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8/3:<強化><持久力><俊敏>を、<力強化><持久力強化><俊敏強化>に修正
あの後、一時間ほど全速力――たぶん時速にして十キロくらい――走った所で、私は肩で息をついていた。――技能の効果が切れたとたん、この様ですよ。
よくよく考えてみると、<力強化><持久力強化><俊敏強化>は元のステータス――体力とか俊敏とか――をUPさせるだけなので、元々のステータスが低い私が、突然圧倒的な力が手に入る訳もなかったわ。それに、1カ月の間引きこもりだったし、逆に以前よりも体力とか落ちてるかもね。いやー参った参った。
まぁ、そんな私が一時間の間、全速力で森の中を走れたのも、技能の熟練度がそれぞれLV3を超えていたからなんだけどね。――体力系の技能を効率よく使うために、もう少し基礎体力あげなきゃね……。
「それにはまず運動かなー」なんて、体力向上方法を考えながら、カバンの中から水を取り出し、ゴクゴクと喉を潤している時の事だった。
ガサッ
背後の草むらから葉が擦れる音が聞こえた。
とっさに<力強化><持久力強化><俊敏強化>の技能をかけ直す。これで何かあっても対処は出来るはず!
そして、パッと後ろを振り向き、音がした方に視線を向け身構える。
ガサッガササッガサッ
私から少し離れた藪の一か所だけが、音と同時にユラユラ揺れる。――間違いなく、そこに何かがいるようだ。緊張で手に汗が浮かぶ。
「誰!? 出てきなさいよ!!」
油断せず、藪に目を向けたまま、そこに向かって声を張り上げる。それと同時に、ジリジリと少しずつ後ろに後退し、相手との距離を空ける。これで、いつでも逃げ出せる。――後は、相手の姿を確認したら、今展開している技能を使い、ソレ叩き込んで逃げるだけだ。
すると、藪の中から黒い影が私の目の前に飛び出してきた。
今だ!!
相手に触れて、技能を叩き込もうと手を伸ばす。
――と、そこにいたのは……
「みゅうー。みゅうー」
みゅうみゅう泣いている、小さな黒い子猫だった。私の両手の上に乗りそうなくらい、小さな体をブルブル震わせ、目には涙をためて、こちらを窺っている。よく見ると、後ろ足に、黄色のブーツを履いている。
いやーーーっ!!? カワイイ子猫!!? って!! いやいやいや!! 子猫はブーツ履かないから!?
もしかすると、何かの罠かもしれないので、油断しないようにその子猫に向け、<完全なる解析板>からの派生スキル、<解析付箋>を発動させる。そして、そこに展開された簡易ステータスに目を向けた。
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名前:ヒュー
年齢:2歳
性別:男
種族情報:妖猫族
状態:迷子
魔法:なし
技能:ものまね
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……あれ? ケット・シーって、確か幻獣じゃなかったけ? あれ? あれはどっかのゲームの中だっけか?
状態が『迷子』となっているので、こちらに害意はない、というのは分かった。とりあえず、攻撃用に展開していた技能はキャンセルする。そして、いまだプルプル震えている子猫をこれ以上驚かせないように、ゆっくり話しかける。
「えっと、私の話す言葉、分かる?」
プルプル震えながらも、無言で首を縦に振る。――よかった、意志の疎通は出来そうだ。
「わたし、カエデ。よかったら、お名前教えてくれるかな?」
ステータスで名前は分かっていたけど、会話のとっかかりとして、そう聞いてみる。すると、恐る恐るだが、口を開いてくれた。
「ひゅ、ヒュー」
「ヒューくんね。――ヒューくん。ちょっと私とお話しようか?」
こくり、と頷く子猫――もとい、ヒューくん。
うん、まずいです。可愛いです。持って帰りたいです!!
――でもそんなことをしたら、きっと誘拐になるので、我慢します!!
伸ばしそうになる手を、必死で押しとどめ、いまだにプルプル震えるヒューくんを怖がらせないように、ゆっくりと近づき、近くに腰を下ろした。
「えっと、ヒューくん、パパかママはどこにいるのか、分かる?」
「……わかんにゃい」
「(うぐっ!! カワイイ!!)――そ、そう。じゃあ、いつまで一緒にいたのかな? さっきまで一緒にいたの?」
「しゃっきまで、いっしょ、いたにょ」
そう言って、またえぐえぐ泣き出すヒューくん。ぁぁあああ! 撫でたい!! 撫でたいけど!! 今の状態だと絶対怖がらせる!! 耐えろ、耐えるんだ私!!
ブルブル震えながら、無意識に動きそうになる腕を意志の力で止める。
「そ、そう。ヒューくんはどうして、ここに居るのかな?」
「……ぼきゅ、とんでちゃおしゃかにゃおっかけたら、ままもぱぱもいにゃくにゃってたにょ……えぐっえぐっ」
親御さんの事を思い出したのか、さらに涙が溢れてくる。あああ、どうしよう!! それに何? 『とんでちゃおしゃかにゃ』って!! 迷子になった原因のヒントなんだろうけど……
ん? ――とんでちゃおしゃかにゃ?……飛んでたおしゃかにゃ……飛んでたお魚!? なにそれ、魚って飛ぶの?!
きょろきょろと、辺りを見渡すと、先ほどヒューくんが飛び出してきた藪の向こう、かなり遠い所に、うすぼんやりと青白く光る何かがいくつも浮かんでいた。目を凝らしてじーっと見ると、その光の影は細長い魚の形をしているように、見えなくもない。
「……ねぇ、ヒューくん。お魚って、あれの事?」
私がその青白い光の方を指差すと、それにつられたヒューくんの視線がそちらを向く。そして、金色の目を大きく見開くと「あれにゃ!」とピョンピョン跳ねだした。
そちらに気を取られ、涙も収まったみたいだね……まずは、一安心である。
もしかしたら、あの魚を捕りに親御さんと来たのかもしれないので、ヒューくんに尋ねてみる。
「ヒューくん。もしかしたら、パパとママと、お魚さん取りに来たんじゃない?」
「そうにゃ! きょうにょごはん、おしゃかにゃにゃのにゃ!」
目をキラキラ輝かせ、「おしゃかにゃ! おしゃかにゃ!」と連呼するヒューくん。
――うん……まぁ、要するに『今日のご飯はお魚だから、一緒に取りに来た』って事だろうね。てことは、やっぱりあの光るお魚の群れの方に親御さんがいる可能性は高いよね。
とりあえず、手がかりらしき事が分かったので、魚の群れらしい所にヒューくんを連れて行く事にする。
「ヒューくん、たぶんあそこにパパとママがいるかもしれないから、一緒に行こうか?」
「いくにゃ! ぱぱとままのところにいくのにゃ!!」
そういうが早いか、一人でピョンピョン跳ね、その勢いのままそちらに走り出そうとする。また迷子になられると困るので、慌てて首根っこを押さえ、ひょいっと、腕の中に抱える。
「ヒューくん、私が連れて行ってあげるから、大人しくしててね」
「にゅー……。わかったにゃ」
逃げ出そうと暴れていたけど、私がそういうと、途端に大人しくなる。――うん。素直でいい子だね。だけど、この素直さが逆に心配だよ。知らない人に簡単について行っちゃだめだよ?
――まぁ、私も知らない人だけどね! 今は緊急事態って事で見逃して!
さて、取りあえず強化スキルも既にかかっているし、パパッと迷子の子猫ちゃんを届けに行っちゃいますか!




