幕間:その3
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さて、幕間は今回も三人称で書いてますが・・・どうでしょうか?ご意見頂けると助かります!
「ええい、まだ着かないのか!?この役立たずめ」
男はイライラした様子を隠さずに馬車から顔を覗かせると、馬車を引く魔獣を操っている亜人奴隷にそう言葉を吐き出した。
年のころは20を過ぎた頃だろうか。艶のある赤胴色の髪に映える真っ白な肌。太い眉毛の下には薄茶色の瞳。そして軽薄そうな薄い唇。10人いれば8人は美形というような容姿であり、意外と引き締まった体躯は柳のようにしなやかで、身を包む服装からも身分の良さが伺える。
ただ今は長旅のせいか毎日召使に手入れをさせていた髪や肌は荒れ、よく見ると身に纏っているマントやブーツは泥が跳ねたようなあとがあり薄汚れている。
いつもなら身の回りの世話をする召使の一人や二人は連れてきてもいいはずなのに、今回は自身と家令の男、それに道案内と従者を兼ねた亜人奴隷の男の3人で殆ど休まずある場所に向かって最速で馬車を走らせていた。
男が貴族のたしなみとして幼い頃から学ばされた剣術や学術は意外と水にあっていたようで、それらをあっという間に自分のものにし、師や周りからは天才だの神童だのともてはやされた。それが筆頭貴族の父親に向けたご機嫌取りの言葉とも知らず。
余りにもうまくいくせいで、『自分は人よりも優れている』『自分は何をしても上手くできる』と思い込む。そして、自分に心地いい言葉だけを言ってくれる友人と言う名の取り巻きの甘い言葉は彼の自惚れを助長させ、いつの頃か、剣術の稽古に出る事もなく勉強に精を出すこともなくなった。
そんな男が16歳になったある日、男は取り巻きの一人に連れて行かれたある場所である遊戯に夢中になる。
貴族が互いに出した剣闘士の一方が倒れるまでの戦いであったり、奴隷対大型魔獣のほぼ一方的な殺し合いであったり、奴隷対奴隷同士の殺し合いであったり、そこに立つものすべてが命を懸け真剣に戦う場所・・・そう『闘儀大会』の遊戯に夢中になったのだ。
最初の頃は小遣い程度のはした金をかける程度だった。
どの剣闘士が勝ち抜くのか、血に飢えた大型魔獣から何人の奴隷が生き残るのか、予想をし、札を買い、程ほどに金を増やす。
それが、いつの頃から多額の金を賭けるだけでは飽き足らず、自分の奴隷を闘儀大会にだし優勝させたい、自分が最強の剣闘士を所有していたいという名誉欲がムクムクと湧き出してきた。
そのきっかけになったのは、何時ものように闘儀大会で遊んだ帰り道、たまたま道端で売りに出されていたひょろひょろの少年亜人奴隷を目にした時だった。
たいして高くもなく、今日の闘儀大会で少し儲けた金で買える、使い捨てても問題無いような薄汚れた奴隷。
男はものは試しとばかりにその少年を買い、専属奴隷契約を済ませると、その足で『奴隷対魔獣の生き残りゲーム』に少年を放り込んだ。
突然の事にその少年は訳も分からずただただもがいた。
生きるために必死で魔獣から逃げ、抗い、その身にあった左腕を無くしても時間制限ぎりぎりまでなんとか生き残った。
『奴隷対魔獣の生き残りゲーム』で奴隷が生き残る事は殆どない。わざわざこのために餌を与えられず、腹を空かせた魔獣が目の前にいる奴隷をあっという間に刈り取るのだから。
そして、そのめったにない事が、たまたま買った奴隷の身に起きた。
渡された多額の報奨金に目を見張り、生き残った奴隷を所有する男を褒め称える言葉が耳に心地よかった。
それから男は『闘儀大会』に自身の奴隷を出す事に夢中になった。
より強そうな奴隷を買い求め、より名誉と栄光が手に入る剣闘士同士の戦いに放り込む。
自身の奴隷が勝ち上がった時には舞い上がり、負けた時には悔しがる。
そんな生活を20になるまで続けただろうか?
