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7/8:誤用修正 「煮詰まる」→「行き詰まる」
隠れ家から這い出た私はクレイさんに作って貰った手桶に貯めていた水で顔を洗った後、軽く体を曲げ伸ばしして少し固まった身体の筋をほぐした。そして、攫われた現場を探しに行こうかな、と思った所で後ろから声をかけられた。
「カエデお姉さま何してるの?」
「あ、ベルデちゃんおはよう。ちょっと技能の試運転がてら、私をこの世界に攫ってきたヤツの顔でも拝みに行こうかと思ってた所」
そう言いながら声のした方に顔を向けると、何やらたくさん物が入った手桶を両手で抱えたベルデちゃんがそこにいた。そして、はい、と言いならが手桶を差し出してくる。私はそれを受け取りつつその中を覗くと、イチゴみたいに小さな赤い実や、リンゴくらいの大きさの丸い青い実、それ以外にもなんだか分からないような果物らしきものが溢れかえっていた。
「これどうしたの?」
「朝ごはんにと思って取ってきたの。全部人間でも食べれるものばかりだから大丈夫よ」
「わぁ、いいの?ありがとう!じゃあ、さっそく一緒に食べようか!おなか空いてたんだ~」
今更ながら、ぐー、っと胃が空腹を主張してくる。そりゃ、夜通しご飯も食べずに動いてりゃ、おなかのひとつやふたつ空くよね。
ベルデちゃんから受け取った果物を軽く水洗いし、そして腰かけるのに良さそうな岩が丁度二つ並んでいたので、私とベルデちゃんはそこに腰かけそれぞれ果物・・・らしきものを手に取る。ちなみに私が最初に手にしたのはイチゴみたいに小さい赤い実である。・・・いや、疑った訳じゃないけど、原色に近い青やら紫やらピンクの実に手を最初に手を出す勇気はこれっぽっちもなかったのよ・・・。
小さな赤い実を口の中に放り込み歯で噛むと、ぷちっと実がはじけ、甘酸っぱくて瑞々しい味が口の中に広がる。イチゴ・・・っていうよりもどちらかと言えばクランベリーに似た味がする。酸味が強いけど甘いし嫌いじゃない味だわ、これ。
ふと、ベルデちゃんの方に目を向けると、ピンク色の卵型の実を手にしたまま私の様子を観察するかのようにこちらを窺っていた。
「どうしたの?」
「いえ・・・口に合うかと思って・・・」
「おいしいよ。私好きかも、これ」
そう思ったことを口にすると、ふ、と優しく微笑み、懐かしいものを見る目で私を見つめてくる。なに?私、なんか変な事言った?
「そう、よかった・・・それ、ルブスの実っていうのよ」
「へぇ、ルブスの実かぁ。もう一つ食べても良い?」
「ええ、たくさんあるからいっぱい食べて?」
「あはは、クレイさんの分が無くなっちゃうかもね」
「寝てる人が悪いんだから、気にする必要なんてないわよ。それに無くなったらもう一度取りに行くから大丈夫よ」とにこやかに言ってくれたので気にせず食べる事にする。うん、寝てる人が悪いよね、自分だけベッドで寝てる人が!
意外と青や紫の果物がおいしくて、二人で果物をすっかり平らげた後、軽く手を洗い流しながらベルデちゃんがさっきの話の続き聞いてきた。
「それで、攫ってきた人の顔を見に行くって言っていたけど、どこにいるのか分かるの?」
「いや、そこは流石に分からないけど<完全なる解析板>で攫われた場所の記憶を呼び出して、顔を拝んでやろうかなぁ・・・と」
そういうと、驚いた顔をされた。
「あの技能、そんなことまで出来るの?」
「『有機物』や『無機物』の記憶を読み取れるようにカスタマイズしたから、たぶん出来ると思う」
元にした魂の解析板の解析をしているときに『生命が今まで過ごしてきた記憶を抽出する』というような部分があって、そこを詳しく見ていると色々面白い事に気がついた。
抽出対象が『本人の記憶=脳』ではなく『生命に刻まれている記憶=魂』なんだよね、この魔法って。で、この魔法を使えば本人が『曖昧な記憶』や『ぼんやりとしか覚えていない記憶』も鮮明に呼び出すことが出来るみたい。
たぶん、この魔法を構築した人が私の世界みたいに『本人の記憶=脳』とは思ってなくて、『生命に刻まれている記憶=魂』として構築した結果なんだろうけど、よく考えれば人間の記憶って『自分に都合の良い記憶に書き換わったり』『美化されたり』『記憶を作り出したり』するから、劣化しない魂の記憶を抽出するほうが理にかなっていると言えるかもしれないよね。
意図的なのか恣意的なのかは分からないけど、曖昧な情報ではなく正確な情報を示すこの仕組みが面白くて、ファンタジー世界なのに意外と科学的だなぁ、と思ったら、なにか頭にぽやん、と浮かんだ。
そう、よくドラマなどで現場に残された遺留品や状況証拠を採取して鑑定・精査、そして解明・立証したりする『科学調査』をヒントにして魔法を技能にカスタマイズ出来ないのか、と思ったんだ。『科学調査』は科学的に多方面から識別を行う立派な技術だし、その鑑定結果は裁判とかでは重要な証拠として提出・採用されたりするんだよね。
まぁ、なんで私から科学調査が出たのかというと、単に以前連休の時に観た、連続放送の海外ドラマの影響なんだよね。はい、そこ寂しい時間の過ごし方とか言わない。泣くよ?
