ユウリ君と薫ちゃん 4
「ユウリ君はあるの?そういう心の奥の…」
聞きかけて止めた。あんまり突っ込んだ話をしたら嫌がられるかもしれない。
が、「みんなあるよ」とツブツブは答えてくれた。
「人に言いたくない事とか言っても分かってもらえなさそうって事が。薫ちゃんもあるでしょ?」
「…うん」
ある。私の心の奥底は普段現わしているよりもっとずっと腹黒い。
それを全く見せたくないから、私はちょっと笑いながら言ってみた。
「取りあえず今は、ユウリ君、て呼ぶのが物凄く恥ずかしい!」
ハハハ、とツブツブが予想通り笑ってくれる。
「教室で私がユウリ君て呼んだら逆に恥ずかしくない?」
「何で?」
「…私と、その…」言いにくい。「凄く親しいと思われたら嫌なんじゃないかと思って」
「まさか!そんな事思ってたら最初から呼んでなんて言わないって。じゃあオレが薫ちゃん、て教室で呼んだら恥ずかしい?」
「恥ずかしい」
「そっか」
今朝の少しムッとしたツブツブの顔が即座に浮かんで、私は慌てて付けたした。
「でも嫌とかじゃないよ。嬉しいけど違和感あるっていうか、私、男子から名前で呼ばれた事とかないから。でも私が頑張ってユウリ君、て呼び続けてたら、ツブツブって呼んでた女子もみんなユウリ君て呼びはじめるかもしれないでしょ?それはそれで馴れ馴れしい感じがすると思うけど、それはいいの?嫌じゃないの?やっぱりみんなに下の名前で呼ばれたいの?」
私は嫌だけどな。他の女子までユウリ君とか呼び始めたら。
けれど言ってしまって、ちょっとしまったと思う。
何か嫌な言い方しちゃったかも。ツブツブの前ではあんまり腹黒さを出したくないのに。
それにお互い急に名前で呼び合ったりしたら、もう絶対付き合い始めたとみんなに思われそうだけど…
「ん~~そうか~。そうだね。オレもやっぱ薫ちゃんだけに呼んで欲しいかも」
わ~~~と思う。ドキドキする。うん、とも、いや、とも言えない。
けど、うん、と言いたい。
うん、て言おうかな。恥ずかしい…あ、ダメだ、もう確実に私はツブツブが好きになった。
ほとんど喋った事のない、違うクラスのゴトウハルカは、しゅんっ!、と流れ星のように私の心からもう遠のいて行った気がする。
お手軽だな私。
こういうのに全く免疫ないからすぐ好きになっちゃうんだな、きっと。
たぶん私、大人になったら結婚詐欺とかにもすぐに遭っちゃうんじゃないかな。
桜井はいったいどんな魔法を使って、ここまでツブツブをおかしくしてるんだ?何か、ツブツブが可哀想になって来る。こんな私のために。
私達の降りるバス停に着いて私はほっとしている。
ツブツブが一緒にいてくれるとドキドキして嬉しくなるけど、こんなのはやっぱりダメだ。
明日は必ず桜井の所に行こう。そして男子2,3人が私を好きになってくれる、という設定を無しにしてもらおう。そしてヤグチの事も確認だ。




