幕間:その2 ★
主人公が目覚める前の一コマ。
このままいくと、主人公の容姿が出て来なそうっていう事と、ベルデが固かった理由を。
7/28:改稿 書きミス等を直し、大幅に文章増やしました。
突然起こった予想外の魔力交換で、ベルデとカエデの契約が成立した。
しかも『人族』と。
ベルデから見て、彼女はとても不思議な存在だった。
ベルデよりも頭一つ分ほど背は高いが、小柄な部類に入るだろう。そして、この暑い中、枯草色をしたフード付の長袖と、厚目の生地をした黒の長ズボンを身に纏い、肌の殆どを覆い隠している。唯一肌が見えるのは、目深にかぶった大きめのフードからすこしだけ覗く、黒髪と白い顔。そして袖から出ている、白い小さな手だけだった。
人族のはずなのに、初めて顔を合わせた時には、嫌悪感や差別の意識をベルデに向ける事無く、気軽に話しかけてきたし、目線を合わせるようにしゃがんだ時にフードの中に見えた口元は、ニコニコと自然な微笑みを浮かべていた。
ベルデの人族に対する印象は全く良くはない。「一切関わり合いたくない」と思っているほど、『最悪・最低』ランクだ。
目をさまし、声をかけてきた相手が人族だと分かった瞬間、言葉も交わさず姿を消そうとした。しかし、ニコニコと笑み作り話しかけてくるカエデに、何故かベルデは言葉を返してしまった。
「一切関わり合いたくない」と思っている相手なのに。
ベルデ本人も、何故言葉を交わしてしまったのか全く理由が分からなかった。そして、そのまま会話を続けてしまう事にも。
ましてや、名前を聞かれた時、仕方なくも昔の名前をさらりと明かしてしまった事にも自分自身が驚いた。すでに意味のない名前とはいえ、それを人族に対して口にする事が、どれだけ危険か分かっている筈なのに、だ。
魔法を司るモノにとって、真名はマナに通じる。
契約者に真名をつけてもらい、真名に縛られる事により、契約者は魔法を司るモノから力を借りる事が出来る。その代り、契約者は契約を結ぶと自身の力――魔力を糧として与える。
その為、契約される側の意志で、「この人の傍に居たい。この人となら契約したい」と思う相手でなければ、契約を結ぶ事は無い。要は契約者の魔力の質が契約される側の好みに合わないと――キラキラ光る宝石に興味がない相手にソレ提示しても、興味を引くことが出来ないのと一緒――契約が成立する事は無い。
そして、一度契約が完了すると、契約者は一部の力を自由に借りる事が出来る。それは、契約される側の能力の場合もあれば、単純に魔力の場合もある。使役者の意志一つでその対象は変わるのだ。
ただし、契約される側の意志が尊重される契約にも、一つだけ例外がある。魔法を司るモノの真名が分かれば、強制的に契約を結ぶ事が出来る呪術が存在するのだ。それは、契約者が死ぬ瞬間――契約者を生贄にし、契約が破棄されるタイミングを狙う事で強制的に取り込む――契約を書き換える――事が出来る、というモノである。
しかし、|その場合《強制的に取り込まれた場合》だと、魔法を司るモノは強制契約者の魔力を糧として得る事が出来ない。そして、契約を破棄する事も逃げだす事も出来ない。その為、最終的には魔力を全て使い果たし、消滅する事になる。
そして、この呪術を生み出したのが『人族』なのだ。
――遠い昔、まだ人族がこの世界に現れだした頃、何事にも興味をもつ魔法を司るモノが、興味本位で人族と契約を結んだことから、この世界の何かが狂った。
それまでは、人族は祝福を持っていないため、この世界では魔法を使う事が出来なくなっていた。今まで魔法を使う事が当たり前だった世界からやってきた人々は、魔法が使えないことに落胆し、魔法なしの生活を余儀なくされた。
