田代姉妹の保健 2
「「山根~~~」」
返事をしなかった私はもう一度2人に呼ばれた。
現国の水本にも、生物の高森にも、そして保健の田代ミカにも私は呼ばれる。
仕方なく私は右手を低く挙げながら「はい」と返事をした。
「「山根~~~、声小っちぇな~~。みんなを輪に座らせろ~~」」
私は学習委員の保健体育係ではない。
体育は不得意だから、体操とかみんなの前で見本なった事も皆無だ。体育の時間に名前を呼ばれる事なんてほとんどない。
おどおどしてしまう私だ。
田代ミカにはっきり名前を呼ばれたのははじめてかもしれない。
それでも田代姉妹が私に言った声を聞いて、私がわざわざ声をかけるまでもなくクラスのみんなは自然と大きな丸を作って集まってくれた。
そして互いに顔を見合せながら、一人、また一人と腰を床に下ろす。
「「じゃあ山根~~~司会~~~」」
司会?
みんなが作った輪から少しはずれて立ち尽くしきょとんとしてしまう。
その私の両手を田代ミカと田代リカが片方ずつ、むんずと掴んで輪の真ん中へと連れていく。
「え~~と今日の保健の授業は心の在り方について~~~」
今喋っているのは一人だ。
保健の授業は、って言ってるから、こっちが田代ミカなんだろう。
それにしても何で田代リカまでいるんだろう。
「山根~~~」私を呼んだのはもう一人の方。田代リカの方だった。「あたしがここにいるのはな~~~、ちょうど空き時間だったからだよ~~~」
私が聞いてもいないのに、みんなの前で私だけに答えを出すのは止めて欲しい。
ぐるりと座ったみんなが私を見ている。
私は円陣の真ん中にいて真後ろはもちろん見えないが、それでもみんなが私を見ているのはわかる。
あ、ダメだ。ツブツブの顔が見えたがすぐに目をそらす。
どうしよう、どめどなく恥ずかしくなる。
一人ひとりの顔を見るのが恥ずかしいので、できるだけ誰とも目が合わないように、座っているみんなの頭の30センチくらい上に視線を置く。
私も円陣に加わりたい。が、私の両手は2人に片方ずつ握られたままだ。
「「じゃあまず山根な~~~」」
私は田代姉妹の顔を見比べた。
さっきどっちを田代ミカだと思ったっけ?
「例えば今、心で思ってる事と、体で感じてる事の違いをちょっと言ってみろ~~~」
私の右の手を取っている方が一人で喋った。だからこっちがたぶん田代ミカ。
「「ほらまず言いな~~山根~~」」
え…どうしよう…
みんなの話を聞くはずの私が、みんなの前で話をするはめになろうとは…
何て言ったっけ?心で思っている事と体で感じている事の違い…逃げ出したい。
だめだ目線を下に落とすとみんなの顔が目に入ってしまう。




