」
「カエデ――様ですか」
「様って。呼び捨てでいいよ、カエデで」
「カエデさ……ん?」
「じゃあ、次はアナタのお名前教えてもらえる?」
「私はドリュアスです」
「ドリュアスちゃん?」
「あ……いえ。種族の名前がドリュアスで、私個人の名前ではありません」
「???」
種族って?モンゴロイドとかネグロイドとかってことかな? 難しい表現する子だなぁ。
「まぁいいや、じゃぁ、名前教えてもらえる?」
「以前の主と別れたあと、今日初めて人型になったので現在の名前はありません。名前は新しく主となる方に授けて頂くことになります」
「???」
なんだろ……話がかみ合わない……。
頭に大量の疑問符が浮かんでいる私を余所にその子は更に言葉を続ける。
「本来はあと100年は眠りについているはずでしたが、懐かしい魔力をかすかに感じたので急いで人型を形成したのです。ですが、慌てすぎたせいか足元の確認を疎かにしてしまったため本体から落下してしまったようです」
どうやらドジッ子属性の不思議ちゃんらしい。まぁ、小さい子だからゴッコ遊びの延長かな?
オトナでこのノリだといわゆる中二病になってしまうけど、この子はまだ小学生くらいっぽいから、まぁ問題ないよね。ここは大人の余裕でゴッコ遊びに乗ってあげよう。
「へー、そうなんだ。じゃあ以前の主さんが呼んでいた名前でいいから教えてもらえるかな? 流石にアナタのままじゃ呼びづらいし。ダメかな?」
「以前の主は既にいないため、以前の名前に意味は無いのですが……」
「新しい名前は新しい主さんがつけることになるんでしょ? 私が勝手に名前を付けるわけにもいかないし、ね、お願い」
「……仕方ありません。カエデさんには助けて頂いた恩もありますし……。では、新しい名前が決まるまでは私の事を『ベルデ』とお呼び下さい」
「うーん、その堅苦しい口調もどうにかならないかな?『ベルデ』ちゃん」
私がそう、ベルデちゃんの名前を口にした途端、彼女の長い髪が緑色の光で輝きだした。
「な、なに!?」
「こ、これは!?」
私の戸惑いの声と、ベルデちゃんの驚きの声が同時に漏れた瞬間、彼女の髪は更に強い光を発し、私とベルデちゃんを包んだ。
それと同時に直接脳を揺さぶるような衝撃に耐えきれず、私はそのまま意識を強制的に手放す事になった。
やっと、主人公の名前が出ました。
そしてこの主人公よく気を失うよね(笑)
まぁ、たぶん今回が最後(の予定)です。