今まで、便利な力に頼り切っていた人族は、魔法なしの生活では日々の糧を得るのが精いっぱいで、細々と生活していた。
そこに、魔法を司るモノと契約し、魔法が使える者があらわれたのだ。久しぶりに使えるようになった魔法に歓喜し、初めて使う魔法を司るモノの便利な能力に興奮した。そして、そこから人々の生活は好転し、小さな集落だった場所は町に、町は街に、そして国へと瞬く間に成長した。
始めのうちは魔法を司るモノに感謝し、共に仲良く生活をしていた人族だが、与えられる力だけでは足りない、と思う一部の人が出てきた。そして、何故自分の好きなように力が使えないのか不満になり、自分の魔力を分け与えるのにも不満に思うようになってきた。
そんな折、ある一人の男が契約精霊から『精霊石』の存在を聞かされる。その精霊は、軽い気持ちで口にしただけに過ぎなかった。「自分の魔力は精霊石以上のものは出せないの……」そう、話の流れでしゃべっただけに過ぎなかった。
そして、まさか、今まで仲良く過ごしていた契約者に、自分の精霊石を奪われるとは思いもしなかった。
精霊石を手に入れた男は、今まで以上の魔力を自由に使える事に歓喜した。そして、精霊や幻獣から精霊石さえ手に入れれば、もっともっと力を手に入れられる、と考えた。
だが、そんな男と契約しようというモノは現れるはずもなかった。そして、自身の持っている精霊石の力が徐々に弱くなるに従い、次第に苛立ち、焦りだす。魔法が使えなくなる生活に戻るなんて、考えたくもなかった。
そして、男はある事を思いつく。
『契約する精霊がいなければ、奪い取ればいいのでは?』
すぐさま、男はその閃きを形にするべく、机に向かう。
男は希代の天才と言われるほど、魔法の才能にあふれていたが、残念な事にその性格は恐ろしく歪んでいた。何事も自分が一番でないと気が済まない、自分以外のモノは全て自分の為にある。自分さえよければ後は知らない――そんな思考の持ち主だった。
そして、男は瞬く間に一つの呪術を完成させた。
<簒奪そして監獄>――他者の契約精霊を奪い取る呪術である。
精霊と契約している人物を攫い、脅し、時には拷問し、その真名を聞き出す。そして、契約者を生贄にし呪術を発動させ、契約が破棄されるタイミングで精霊を取り込む。取り込んだ精霊はその場で精霊石を奪い、消滅させる。
男の元には無数の精霊石が集まり、男の欲望はエスカレートしていく。そして、有り余る精霊石を使い、暴虐の限りをつくし瞬く間に一つの国を支配した。
その頃になると、魔法を司るモノは人族との契約を気軽に行う事を禁止とした。これ以上同胞を奪われ、消滅させることは出来ないと。
これに怒りをあらわにしたのは、魔法を司るモノと契約する事により、魔法を使えていた人々。今更便利な力を手放す事は出来ないと、その怒りの矛先をあろうことか、魔法を司るモノに向けてきた。そして、人族の国から逃げ遅れた精霊に、無理やり契約を迫る。しかし、人族との契約は禁止されている為、精霊は契約を拒否する。
それに怒った人々は、勢い余って精霊を消滅させてしまう。すると、その場に残った『精霊石』に気がつき、そして、これさえあれば自由に魔法が使えるという事に気がついた。
そこからは、早かった。
人族は魔法を司るモノを見つけると、次々と消滅させてゆく。そして、それに比例するように人族は繁栄し、魔法を司るモノは数を減らし、人族の前に姿を現す事は無くなった。
そんな事があり、過去の過ちから人族との契約は禁忌とされている。
(私に契約の意思もないのに――ましてや新しい真名をつけて貰っていないにも関わらず、契約が結ばれた……。一体何故?)
