日々進展 2
「すごい薫ちゃん!オオツブライ君と今朝も来てる~!3人の中で薫ちゃんだけ彼氏出来るかも。なんか寂しいな~。うらやましいし」
違うよミノリちゃん。今朝は桜井と来て、ツブツブとはさっき会ったばっかりだから。
ミノリちゃんにメールの話は省いてそう説明すると、ちょっとがっかりしてくれている。
教室に入るとヤグチが先に着いていた。そう言えばヤグチはいつも来るのがギリギリなのに。
「お前昨日歯医者どうだった?」
かばんの中のものを机の中へ押し込みながら、私が席に着くのを見計らうようにヤグチが言った。
「へ?」びっくりする私だ。
「歯ぁ治ったの?」
歯は治ったか?…歯は治していない。
「お前昨日歯医者に行くっつってた」
ああ!言った言った。
「お前さ、そう言えば桜井に放課後呼ばれた時も、1回『歯医者行く』って話を断ろうとしてたよな」
してたような気がする。よく覚えてないけど…
やっぱ言った言った。歯医者に行くって桜井にも言った。
「治したとこ、見せてみ?」
なぜかヤグチは嬉しそうに笑う。
「今日ケイタイ持って来た?」
「…」
「持って来た?」
「…持って来たけど」
「持って来たけどなに?オオツブとはもうメールしてんだな。ちょっとびっくりしたわオレ」
今朝のツブツブとの話を聞いてたのか?
「じゃあ貸して?薫ちゃん?」
言いながら嫌な感じでニッコリと笑ってヤグチが手を差し出した。
「ほら」と催促される。その後小さな声でヤグチが言った。「薫ちゃんとか呼ばれやがって」
「今はちょっと」
ヤグチの薫ちゃん呼びは無視して、私が難色を示すのはもちろんツブツブに見られたくないからだ。
早くヤグチとの会話を終わらせたい。
「お前さ、何かすげぇ失礼」
…そんな事ないと思うけど。
「じゃあ昼休みな。昨日の階段のとこ。わかった?」
「…」
桜井はヤグチが私の事を気にしてたって言ってた。中学の頃からって桜井は中学の私達を知らない癖に。
ヤグチとは同じクラスになった事さえなかったんだから。
桜井に頼んでみた「私の事を好きな男子がいる設定」を無しにするっていうプランは、結局良いように流されたような気がする。
「お前オレの話聞いてんの?」
聞いてる。でも昨日の階段の所には行きたくない。
「階段来なかったら、教室で話すからな。いろんな事」
なんだって桜井はヤグチまで呼んだんだ。




