002 ★
7/3:修正 文章のはじめの字下げ追加
7/21:改稿 書きミス等を直し、大幅に文章増やしました。
「知ら……あー……真っ暗かぁ」
目を覚ますと、辺りは真っ暗でした。テンプレ演出を期待した私、残念。
ちぇっ。ちょっと期待してたんだけどなぁ。
投げ捨てられた状態で地面にそのまま放置されていたためか、夏だというのに体が冷えている。ただし、殴られた両頬はまだジンジンしているし、腫れて熱を持っているのか、そこだけ熱い。凍えた両手を熱冷まし代わりに頬にあてつつ現状を把握しようと身体を起こす。
変な風に横たわっていたせいか、体の節々が痛い。
「いたたた……。あの偉そうで嫌味っぽい男、遠慮なしに人の顔殴ってくれちゃって。今度会ったらただじゃおかないんだから……」
キョロキョロ辺りを見渡すが、月明かりもなく、辺りは真っ暗。目をこらせば一メートル先くらいはなんとなく見えるけど、見える先は草と木ばかり。
うん、真っ暗。何も見えないね。さて、どうしたものか――
「あ! そういえば、私のカバン――は……ある! じゃぁ後は買い物袋!! どこにいった!?」
ショルダーバッグは幸いにも斜め掛けしていたので、肩にかかったベルトを辿るとちゃんとそこにカバンはあった。ひとまず安心である。「スマホとか財布とか無くしてたら洒落にならないし」とボソボソ呟きつつも、目を凝らして体の近くを探す。――と、の太ももに触れるかさりとした物体の感触が。一瞬びくっとしたけど、もしや……この感触は……恐る恐る手を伸ばすと、カサリ、とした感触。間違いなくそれは、私が後生大事に抱えてた買い物袋だった。
「あああ、よかった! 私の買い物袋ちゃん達!無事だったのね!! よかったー!」
安心した途端、喉の渇きを覚える。「そういえば……」とガサガサと音を立てながら買い物袋の中に手を入れる。そして手さぐりで目的の物を探し当て、それを引っ張り出した。
「あー、お茶買っててよかった。しかも紙パックじゃなくペットボトル! ナイス私!」
さっそく喉の渇きを癒そうと、右手でペットボトルの蓋を捻った。未開封から開封に変わるプシュッっと小気味のいい音が聞こえる。外した蓋を左手に持ち替え、右手で蓋の空いたペットボトルと握りしめて、口をつける。ゴクゴクゴクとお茶が喉を通り過ぎる音が、やけに響いて聞こえる。相当喉が渇いていたみたい。
喉の渇きが癒えた途端、ぐーっとなるお腹。そういえば朝から何も食べてない事を思い出して、ペットボトルのキャップを閉めて太腿と太腿の間で挟んで固定する。そうして空いた右手をもう一度買い物袋に手を伸ばし、ガサガサと目的の物を探す。すぐにそれは見つかった。
「じゃじゃーん、シュークリーム……って! げげっ!! つぶれちゃってるじゃないの!? 愛しのシュークリームちゃんがぁ~~。1か月ぶりの甘味だったのに……」
とほほ、と肩を落とし、つぶれたシュークリームの袋をバリッと開く。そしてつぶれてクリームの飛び出たシューを口に入れると、甘さが口の中に広がった。
「あー……つぶれててもおいしい……」
もぐもぐと一口一口噛みしめるようにシュークリームを食べ、最後のひとかけらを口の中に放り込むと、人心地ついた。
そうして、改めて周りを見渡してみる。少し闇に目がなれたけど、やっぱり目を凝らさないと全然見えな――って、そういえば。
「サングラスしたままなの、すっかり忘れてた」
ちょっと気まずくなったので、あはは、と誰も居ないのに愛想笑いを浮かべる。そして、いそいそとサングラスを外して、ショルダーバッグの中に片づける。
さて、二度目だけど改めて周りを見渡してみる。今度は先ほどよりも全然見える。そりゃ当たり前だよね。よく目を凝らすと、目の前にはだだっ広い何もない広場?荒野?が広がっていて、振り返ると真っ暗な森が口を開いていた。
……えーっと、ここどこ?
ポカンと口を開き、目を擦る。そうしてもう一度前後左右とキョロキョロ見渡したけど、結果は変わらず、そこには全然見覚えのない場所が。
「……ちょっと落ち着ついて、整理しようか私。まず、突然目の前が真っ暗になって吊り上げられて、意味不明な事を言われて殴られた。そして、更に意味の分からないことを言ってポイ捨てされて、そのまま放置プレイ……っと。――うん、色々あり得ないね」
一体どういう状況なら、こんな摩訶不思議な状態に置かれると? よくよく考えると突然人を知らない場所に拉致する事を、人は『誘拐』と言います。
うん。もしかしなくても私、誘拐されかかった?
そう考えると、あの偉そうで嫌味っぽい男が『ハズレ』とか口にしていた事も納得出来るし、人違いして誘拐したからこそポイ捨てされて放置……って流れになるのかも。そう考えると不幸中の幸いかもしれない。なんてったって、まぶしくてよく見えなかったとはいえ声もバッチリ聞こえてたし、足音とかその他情報で犯人たちが三人組というのは分かっている。
この特徴を警察に言えば、普通に捕まえられそうなもんである。家に帰ったらガッツリ国家権力を使ってやりますとも。ええ。日本の警察の検挙率は世界的に見ても高い、って言うし、逃げ切れると思うなよ! ――まぁ、その検挙率も『負け戦に手を出さないから稼げている』って噂もありますけどね……。
とりあえずその事に気がついて、いつ何時あの誘拐犯達が戻ってくるとも限らないので、まずは警察に電話してここまで助けに来て貰おう。そう思ってショルダーバッグからスマホを取り出し、画面を指でなぞってロックを解除する。
そしてそこに表示された文字を見て、電話のアプリを起動しようとしていた指が止まる。
「……うそ……圏外?」
スマホの画面に映し出される23時を過ぎた時間と、いつもならアンテナがちゃんと立っているアイコンの場所に『圏外』の文字。投げ捨てられた時にSIMが認識しなくなったのかと思い、一旦電源を切ってSIMカードを入れ直す。そして電源を入れ直す。起動時間がやけに長く感じる。見覚えのある画面が表示され、SIMカードを認識したと文字が表示される。けど、電波は繋がらず相変わらず無骨な『圏外』の文字が表示されるだけ。
これだけやっても電波が入らないってことは完全に電波圏から外れているって事になるよね……
顔から血の気がサーッと引くのが分かった。
「えー!? どこに捨てられたの私!? うわー!! このまま迷って死んじゃうとか嫌すぎる!! どーしよー!!!?」
今だ何がおきたのかよく分かっていない主人公。
そういえば自己紹介もまだだったり(笑)
次の話くらいには名前出すと思います。