戦えそうな奴隷は一人として生き残らず、男に残ったのは奴隷を購入するために高利貸しから借りた多額の借金だけだった。
そして、それが返せるはずもなく、親の知るところとなった。
男は焦った。
そろそろ父が引退し自分に爵位と領地が回ってくるその金で借金を返そう、そんな皮算用をしていた時だったからだ。
男の借金の話しなぞ寝耳に水で、その金額の多さに父親は大激怒した。
男がどんなに言い訳しても父は話を全く聞き入れず、そればかりか自分が引退する来年の春までに男が借金を返済しきれなければ、貴族の称号をはく奪し、忌々しい事に自分に回ってくるはずだった権利を弟に渡すという。
男に金を返す当てもあるはずもなく、やはり思いついたのが『闘儀大会』で一山当てる事。しかし新たに奴隷を購入するツテも金もない。
貴族らしからぬ寂れた酒場で、ヤケ酒をあおっていた男がそこで偶然耳にしたのが、現在最強と呼び声の高い亜人奴隷を手に入れたのは自分だ、という奴隷商人の話だった。
それは「『深淵の大樹林』にある焦土と化した戦痕である魔道具を使い異界から召喚した」という殆ど眉唾ものの話だったが、藁にもすがる気持ちだった男は酔いのせいもありその話をすっかり信じこんだ。
そして、その場にいた奴隷商人に「どんな魔道具を使ったのか」「『深淵の大樹林』のどこにその場所があるのか」と躙り寄り、奴隷商人が持っていたその魔道具を殆ど奪い取る勢いで買い取ると、取るものも持たず馬車に飛び乗り「深淵の大樹林」に向かったのだった。
帝都を旅立ち幾数日がすぎ、馬車は山脈を上りきれないところで乗り捨て、普段では人が越えることは出来ない険しい山脈を、騎乗した魔獣の力と亜人奴隷の道案内の末ようやく越えた。
そして大樹林に魔獣に騎乗したまま乗り込み、ようやく焦土と化した戦痕へ辿りついた頃、男は鼻息も荒く意気揚々と銀糸と金糸で出来た釣り糸に玉虫色に光る釣り針を仕掛けると、黒々とした大地に垂らした。
すると、釣り糸と釣り針はまるでそこが水面であるかのように、つぷん、と地面に丸い波紋を作り沈んでいく。
そうして釣り糸を地面に垂らしたまま、10分、20分と時間がたつにつれ男の表情に苛立ちが混じる。いらいらと釣り糸を上下に動かし、場所が悪いのかと思い、点々と場所を変えるが当りは一向にこない。
なんだ?全然当りがこないぞ?もしや、騙された!?
あんな高い金を出してわざわざこんなところまできて偽物とかシャレにもならんぞ!?
そんな時だった、釣り糸を垂らしている地面が黒く光りだす。そして、釣り糸に重さが加わった。当りが来たのだ。
来た!!これで私も強い奴隷を手に入れ、借金なんぞすぐ返してやる。
弟なんぞに爵位も領地も渡してたまるか!
鼻息荒く、男は釣り糸を引き上げようとするが重くてなかなか巻き上げられない。
「おい、お前らもぼーっと突っ立っていないで手伝え!!!」
男は釣り糸から手を放さず、後ろに控えていた家令の男と亜人奴隷に怒鳴りたてる。今ここで手を離せば全てが無駄になるのだ。
男三人がかりで釣り糸を必死に巻き上げる。
すると、数分もたたずに黒い光の輪からずるりと何かが引き上げられるのを眼にした。
やった!とうとう手に入れたぞ!最強の奴隷!!
男は歓喜の声をあげそうになるが、宙にぶら下がったその姿を見て驚愕で目を見開く。
何だ!?この貧相な小娘は!?こんな小娘が最強の奴隷であってたまるか!!
そう、そこに姿を現したのは自身が望んでいたような屈強な姿をした男ではなく、小柄で小さな女が宙にぶら下がっていたのだ。
「なんだ、ハズレか」
まぁいい、一度釣れたのならコレが本物だと言うことが分かった。こんなもんに関わっている時間なんぞないんだ、さっさと次だ次。
男がそう言い放つと、その女は何が起きたのか分からないような視線をこちらに向けてくる。
その視線がまるで自分を責めているように感じた男は、ただでさえイラついてささくれ立っていた神経を尖らせる。
そして、考えるまもなく右手を振り上げその頬を打った。
「なに生意気に睨みつけているんだこのガキ。私を誰だと思っている」
男がそう言い放つと、女はその言葉には一切答えずにジタバタと暴れだす。そんな態度がより一層男の神経を荒立たせる。
生意気な!私の言葉に答えを返さないとは!ハズレのくせに!!
「この、ガキが!せっかく高い金出して買った釣り針を1本無駄にしたじゃないか!!」
イライラとする感情のままに右に左に女の頬を殴りつけていると、普段なら主人である男の許しなく声をかけることがない、男の後ろで控えていたはずの家令の男が、男が振り下ろした腕を掴み声をかける。
「坊ちゃん、そのくらいでおやめ下さい。こんな事に無駄に時間を割いていては間に合うものも間に合わなくなってしまいます」
その声と行動に我に返ったのか男は振り上げていた腕を下ろすと、身を縮ませている女から興味を失ったように視線を逸らした。
「・・・ふん、そうだな。おい、目障りなこいつをさっさと外してしまえ」
「彼女はどうしますか?」
「知るかそんなガキ!そこらにでも投げ捨てておけ!私は場所を変える!」
「かしこまりました」
男はそういうとその場から立ち去り、後に残された家令の男と亜人奴隷の男が急いで女にかかっている釣り針を外す。そしてそのまま女を出来るだけダメージがないように地面に投げ下ろした。
「ごほっ!!げほっ!!!」
地面に倒れ伏し、咳き込む女に哀れみの視線を向ける家令の男と亜人奴隷の男だが、主人がこの場を立ち去った今、すぐに後を追わないと今後どんな事が起こるか分からない。
哀れみの視線を残したまま、家令の男と亜人奴隷の男はいそいそと主人の後を追う。
その場に残された女はしばらく咳き込んでいたが、しばらくすると全身から力が抜けたように身動き一つしなくなった。
その後、男は残った釣り糸と釣り針で自身の想像通り強そうな人間の男と、亜人の男を二人吊り上げ、その場で隷属の刺青を施すと意気揚々と帝都に帰って行った。
そして連れ帰った奴隷の二人を使って『闘儀大会』で一山当てる事ができた男は、やはり自分がやることに間違いはない、と更に自惚れを助長させていくのだった。




