日々進展 3
「オぃスー」とヤグチに声をかけて来たのはサイトウだ。
「ヤグチ古典の宿題やって来た?」
「やってねぇ」ヤグチは即答だ。「山根に見せてもらう」
「え!」と驚いた声を出してしまうとサイトウが「え~いいなオレにも回してくんないかな」と言って来る。
「ダメ」と答えたのはヤグチで、「何で~!」とサイトウは笑っている。
冗談だと思っているのだろう。
「オレは山根に数Ⅱの宿題を見せて、そいでその代わりに古典の宿題見んだよ。お前は何にもギブアンドテイクがねぇだろ?」
「そんな約束してない」私は正直にサイトウに言う。「だって私数Ⅱの宿題やってきたから」
ヤグチが思い切り私の方を振り返って言った。
「お前いつも数学間違ってるとこの方が多いじゃん。オレがちゃんと答え合わせしてやるから」
うるさいよ。
「あぁそう言えばさ、」少しにやにやしながらサイトウが小声になって私に言う。
「今朝オオツブと来てなかった?もしかして付き合って…」
ヤグチがサイトウの腹にパンチを入れる。
「いてっ!いやウソじゃなくてマジで薫ちゃんとか呼ばれてたよな、山根」
嫌だなサイトウ…
「お前席戻れって」ヤグチがサイトウに言った。
「え~~」とサイトウが言う。「オレも聞いて欲しい話あったのに」
「え?」そうなの?サイトウ。「聞くよ!」と、私は意気込んで言ってしまった。
「じゃあオレにも見せてね、古典の宿題」
「それはいいけど話って何?」
「え~~ここではちょっとね。ヤグチに聞かれたくねぇし」
サイトウは笑いながら言った。
冗談か本気かわからない。
「いや」とヤグチが言う。「オレも聞くよ、お前の話。じゃねぇと山根にも喋らせねぇぞ」
「ちょっと止めてよ」私はヤグチを睨む。
余計なちゃちを入れないで欲しい。のに、ヤグチは続けた。
「オレと山根は昼休み非常階段のとこいるからそこで聞くわ」
「ちょっと…」と私が言いかけるが、
「じゃあ山根に見せてもらったらオレにも回してよ?古典」
そう言いながらサイトウはもう席へ戻っていった。
「じゃあ古典のノート」ヤグチが手を差し出す。
「ねぇお願いだから余計な事止めて。私今朝桜井先生とも話して確認したんだよ」
「だから?」
「だから余計な事したり言ったりしないでって事!私早くみんなの話適当に聞いて、早くこの事終わらせたいの」
「ふ~ん」ヤグチが少し首をかしげて私の目を覗き込む。「でもさ、せっかくだからオレも混ざるわ。早く古典のノート。ホラ」
仕方なく古典のノートを渡すとヤグチは代わりに数Ⅱのノートをくれた。
「いらないよ!私宿題やってきたって」
「いいから、答え合わせとけって。オレはお前が数学あてられて間違うと、何かすげぇ悔しい気持ちになるんだよ」
うるさいよ!
結局ヤグチの数学のノートをもらってしまった。
ヤグチといざこざしているところをツブツブに見られたくないのに。
薫ちゃんて呼ばれてたの、サイトウにも聞かれてたのか。みんなに広まりそう。これで私がユウリ君なんて呼んだら、確実に私達、付き合ってると思われるような気がするけど、ツブツブは本当にそれでいいのかな。
今はそれでいいと思ってくれても、でも後でやっぱり嫌になったとか言われたら、私はもう際限なく落ち込みそう。




