003 ★
7/3:修正 文章のはじめの字下げ追加
7/21:改稿 書きミス等を直し、大幅に文章増やしました。
圏外を示すスマホを片手に、混乱する頭を少しでも落ち着かせようと、現在自分が置かれている状況を把握しようと頭をフル回転させる。
落ち着け私、落ち着け。私がさらわれた場所は一応町中。あんな一瞬でそう遠い所に攫われたわけ……ない……よね?
けど、ここが町近くのどこかの林の中、って言うなら、スマホが圏外になるとかあり得ないし。最近の業者さんのアンテナ設置の勢いは『死にもの狂い』って言葉がぴったりなほど必死なんだから……。カバーしてないエリアがあるとか、考えにくい……。だって、聞くところによると富士山の頂上まで電波届くみたいだし? ……そこまで行って電話したい? とか言わないけどね。初登頂とかしたら、私だって誰彼かまわず報告電話しそうだもん。
うーん……となると、携帯の電波が届かない場所ってどこよ? ……樹海? ――いやいやいや。近所にそんな物騒なところ無いし。本当にここどこよー!?
明るくなれば少しは状況改善するかなぁ……だったら、明るくなるまでどこか安全な場所に隠れていたほうがいいよね? あの誘拐犯たちがここに戻ってくる可能性は捨てきれないし……。今度見つかって無事でいられる保証は無いしね。
とりあえず荷物を持ち攫われてなかったのはラッキーだったわ。食料もあるし、明かり替わりのスマホも、スマホの充電器もある。ボーナス出たから買い込んだものが色々あるし。2~3日くらいなら身を隠してても生きてけるはず……。あー、無駄遣いしたかなぁって思ったけど、それが役立つなんて運がいいのか悪いのか……。取りあえずナイスあの時の私。帰ったら自分にご褒美のスイーツをごちそうしなきゃ! うん、無事に帰ったら……無事に家まで帰るんだよ、私。
「よし、急がば回れ、ってやつだよね。とりあえずここから移動して少しでも身を隠せる場所に移動。明るくなってから場所の把握と本格的な移動開始、かな?」
声に出して今後のプランを練って自分自身を奮い立たせる。そうでもしないとこんな暗闇の中で一人ぼっちで、今にも心が折れそうになる。折れたら最後、身動きが取れずにこんな所で野垂れ死んでしまうかもしれない―――。
ブルリと体を震わせ、既にネガティブな考えに寄ってしまっている頭を軽く振って、そんなマイナス思考な考えを打ち消す。
ちゃんと声を出して行こう。ネガティブな気持ちで悩んでたら、どんどんマイナス方向に考えが寄っちゃうから、ポジティブな発言をしていこう! 繰り返し、繰り返し、言い続けて自己暗示すれば、ネガティブな考えなんて消える! こういうのは勢いが大切なんだから!!
「帰れる、帰れる。無事に家まで帰れる。大丈夫、大丈夫……」
ブツブツと声に出してそう言い、少し落ち着いた所で深呼吸する。うん、大丈夫。いける!
座り込んでいた体を起こし、買い物袋を両手にひっさげて握り締める。そうして右手に持ったスマホのライトを懐中電灯代わりにして、辺りを照らす。
さて、どっちに行こうかな? この荒野? 広場? は歩きやすそうだけど、いざというとき身を隠せそうにないよね。――だったらあえて森の方に行こうかな? そっちの方が身を隠せそうだしね。
そう決めて、「よし!」と気合を一つ入れると、ライトを森の方に向ける。そして、生い茂る草木をかき分け、頭上や足元を確かめつつ、ゆっくりその場を後にした。
あの後、私は『杖兼武器』として手ごろな枝を拾った。杖を使いながら、少しずつ周りを確かめ、草木をかき分ける。少しでも安全そうな場所を探すべく真っ暗な森をひたすら進んだ。生い茂る草を踏みしめ、進むのに邪魔な枝を払い、遠くで聞こえる獣らしき声や、風にそよぐ草木の音に怯える。その度に神経はすり減っていくけど、「大丈夫、大丈夫……」と自分に言い聞かせ、ゆっくりと、確実に前に進む。
本当は、救助が来るまではその場を動かないことが遭難した時の鉄則なんだけど、またあの誘拐犯たちが現れるかもしれないと考えると、どうしてもあの場の近くには居たくなかった。
慣れない森歩きで足はガクガク震え、両手に持っている荷物が重石のように感じ始めた時だった。私の目の前に、蔦や草に覆われてはいるけど、切り立った岩肌が現れた。
「あ……もしかしたら岩がくぼんだ場所くらいはあるかも」
そう思いついた私は、岩肌を左手側にして、痛む足を誤魔化しながら慎重にしばらく歩く。すると少し下がった場所にぽっかりと空いた空間を見つけた。
危険な動物とかいたらまずいので杖を片手に握りしめると、ライトを照らしそっと中をうかがう。――ビクビク覗き込んだのが馬鹿らしくなるくらいそこには何もなかった。ライトを上下左右に動かして洞窟の広さを確認すると、大人が二~三人くらい座ったり寝ころんだり出来るくらいのスペースが余裕である。一時的に身を隠すには十分な場所だった。
ほっとした私は、いそいそとその空間に身を滑り込ませる。そして、殆ど重石状態だった両手の荷物をようやく置く事が出来た。腕を振り、肩を回し、そのままその場に座り込みたい気持ちの自分を叱咤する。このまま座り込むともう動けなる可能性が高い。
へたり込む前に入口をどうにか隠してカモフラージュして、少しでも危険を減らさなきゃ……。
ノロノロと洞窟の外に這い出る。そしてスマホで辺りを照らし、洞窟の入り口を隠すのにピッタリな木の枝をいくつか見つける。最後の力を振り絞って、それらをズルズル引きずり入口を隠すように立てかける。そして岩肌に生えている蔦を何本か寄せて、木の枝を覆い隠すようにかけると、そこに入口があるようには見えなくなった。
「上出来、上出来。さすが私、器用だわ。……あー『何でもできる器用な女だから、俺がいなくてもたくましく生きていけるんだろうな』って誰のセリフだっけ……」
ふと思い出したセリフに精神的ダメージを受けながら、立てかけた木の枝を倒さないようにそっと洞窟内に体を滑り込ませる。その途端、既に体力ゲージが黄色どころか真っ赤だった体は、その場で膝から崩れ落ちる。
「あー。よかった。これで雨とか降ってもしのげるよ……ね……」
その言葉を最後に、私はそのまま意識を手放した。
本日2回目の意識喪失の主人公。
まだまだ名前が出て来ないですね。。。