後ろを見るヤグチ 3
「ねえヤグチくん」
ヤグチの隣のモチダタケトにも出来れば聞こえないように、私は小さい声で話す。
「エダさんの前で変な事言わないで」
「変な事?」
「ヤグチ君が言った事全部」
「全部?」
私の言葉を繰り返しながらヤグチは真っ直ぐに私を見つめる。
「いいじゃん」ヤグチが言った。
「良くないよ。…エダさんてたぶん…ていうか絶対ヤグチ君の事好きなんだって」
「まぁそんな感じだな」
肯定するんだ!
じゃあもう少し言い方に気をつければいいのに。酷いな。
「酷くはねぇよ」
私が言葉にしていないのにヤグチはそう答えた。
「あんなにガンガン来られるとオレ引いちゃう」
せっかく巨乳なのに?
「でも私を使ってエダさんを断る感じにされると私が後ですごい困る。私が感じ悪く思われるでしょ?」
「いいじゃん、お前エダの事嫌いでしょ?」ヤグチがにやりと笑った。
「そんな事ない!」大げさに否定してしまい私は自分の口を押さえる。
「そういう事いうのも止めてよ。私はあんまりみんなに好かれなくても、
それでも私は全ての女子と気まずくなりたくないの」
「オレは?オレとは仲良くなりたくないの?」
隣のモチダタケトが体を出来るだけ動かさないように、それでもこちらを気にしているのがすごくわかる。
仲良くって…
「オレは仲良くなりたい」
私はびっくりした顔をしてしまう。
モチダタケトもびっくりしたんだろう。あからさまにこちらを見てきた。
「なぁ」とヤグチは自分の描いた絵を指差して続ける。
「お前がこの絵の夢の中にいる時、オレはどこにいると思う?」
「え?もう1回言って?」
ヤグチはゆっくりともう一度言う。
「お前が、この絵の、夢の中にいる時、オレはぁ、どこにいると思う?」
わかんないよ!私は首を振ってみせた。
「お前、夕べどんな夢見たの?さっき自分の夕べ見た夢描けって言われてたよな」
「見てない」即答する私。「夢見なかった」
ハハハ、とヤグチが結構大きな声で笑った。
「オレは見たよ?何か迷路みたいなとこをお前とぐるぐる走り回る夢だった。オレは全然ダメだった」
「…何が?」
「お前を迷路から出してやりたい気満々だったのに、ただぐるぐると一緒に走り続けるだけだった」
キタが戻って来て授業が再開されるが、私はヤグチの見た夢の事で頭がいっぱいだ。
微妙に私の夢とシンクロしているヤグチの夢。
みんながパステルを使ってカサカサと音を立てながら、私の夢、だと思って描いてくれたものを色付けしてくれている中、私は私の夕べの夢を描かなければいけないのだが躊躇している。
夢の中でヤグチに、握りしめられた手の感覚が残っているような気がしてきたのだ。
でもたぶんそれはさっき、ヤグチが見た夢の話を私にしてきたからだ。
…そうか…私は夕べ、ヤグチの夢の中にはいたんだな。




