妄想?
こんな夢だ。
朝学校に行ったら、ツブツブが「おはよう」と言ってくれた。
「おはよう」と私は言う。「昨日はありがとう。ごめんね」
「いいよ全然」ツブツブは笑って続けた。
「今日も一緒に帰る?」
「…え?オオツブライくん…」
「あれ?」とニッコリ笑ってツブツブが言った。「ユウリって呼んでくれるんじゃなかったの?」
うわ~~~っと夢の中の心で叫んでいる私をアライサクラちゃんが呼んだ。
「薫ちゃん、ゴトウ君が呼んでるよ?」
え!!
教室のドアの所を見ると、そこにはゴトウハルカがいて笑顔で手招きしている。
まさか、と思う。
夢の中でも用心深い人見知りの私は、後ろを振り向いてみるが私の後ろには誰もいない。
私?この私を呼んでるの?
桜井がゴトウハルカも話をしに来るって私に餌をまいたけれど、まさか2人目で来るなんて。
やった!ゴトウハルカとしゃべれる。
どうしよう。もうすでに頬が赤くなってるような気がする。ゴトウハルカに気持ち悪がられたらどうしよう。
ゴトウハルカの所へいそいそと行こうとするを
「ちょっと」と私の肩を叩いて止めたのはクラス一のイケてる女子、まぁ「イケてる女子」とか、私は変に派手な女子をバカにする時にしか使わないんだけど、そのイケてる女子のトリゴエユカがちょっと睨みながら、「山根さん、昨日ツブツブと帰ったって本当?見た人がいるんだけど」と言った。
すごいな、と私は思う。マンガみたいな展開。ちょっと生意気なんじゃないの?地味なくせに、みたいな事言われてハブられる感じだろうか。
ツブツブに申し訳ないと思って教室の中のツブツブを捜すと、他の男子と話をしていてもちろんだけど私の方なんて見ていない。
残念に思う私だ。
私は早くゴトウハルカの所に行きたいから、トリゴエユカに手っ取り早く説明をする。
「私が昨日帰りに気分悪くなって、たまたま通りかかったオオツブライ君に
桜井先生が頼んだから。…なんか…ごめんなさい」
「なんで謝んの」
私のすぐ後ろにはツブツブがいてそう言った。
驚いたが、ツブツブがそばに来てくれた事を喜ぶ私だ。
ツブツブは私だけに優しい笑顔で言った。「それにオレの事ユウリって呼ぶ約束したよね?」
トリゴエユカが怖い顔で睨んでくる…
…という乙女的な、どっちかっていうと夢じゃなくて妄想じゃないの?っていう感じの夢。
超恥ずかしい…昨日にも増してツブツブに申し訳ない。
それにトリゴエユカなんて無視して、ゴトウハルカの所へさっさと行けば良かった。もう私の夢には2度と出て来てくれないかもしれないのに。
ゴトウハルカの所へ行っていたら私は、いったいに何を話されたんだろう…
学校へ向かう。
今日は誰が話をしに来るんだろう。トリゴエユカが来たらちょっと嫌かもしれない。
いや、その前に桜井の所へ行ってもう一度いろいろな事を確かめるのだ。
そんな事をぼんやり考えながらバスを待っていたら「おはよう!」と後ろから声をかけられた。
ビクッとして振り向くとツブツブだ。
爽やかだな。晴れた朝のキラキラの光がよく似合う。
「…おはよう」とちょっとドキドキしながら返す。
「あれ山根、朝なのに何かテンション低い」ツブツブが笑った。
「朝だからだよ」
「何?低血圧なの?オレは逆に午後からテンション低いよ。早く家に帰りたいから」
「昨日もそんな事行ってたよね?早く帰りたいみたいな」
「うん、オレ皆といるのも好きだけど、ずっと周りにたくさん人がいると疲れるじゃん。だから家帰ってホッとしたいの。運動も好きだけど、ゆっくり音楽聴いたりDVD見たりすんのが好き」
意外だな…っていうかこれ、今日も普通に話をしてる。
どうしよう困ったな。困ったけど嬉しい。
バスが来て乗り込む。
先に乗り込んだツブツブが少し振り向きながら言った。
「さすがに朝はぎゅうぎゅうだよね。ちょっと恥ずかしいけど隣に座る?」
マジで!夢の続きみたいだ。
どうしたらいいの?恥ずかしがったらいいの?すごく喜んでいいの?このまま一緒に学校行くのかな。
どうしょう、私、話が続かないよ。
それに一緒に学校行ってるところを他の人に見られたら、嫌じゃないのかなツブツブ。
ていうかこれも桜井の仕込みなの?
でもちょっと、というよりだいぶ嬉しくて、うん、とすぐにうなずいてしまった。
私は桜井の餌に釣られている。
桜井から話を聞いた時にはあんなに嫌がったのに、もうすっかり状況を楽しもうとしている。




