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あああああああ  作者: けろっぐ
第1部:誘拐された(さらわれた)みたいです
2/42

001 ★

6/30:誤字修正 消して→決して

7/3:修正 文章のはじめの字下げ追加

7/20:改稿 書きミス等を直し、大幅に文章増やしました。

「なんだ、ハズレか」




 私を吊り上げていただろう針が襟首から外され、乱暴にその場に投げ捨てられる。


 私は物じゃないぞ。それにリリースするなら元の場所に戻すのが常識じゃない。釣り人としてのルールも守らないのか、コノヤロウ。







 ある晴れた昼下がり……と、どこかで聞いたことがあるようなフレーズがぴったりな、青空が広がる真夏日の丁度お昼を過ぎたあたり。ジリジリと照りつける日差しを完全UVカットの日傘でシャットアウト。それでも防げない道路からの照り返しは、夏に着るには少し暑い大きめのフード付き長袖パーカーのフードを目深にかぶり、顔の半分を覆うくらいのUVサングラスをかける事でカバー。


 そんな夏の日差しと真っ向から戦って、外出しようとしている一人の女の子がいました。


 ……って、その女の子は私なんだけどね。——怪し過ぎる恰好とか言わない。この格好は皮膚科のお姉さまたちから教えて貰った、紫外線対策完全防備の姿ですよ?


 

 いやいや、ウソじゃないし。コレが本当なのよ。皮膚科のお姉さま達に「何が怖い?」って聞いたら、みんながみんな「日焼け」って言うんだよ。太陽が出てる時に外に出るのは絶対嫌で、それでも出なきゃいけない時はこんな感じで紫外線対策するんだって。


 始め、その話をお姉さま達から聞いた時は、「うっそだー」って私も軽く聞き流してたんだけど、先週友達が「ビーチに似合わない集団を見た」って楽しそうに写真付きでメールしてきた時、それを見てピンときた。


 あー、この集団あの皮膚科のお姉さま方だわ。って。 


 院長先生(男性 45歳独身)が、毎年そのビーチでイベント開催しているらしく、聞くところによると皮膚科のスタッフ全員が強制参加らしい。「真昼のビーチとか、絶対行きたくない!」「夏のビーチとか照り返しばっかりで肌には敵なのよ!!」って、言っても絶対耳を貸さないらしいんだ、院長先生。だからお姉さま方は、ほぼ嫌がらせのようにビーチには全く似合わない姿で、毎年毎年行っているらしいんだけど、どういう訳かイベントが中止になる事は無いんだって。


 ……たぶん、みんなの水着姿がみたいんだよ。先生の男心分かってやってよ。




 まぁ、そんなお姉さま達からお墨付きを貰った、夏の紫外線対策バッチリの恰好をして、久しぶりの休みを満喫するべく買い物に向かったのである。



 ――町中だから、きっとそんなに浮かないよね。この格好。












「おっひるご飯はオ~ムライス~♪おやつはシュークリーム♪ふんふふふ~ん♪」



 あの後、スーパーや本屋さん、洋服屋さんなどを一人でハシゴして色々な物を手に入れた私は、すこし外れた音で鼻歌を歌いながら上機嫌でアパートへの帰路についていた。


 丁度、休みに合わせて給料+特別ボーナスが出ていたので、普段は買わないようなちょっと贅沢した食材や、給料が入ったら買おうと思っていた物をたんまり購入。ナイスタイミングで開催していた福引を引いて、これまたたんまり景品を頂いた。両手に大きな買い物袋を一つづつ持ち、スキップしかねない勢いで歩いていると、突然パーカーの襟首をぐいっと引っ張られたと思ったら一瞬にして目の前が真っ暗になった。



 え!!何!?何なの!?



 突然の出来事に声を上げられない私をよそに、体感的に恐ろしいスピードで上へ上へと引っ張り上げられているような感覚――急激にかかったG(重力加速度)のせいで身体に何かが押し付けられたような負荷がかかる。



 ちょっ!!襟首が締まって息苦しいし、身体痛い!!

 はっ!!それよりも今日買ったものを絶対落とさないようにしなきゃ!!私の今日の夕飯が!!久しぶりに贅沢したんだから!!



