幕間:その1 ★
タイミング的にここかな、って思ったのでちょっと主人公無双始める前に幕間を差し込みます。
本当は主人公のサイドで書く予定だったのですが、テイストが暗くなったので今後出てくる予定の彼らの話を先に出しました。
7/3:修正 文章のはじめの字下げ追加
7/25:改稿 書きミス等を直し、文章を少し追加しました。
そこはとてつもなく広い広間だった。
大人を百人いれてもまだ有り余る程の広さ、と言えばその広さが想像出来るだろうか。
そんな広間には見上げるほど高い天井、そこから白い円柱が左右に二本、計四本が均等な間隔で床まで伸びている。
天井には幻想的で美しい巨大なフレスコ画が広がり、そこから吊り下げられた王冠型の豪奢なシャンデリアがその美しさを引き立て、その幻想的な絵を明るく照らしている。
シャンデリアの光は、天井以外にも一面金箔の浮き張りがされた壁や、一筋の汚れもないほど磨かれた大理石の床、そして広間の入口から玉座の前まで敷き詰められた赤い絨毯を煌々と照らしていた。
そんな豪華絢爛な作りの広い広間の奥に、そこだけ段高く作られた場所がある。そこは、無数の宝石で飾られた豪奢な椅子が置かれていた。
そんな煌びやかな椅子に、一人、座る影があった。
最初に目を引かれるのは、黄金の額飾り。その中央にある真っ赤な宝珠が、まるで第三の目のように燦然と輝いている。
そして、次に目がいくのはその容姿。つややかな漆黒の長い髪。すっと通った鼻筋。黒曜石を思わせる瞳。その瞳を囲う長くて濃い睫が、白い肌に影を落としている。
椅子に座っているので、どのくらい身長があるのかは定かではないが、組んでいる足の長さから想像するに、かなり長身であろう事が想像できる。そして、そんな身長に見合う、がっしりとした身体は、上から下まで全て黒で統一された、豪奢な衣装を身に纏っている。
黒のみで構成された衣装なのに、そこまで重く感じないのは、衣装の至る所に施された刺繍のお陰かもしれない。しかも、金糸や銀糸で美しく縫い取られたこの刺繍は、ただの模様に見えるようにしているが、実は優れた護符であり、その効果は絶大である。ある程度の魔法や物理攻撃では、布を切り裂くどころか、傷一つつけるのも難しい。
美しい衣装を身にまとう、闇の美神――。そう思わせるような、男らしく、それでいて壮絶な色気が醸し出ている、白皙の美貌の持ち主がそこに居た。
突然、男の額飾りの宝珠が光り輝いたかと思うと、続いて、低く腰に来るような艶のあるバリトンボイスが広間中に響いた。
<ふはははは、よくここまで来た勇者!! 褒めてやろう!!! だがしかし! この場が貴様の墓場です……じゃなくて…………だ!! えっと…………その身を以て思い知ってください…………?>
「――何で疑問形なんですか。はい、もう一度やり直しです」
途中で言葉を言い間違え、慌てて言い直すも、その内容に自信が無いのか次第に声のトーンが小さくなる。
そこに間髪を入れず、冷たい響きを持った低い美声がそう突っ込みを入れた。
<ぇぇ……またですか?>
「…………拡声魔法と変声魔法解除してちょっと来てみましょうか?」
不満げにそういう、バリトンボイスに全く合わない口調に、低い美声に冷たいものが混じる。
<ひっ!?>
「さっさと来なさい。ああ、すみませんでした。お仕置きされたいんですね。そんなにして欲しいなら言ってくれればいつでも……」
「行きます!!」
そう言うが早いか、男の額飾りの宝珠が再度光り輝き、低く艶のあるバリトンボイスから、声変わり前の可愛らしい声に変わる。
それと同時に漆黒の髪色は白銀に、長身の姿から一変し、小柄な少年の姿に変化する。そして、"飛んでくる"という表現がぴったりな勢いで、玉座に近い白い柱の前に走ってきた。
「素直でよろしい」
そんな柱の陰から、すらりとした身体にゆったりとしたローブを身にまとった、美しい青年が姿を現した。
青く長い髪は首の位置で一つにまとめられ、後ろに流しており、深い緑色の眼は冷たく眇められている。
そんな視線に晒されている少年は、青年よりも頭一つ分ほど小さいが、白銀に輝く短い髪に、紅い瞳をした愛らしい顔立で、今後の成長が非常に楽しみである。
