高森の生物の時間 5
生物室では水槽の周りにみんな集まって、ガヤガヤ騒いでいるんじゃないだろうかと思ったが、誰一人水槽のそばにはいない。
それどころか教卓に近い前の席の子は、椅子を持って少し後ろに下がってから騒いでいる。
まさかハヅキモエノ…
周りの目もあるのに、本気で水槽をかき混ぜに行ったりはしてないよね?
が、席に戻るとハヅキモエノが言う。
「誰も水槽に近寄んなくてさ、私それでもかき混ぜたくなって我慢できなくなって水槽に近寄ったら、マジでカエル跳びはねたんだけど水面に。
来んな!って、ちょい威嚇された感じ?」
「カエル逃げてないの?」
「逃げてない。でも何か汚そうな水飛んでた、周りに。女子にめっちゃ睨まれたんだけど私」
そりゃそうだよね。
「高森、昨日も山根さんに何か頼んでたよね」
「あ~…うん。…いろいろめんどくさいんだよ。出席番号が一番最初と最後って。結構呼ばれやすくて」
授業の終了10分くらい前になって高森は宿題プリントの説明をした。
「自分が持っている親から受け継いだ優性遺伝であるよね?例えば髪の毛の質とか目の形とか、本当は父親の方に似たかったのに母親に似ちゃった、みたいな事だってある。まぁそれはホラ、いろいろ好みもあるだろうけど
もうそう思う君たちはそこにいて、それが君以外のナニモノでもない、っていう、なんか倫理の授業みたいな話になってきたけど、このプリントに書いてもらうのはね、君たちが自分の中で次世代に繋ぎたいと思う形質を書いてみて下さい」
質問が飛んだ。「それは自分の長所とか、体の好きな部分を書くって意味でいいんですか?」
「うん」と高森は答えた。「うん、まあそんな感じかな。あ、でも好きじゃなくても伝えたいものってあるでしょ?」
それから高森は自分の話を始めた。
「僕はね、高森って名前でしょ?それであんまりポジティブな方じゃなくて、好きな色とかも黒だったりするから本当に根暗なやつって思われててね、友達も少なかったし、女子にももてなかったし。僕は実は双子でね」
双子?双子だって、とあちこちで声が聞こえた。
「結構美人で頭のいい姉がいるんだけどだからなおさらね、姉がキラキラしてる分僕イコール負、みたいな感じで。これ教えたからって僕の事そう呼んだら点数引くけど、僕は高森って名前を言いかえられて、ずっと『コウモリ』って呼ばれてたんだよ」
少しざわっとしたがすぐに止んだ。
「それがどういうわけかね、不思議な事に嫌な感じがあんまりしなかったんだよね。高森暗い、って敬遠されるより、コウモリ、コウモリ、って話しかけられる方が、何か嬉しいとまでいかないけど気が楽になったような、そんな感じ。それでコウモリの生態とか調べてたらね、理科が好きになって、それで今生物の先生をやってます」
高森はここまで話して皆を見回した。
「ま、あんまり関係ないかもしれないけどこういう僕の話も思い出しながらね、このプリントをやってみてよ」