そう物思いにふけっていたベルデは疑問を確かめる為、昏倒して倒れ伏しているカエデの頭を座った自分の足の上に乗せた。そしてフードを外し、顔を露わにした。
そこに現れた顔を見て、ベルデは少し驚いた。
肩の位置で切りそろえられている、まっすぐな黒い髪。顔半分を隠すほど大きいメガネには、薄い茶色の――ガラスらしきものがはまっている。その奥に見えるはずの瞳は、今は閉じられている為、何色かは分からない。そして、抜けるような白い肌に映える、小さくて真っ赤な唇。美人ではないが、とても愛らしい顔立ちをしている。
そして、その容姿は少し幼さを残しており、この世界の人族で言えばおそらく十を少し過ぎたあたりだと思われる。
意外と若い事に驚いて、少し手が止まっていたベルデは、思い出したかのようにカエデの前髪をかき分け、その丸くて小さな額を露わにした。
そして、その額に自身の右手をあてて、<魂の解析板>を唱える。すると、カエデの体から青白く光る大量の文字がクルクルと二重らせんを描くように宙に躍り出る。そして全ての文字が出終わると、二重らせんを描いていたたくさんの文字が一定の規則に沿って宙に並ぶ。それはまるで切り取られた本のページのように見えた。
<魂の解析板>は"失われた魔法"である。確認出来る情報は文字通り魂――生命全ての情報を見る事が出来る魔法だ。
『属性』『称号』はもちろん、使える『魔法』や『技能』等に至るまで幅広い。よくあるRPG系ゲームのステータスを閲覧出来る能力と言えば良いだろうか。それを自身や他の生物――虫や植物に至る魂を持つありとあらゆるモノ――に使用する事が出来る。
ただし、使用するには相当の魔力と、出現した文字を読み取る能力が必要になる。しかも、出現する文字は使用された生物や物によって言語が異なるため、読み取り専用の魔法も使わなければならず、二重に魔法を使用するという高等技術が必要になる。
ちなみに、現在主流として使われている解析系の魔法は<解析眼>という魔法で、解析できるのは『属性』『称号』と『技能』までであり、<魂の解析板>の劣化版というところだ。ただ、読み取れる情報が少なくなってるが故、魔法を取得さえすれば誰でもその情報を読み取ることが出来る。そこに関しては<魂の解析板>よりも優れていると言えるだろう。
さて、ベルデは<魂の解析板>を利用できる程の魔力と、文字を読み取る事が出来る魔法――<言語眼>も並行して使う事が出来る。"リヒトの大樹"の種子から生まれた特別な精霊だからこそ出来る芸当である。
ベルデは宙に浮かぶ文字列……青白い文字が並んだ透明な板に目をやり、<言語眼>を唱えた。そして、そこにあり得ない情報を見つけ、ベルデは驚愕に目を見開いた。
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名前:カエデ ハヤカゼ
年齢:24歳
性別:女
生国:地球 日本国
種族情報:半人族
[髪]白銀 [瞳]淡紅 [肌]白
魂:ルクスの欠片<記憶封印(光)>
***以下情報閲覧不可***
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生命に宿る全ての情報を閲覧する事が出来るはずが、目に見える情報と魂の情報以外一切閲覧出来ない。そして、あの日あの時に守れなかった、懐かしい存在の名前がはっきりと刻まれているのを見つける。
(そう……アナタだったの。だから契約が出来た――ううん、契約が再開されたのね……)
そこに書かれていた魂の情報に懐かしい名前を見つけ、その大きく見開かれた緑の瞳からは涙が溢れる。一つまた一つとしずくが零れ落ち頬に筋を作り、流れ落ちた一粒のしずくはポタリとカエデの頬に落ちた。
「……ん」
その微かな刺激に影響されたのか、小さく声が漏れ、まつ毛が細かく震えだす。どうやら目覚めの時が来たようだ。
ベルデはカエデの頬を濡らした涙を、右手でそっと拭うと声をかけた。彼女の覚醒を促す為に。
そして、そっとベルデは心に固く誓う。二度と彼女のそばを離れないと。
そりゃ、前世のマスターが人族にされた恨み辛みが色々ありますから、人族には警戒心ありますよね。。。
さて、主人公のステータス詳細や容姿の謎とかは次回!
・・・だせたらいいなー