「何度も何度も間違えて。そんなに難しいセリフではないでしょう? なぜ言い切れないんですか? 意図的なんですか? それともバカなんですか?」
「ば……バカって……。ぼく……一応これでも魔王ですよ?」
「まだ見習いがつきますがね?」
「……」
なお一層冷たい青年の視線に晒され、少年は身を縮ませる。
「唯一のセリフを言い切れない、見習い魔王のどこに敬う要素がありますか?」
「…………だって……」
「魔王が『だって』と言わない」
反論しようとするが、ぴしゃりと即座に言い返され、少年は首を垂れる。
「……申し訳ありません」
「臣下にそのような口調で謝罪など以ての外です。何度言えば分るんですか?」
「はい……」
元々少年は王族とは関係ない出自であり、市井の出である。ただし、魔王になるには血脈は関係ない。
魔王を魔王たらしめるもの、それは純粋に力であり魔力である。
少年はその膨大な魔力を以てして、当代の魔王に選ばれたのである。
「セリフ自体は直ぐに覚えられたのに、実際口に出すと上手く言葉に出来ないのは、単に心構えが足りないからです。貴方様はお歴々の魔王の中でも突出した魔力と契約魔法数を持っています。それに魔法展開スピードや威力は他の追随を許さないほどです。もう少し威厳と自信を持ってください。そうすれば歴史に名を連ねる方々と同く……いえ、それすらも凌駕する存在になりえるのですから」
「…………」
そう青年が持ち上げるが、少年はしょんぼりと肩を落としたままである。
青年が言うとおり、少年は物覚えが悪い訳ではない。それどころか物覚えは良い方である。単に尊大な口調を使う事が難しいのだ。原因はその穏やかな性格に起因するものであり、今まで人に命令することもなく、ましてや目上の人には丁寧に接する事を両親から強く言い含められて育てられていたため、急に口調を変える事や尊大に自身を見せる事を苦手としていた。
「……まったく。――今日はここまでにします。明日までに必ず、言い切れるようにしてくださいね。それと――そろそろ当代の勇者パーティがここにたどり着きそうだと先日連絡が入りました」
「え?」
「ご承知の通り、勇者を倒してこそ真の魔王と成りえるのです」
「ぼくに倒せるでしょうか……」
青年の言葉に少年は自信なさげに言葉を返す。
当代の勇者パーティの噂はここまで届いており、その力は歴代勇者の中で最高峰である言われていた。
そんな勇者を、魔王とはいえ見習いの自分の力で倒せるのか疑問しかない。
しかし青年はそんな少年の悩みを一笑に付す。
「それこそ愚問です。『倒せるか』ではなく『倒さなければ』ならないのです。勇者とは人間どもがこの世界を自分勝手に支配するために生み出した害悪です。ご存じですよね?世界に溢れかえる資源は、"すべて自分たちのものだ"と言わんばかりに、好き勝手にあちらこちらを破壊し強奪してゆく。他種族は不必要だと言わんばかりに、虐殺の限りを尽くし滅ぼす。生き残りがいれば奴隷に落としその尊厳までも奪い尽くす、それも遊び感覚でですよ? かと思えば、自分たちの種族間でも争いごとが尽きず、その戦火に我々の同胞たちがどれだけ巻き込まれたか……。そんな好き勝手する人族こそが世界の敵だと。正しい世界に戻す為に魔王という存在が必要だと、心して下さい」
自身の種族こそ唯一である、というような考え方が浸透しているのか、人族の中央――帝都や王国に近い人間達は差別意識が多分にある。
「でも、この世界に精霊が生み出した人族がいるのであれば、これも世界の正しい姿なのではないのでしょうか? 弱いものは滅び、強いものは生き残る。自然や資源が無くなれば生き残った者達もいづれ滅んでしまう。悲しいですがそれが世の流れではないのでしょうか? 以前読んだことがある『リヒト創世記』にもそう記されていましたし……」
そう、精霊が生み出したものであれば、それが何をしようと世の流れとして正当なはずである。それを自分が奪ってもよいのか、そんな疑問が少年の頭をよぎるが、そんな少年に青年は首を振る。
「いいえ『この世界』に『人族』がいる事が間違いなのです」
「え?!!」
そんな話は初めて聞いたとばかり、少年は目を見開く。