それはともかく、そこから草や木、土や石なんかの有機物や無機物なんかに残された遺留品・・・たとえば髪の毛や汗なんかを取り出してそこから記憶を読み取ろうとカスタムしてみたんだけど、結果はうまくいかなかった・・・というか完全に失敗だった。そりゃそうよね、身体から離れた途端『魂の記憶』っていう概念から外れちゃうんだからさ。
そこからちょっと行き詰っちゃったんだけど、少し方向性を変えてみる事にした。
元にした魔法は元々『生命に刻まれている記憶=魂の記憶を抽出する』事が出来ているので、それを『有機物』や『無機物』にまで幅を広げてみることは出来ないか、と思ったのだ。
はい、そこ、疑問に思った?無機物に生命は宿らないんじゃないかって?そう、普通はそう思うだろうけどここはファンタジー世界。クレイさんやベルデちゃんに聞いてみた所、なんとちゃんと草や木、土や石なんかにも生命・・・まぁ、ぶっちゃけ精霊の元?みたいなものが宿ってるんだってさ。そこから月日を経て精霊化するそうな。てことで、元々の魔法は人や精霊なんかの形になったものしか対象ではなかったようなんだけど、その対象範囲を『有機物』や『無機物』にまで幅を広げる事が出来たんだよね。
ふ、『科学調査』はどこに行ったって?いや、ほら、あれですよ。作った技能をどういう風に使うのか、っていう技能化の指針にはなったわけよ!まぁ、そんな感じで上手くカスタマイズ出来たんだから、無駄じゃなかった、と言いたい。
実は、技能化の条件はまだまだ謎だらけなんだよね。まぁ、追々色々試してこのあたりの条件はちゃんと調べる予定。もしかすると「これ技能っぽい!」って思いこむことが必要だったりするかもしれないし。・・・まさかね。
と、まぁ、説明が長くなったけど、せっかくカスタマイズして作った技能なので何か出来ないかと考えたら、しつこいけど『科学調査』ぽく現場に行って現場の記憶を読み解いて攫ってきたヤツの顔を見る事が出来るんじゃないか、と思った訳。
その辺りの説明を掻い摘んでベルデちゃんに話すと、納得した顔で頷かれた。
「精霊化する前の状態に呼びかけて情報を見る、ということね。分かったわ。・・・ねぇ、カエデお姉さま、私も一緒に行っていい?」
「え?来てくれるの?助かる!いいよ、一緒に行こうか!」
ちょっと一人では心細いかな、と思っていたところなのでこの申し出はありがたい。一も二もなくその申し出を受け入れると、さっそくとばかりに腰かけていた岩から立ち上がった。
じゃぁ、さっそく場所探ししますか!取りあえず来た道を戻って、そこからだね。道が分からなければそこは技能の出番だし、熟練度上げにもなって一石二鳥だしね!
きっちり顔を拝んで覚えてやるから、覚悟してなさいよ!!
補足として。主人公も言っていますが、実は技能化するには思い込み、というか「主人公が技能として認める」事が必要になります。
まぁ、子供なら火が何もない所から出たり、風が出たり、という事を技能として思い込む、認める事も可能だとは思いますが(小さいころ手品とかで何もない所から火が出る、って思ったこと無いですか?あの感覚です)、ある程度社会経験積んで、色々世の中を見てきたアラサーなので、いくら想像力があっても根本的なところで認められないんでしょうね。
興味本位で色々なことを調べてきた弊害ともいえますが、頭が固いというかなんというか・・・(苦笑)