 身体にかかる抵抗力に四苦八苦しながら、荷物を決して落とさないようにぎゅうと両手に力をいれた。その途端、突然目の前が明るくなり、それとともに体にかかっていた負荷が一瞬で無くなった。




 心構えも身体の準備も出来ていない状態で、真っ暗闇から明るいところに出たせいで、光に目が焼かれ何も見えない。「サングラスをかけているのに目を焼く光っていったいなんなの!?」そうも思ったけど、現実問題今見えるのは真っ白な世界のみ。軽くパニックになりかけそうになる。


 ただ、私の体を引っ張り上げていたあの恐ろしいまでのスピードはすでに止んでいて、身体が宙にぶらーんと浮いている感覚がある。


 いや、襟首を引っ張り上げられている状態のまま空中で固定され、ぶらりと体が吊り下げられている状態、と言ったほうが正しいかもしれない。


 何とか光に目を慣らそうと、しぱしぱ瞼を瞬かせていると



「なんだ、ハズレか」



 偉そうで嫌味っぽい男の声が、私の目の前で聞こえた。



 ……ちょっと、ハズレって何のこと?もしかしなくても私の事を言っている?



 何度か瞼を瞬かせていたためか、ぼんやりと目の前が見えてきた。ぼんやりとしか見えないが、私の目の前に確かに人の形をした何かがいる。「たぶんソレがさっきのイラッとくるセリフを吐いた奴だ、よく見てやろう」と思い目を細めた瞬間



 バシン



 左頬に大きな音と、ヒリヒリじゃ生ぬるいような鋭い痛みが走った。



 え……今こいつ殴っ……た……?



「なに生意気に睨みつけているんだこのガキ。私を誰だと思っている」



 突然起こった出来事に、全く意味が分からない。「『私を誰だと思っている』?何の事よそんな事。知らないわよ、アンタなんて!!」そう声を出そうとするけど、襟首が締められているので、声を出そうにも出せない状況なのだ。苦しくてジタバタと体を動かすけど、余計に首が締まる結果に。


 そんな事をしていると、直ぐに答えが返ってこない事に自分への侮辱――男の言葉を無視していると受け取ったのか、突然男は声を荒げ出した。



「この、ガキが!せっかく高い金出して買った釣り針を1本無駄にしたじゃないか!!」



 バシン、バシン



 右に左に痛みが走り、痛みと悔しさで涙で目が滲む。

 


 私が何をしたっていうのよ!!勝手に吊り上げて勝手にキレてんじゃないわよ!!



 理不尽な暴力に身を縮ませていると



「坊ちゃん、そのくらいでおやめ下さい。こんな事に無駄に時間を割いていては間に合うものも間に合わなくなってしまいます」



 殴りつけている男を諌めるように、横合いから掠れた男の声がかかる。



「……ふん、そうだな。おい、目障りなこいつをさっさと外してしまえ」

「彼女はどうしますか?」

「知るかそんなガキ!そこらにでも投げ捨てておけ!私は場所を変える!」

「かしこまりました」



 ザッザッザッ……と遠ざかる乱暴な足音と、近寄ってくる二つの足音。それと同時に私を吊り上げていただろう針が襟首から外される。ふわっとした一瞬浮遊感の後、腕の方と足の方を持たれ、そして軽く体を左右に揺すられたと思ったら、地面にどさりと投げ捨てられた。



「ごほっ!!げほっ!!」



 圧迫感から逃れた喉は無意識に大量に空気を取り込むけど、突然のことに器官が驚いたのか盛大に咳き込んでしまう。




 私は物じゃないぞ。それにリリースするなら元の場所に戻すのが常識じゃないか。釣り人としてのルールも守らないのか、コノヤロウ。




 悔しくてこんな目にあわせた男の顔を覚えてやろうと、顔を上げようとしたが咳がまったく止まらず、息苦しさにその場に倒れこんだ。


 草がつぶれた青臭い匂いや土の匂いが私の鼻を突く。



 あー……やばいなぁ、頭がぐらぐらする……目の前が……暗くなって……きた……




 私はそのまま意識を失った。

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