「その昔、光の精霊と闇の精霊が火・風・水・土の四大精霊を生み出し、そこから派生し様々な種族が生まれたと言われおりますが、そこには『人族』は存在していないのです」
「じゃあ、どこから『人族』は生まれたのでしょうか? 何もない所からぱっと生まれたりはしないでしょう?」
「たぶんこの世界ではない、どこか、だと言われています」
「この世界ではない?」
異世界とは――なんだか話が大きくなってきた。
そんな少年に笑みを浮かべ、青年は更に話を続ける。
「ご存じのとおり、この世界に生きとし生けるものは、精霊からの祝福を受け生れ落ちます。その祝福の属性は『火』『水』『風』『土』のいずれかの1つのみ。まれに2つの祝福を受けたりする場合もありますが本当に極まれですね。そしてその祝福は『人族』には与えられていません。この世界に生きとし生けるものは動物であろうが、虫であろうが例外なく与えられるはずなのに、です」
「そんなまさか……」
「なので『人族』はこの世界の生物ではない、という話が成り立つのです」
人族の世界で伝わっている『リヒト創世記』などは都合の良い様に人族がすり替え、作り変えた物です、そう言って青年は言葉を締めた。
先ほどの大広間から場所を移して、少年は青年と共に青年が普段使っている執務室に訪れた。
室内は青年の性格を現すように、机の上や本棚、応接スペースに至るまできちんと整頓され、部屋の隅に置かれた香炉からは木々の緑を思わせるような爽やかな香が薫っている。
そんな執務室の応接スペースの椅子の一つに腰を下ろした少年と、真向いのソファーの端に腰を下ろした青年は紅茶を啜り、菓子を摘まんでいた。
少年が城に来てからというもの、魔王講座……先ほどの口上練習の後は決まって青年の執務室で休憩がてら雑談する、という流れが定番化していた。
なんだかんだで、青年はこの年の離れた弟のような、愛らしい少年魔王の事を気に入っているのである。
「さて、先ほどの話の続きではないのですが、祝福の属性や称号次第で使える魔法の種類が異なります。水属性の場合でも『回復の水』や『輝ける水』など称号には違いがあり、たとえば『生命』に属す称号――『回復』『癒し』等ですね。この場合、回復魔法に特化する担い手となりえます。ちなみに称号に『万能』や『恩恵』などがつく場合、その属性ほぼすべての魔法が使える素質があると言われているのでレアな称号ですね」
「へぇ……。称号の細かい事までは知らなかったです」
「かくいう私の祝福は『万能な水』と『風の恩恵』で、稀な2属性の祝福を受けており、かつ属性魔法はすべて使えるという称号持ちです」
誇らしげに目を細める青年だが、ふ、と笑みを零す。
「それでも貴方様がお持ちの『闇の愛し子』という祝福の足元には及びませんが」
「……らしいですね……」
「本来『光』と『闇』の祝福が与えられることはございません。しかしながらそれが与えられた場合、世の秩序と平穏を取り戻す役割が与えられます」
「はい……」
そう、少年が魔王になった所以もここに起因する。
膨大な魔力もそうだが『闇』の祝福持ちである。ほぼ反対意見が出ることなくあれよあれよと少年の魔王就任が決まったのである。
「闇の祝福持ちの場合、四大属性の攻撃魔法系と闇属性の魔法全てが使える素質があり、光の祝福の場合四大属性の回復・補助魔法系と光属性の魔法が全て使える素質がある、と伺っています」
「はい、ぼくは四大属性の攻撃魔法系と闇属性の魔法全て使えます」
「――簡単にさらっと言いますが、『使える素質がある』事と『実際に使える』という事は似ているようで異なるんですよ」
青年は苦笑を漏らす。少年はさらりと言い放ったが、素質は素質であり、実際使えるにはそれに見合う魔力と技術が必要になる。それを全て使える素質があるとはいえ、実際に使えてしまう少年の力に恐ろしくも頼もしさを感じる。
そんな少年はふと、思いついたように青年に尋ねる。
「そういえば、『光の愛し子』の称号持ちの方って今いらっしゃるのでしょうか?」
「『光の愛し子』と『闇の愛し子』の祝福もちが同じ時代に揃ったという話は創世以来1度たりともないと聞いています。もし仮に同じ時代に揃ったとすれば…本当に世界の破滅が近い証拠かもしれませんね……」
「そうなんですか……いらっしゃればぜひお会いしてみたかったんですが……」
自身の対局にいる人物とはどんな風なのか、少年は想像を巡らせる。
そんな少年に青年は思い出した事を告げる。
「そういえば、前回『光』の称号持ちが生まれた際には、人間どもに捕まってしまいその力を利用され続け、持てる物全てを奪い取られ、最後には虐殺されたと伝え聞いています」
「!!!」
さらりと言われた衝撃的な言葉に少年は目を見開く。
「同じようなことは二度と起こさせないため『光』と『闇』の祝福持ちが現れた場合、最優先で何があっても保護をする、というのが我々の決め事となりました……そんなことになる前に貴方様を探し当てる事が出来てよかったと、お迎えした時に我々は胸を撫で下ろしたのですよ」
「……そんな……惨い事が……?」
「はい。『光』の称号持ちの御方は、樹の精霊と契約を結んでいたそうですが、その樹の精霊から御方の最後が伝えられております。詳細までは伺えませんでしたが、まだ、幼い少女であった御方は……それは……惨い最後であったと」
「幼い……」
「まだ成人にもなっていない、それは美しい少女だったそうですよ」
「!?」
驚愕で言葉がでてこず、うまく息がすえない。
未成年…………少女…………
頭の中でその言葉がグルグルと回る。まさか幼子に対してそんなひどい事をするとは…
混乱している少年に青年は更に言葉を続ける。
「そして、貴方様と同じ白竜人族の生き残りだったそうです」
「!!!」
白竜人族は子供を大切にする。同族は元より他種族でも。
それは種族の同胞の生まれ辛さに原因がある。
白竜人族は300年は生きると言われている普通の竜人族よりも寿命が長く、1000年近く生きる人もいる。そのせいか白竜人族は他の竜人族と比べ出産率が低く、そして子供の頃は身体が弱く育ちにくい。その為、子供のころは大人が真綿で包むように守り育て上げる。
信じられなかった。自身の同胞がそんな惨い目にあっていたとは……しかも属性は違えど自分と同じ『愛し子』の称号を持つ稀な存在が……。
しかもまだ親の手を離れていない保護されるべき幼子がだ。少年は怒りで目の前が真っ赤になるのを感じた。
彼自身もまだ成人していないとはいえ、あと数年もしたら大人の仲間入りを果たす。しかし、魔王になって半分自立を促された今でも、未だ両親は甲斐甲斐しく世話を焼こうとする。代々受け継がれる血脈に遺伝子レベルでそう刻み込まれているのだ。
そう、いまだ成人していない彼でも、今の話だけで十分に怒りと憎しみの心に囚われる程に。
少年は負の感情が自身の体を満たすのを感じ、暴れそうになる力を、ギリリッと奥歯を噛みしめ必死で抑える。握りしめられた手のひらからは赤い血が一つ、また一つと零れ落ちる。
……この怒りと憎しみをぶつけるのは今じゃない……
「そう…………必ず当代の勇者パーティを打ち滅ぼし、真の魔王となってみせます」
「貴方様なら必ずなれます」
そんな少年の決意に、青年はニコリと微笑んだ。
その後訪れた勇者パーティを圧倒的な力で瞬殺し、少年は真の魔王として産声を上げる。
勇者パーティの亡骸は、派遣された国の城壁にいつの間にか揃ってぶら下げられていた。その姿を目にした者は、当初その亡骸が勇者パーティとは気がつかなかった。それほど酷く、そして原型がほぼ残っていない亡骸が、微かにまとっていた残骸からその身元が確認出来た時には、このあまりの出来事に箝口令が敷かれた。
少年は次々と襲いくる、各国の勇者パーティをその圧倒的な強さと苛烈さで返り討ちにし続ける。
そして少年が青年となり『漆黒の残虐王』としてその二つ名が轟き、その地に向かう勇者が途切れた頃、人族の間ではその名を口に出すことは禁忌とされる。
それはカエデがこの世界に来る、100年以上前の話であった。
時系列として
前世の少女→[約100年後]少年魔王→[約100年後]カエデ召喚
くらいですかねー?
ちなみに、魔王になるための必須スキルがあって、そのためにわざと青年は少年に少女の話をした模様。
そのかいあって、上手くスキルゲット出来たみたいです。知らぬは本人ばかり・・・




