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説明からの餌 

 私は心の中でブンブンと頭を振っていた。

 無理!!

 出席番号が最後ってだけでなんでこんなわけのわからない仕事を

担任に押し付けられなきゃならない?ていうか、こういう尋常じゃない事を打診してくる桜井はいったい何者なんだ?

 もしかして…桜井は頭がおかしいの?

 すぐ横に気配を感じて、見ると高森がお盆を持って立っていたのでびくりとする。

 高森は桜井の前に湯気の出ている湯呑を置く。

 いったいいつの間に、どこからこのお茶を持って来たんだろう?

「あぁすみませんねぇ、高森先生」

「ほら、山根も飲んでごらん?落ち着くから」

高森が私にも湯呑を渡してくれた。


 

 そうか桜井だけがおかしいんじゃない。桜井に協力的な高森も、この話を聞いているんだかいないんだかわからないそれでも仲間っぽい田代ミカも、3人ともおかしいのだ。

「山根」桜井が笑いながら言った。「なかなか職員室でお茶を飲む機会なんかないだろう?」

 嬉しくもなんともないんだけど。



 「でも来るよ」と桜井は話を戻した。「みんな君の所に来るようになっている。君が私の前でいくら出来ないって言ってもほぼ関係ない。ほぼっていうか、全く関係ない。君はあらゆる人を嫌いながら自分の事も卑下しているが、だからこそ君のところに来る。みんなが君なんか重要じゃない、と思ってね。いや君を重要だって思ってやってくる子もいるよ」

 わけのわからない話をしながら桜井がお茶を飲んだので、わけがわからないまま私もつられて飲んでしまった。

 結構熱い。その、ほうじ茶のような茶色くて透明のお茶は熱くて甘くて、レモンとピーマンとジャガイモが入ってるような変な味がした。



 ここだけの話…、と桜井はふざけるように私に耳打ちするしぐさをしながら言った。

「うちのクラスには君を好きな男子が2人ないしは3人いる」

「え?」

「ラッキーだろう?君みたいな女の子女の子してもいない、きゃぴきゃぴもしていない、可愛い事の一つも言えないような女子を好きな男子が2人ないし3人もいるなんてね」

「2人ないし3人てどういう事ですか?2.5人て事ですか?」

「おっ、食いついたね?しかしバカか君は。2人か3人て事だよ。一人はある事をきっかけに君の事がとても好きになる。もう一人はその一人が君にちょっかいを掛けてるのを見て君が好きだったって事に気付く。後もう一人はまぁまぁ君の事が好きだなぁと思っているんだけど、後の2人の前に自分の出番はないと思って君への想いはなかったものにしようと考える…みたいなね?」


 うちのクラスに私を好きな人が…うちのクラスの男子を思い浮かべるが、そんな出まかせ全く信じられない。

「やる気になったかな?」桜井が楽しそうに言った。

「なりませんよ!それ聞いたら私が喜んでやると思ったんですか?」

「まぁなんにしろ楽しみがないとどんな仕事もそうそう続かない。そうだろう?でも、私がそれを先に教えてしまったからと言って『あ、こいつが私を好きなやつ?』みたいな顔を、男子が来る度にしたらいかんぞ?」



 「…もしかして私にその仕事をさせるために男子を2人、私を好きになるように仕向けるって事ですか?」

 何者だよ桜井。

 人の心を読めるだけじゃなくて、人の気持ちも操れるのか?

 そんな事出来るなら私に押し付けなくても、自分で3,4人勝手に選べばいいじゃないか。

 それに、そんな恋愛に飢えた女子高生、みたいな扱い止めて欲しいな。

 人見知りな上に努力家でもないから、はっきり友達だと思える人がクラスに2人しかいない私だって、人並みに彼氏が欲しいなと思う事だってもちろんしょっちゅうだけど、そんな無理矢理、しかも仕事をさせるための餌のように、私を好きだという男子を用意されても全然うれしくないんだけれど。



 それに私の好きな男の子は隣の3組にいるのだ。

 私が密かに好きなのは3組のゴトウハルカ。1年の時に同じクラスだったが、誰にでも馴れ馴れしくしない代わりに、誰にでも平等に優しかった。誰にたいしても声のトーンが変わらないのだ。

 そして結構器用な子だった。運動でも勉強でもどれも1番ではないけれど

全部、上の中くらい。絵だって上手かった。どちらかと言うと痩せていて、

身長もまぁまぁ高い方。女子にすごくきゃーきゃー騒がれるような子ではないけれど、それなりにいいなって言っている女子はいたし…



 「じゃあ仕方ない」と桜井が言った。「他のクラスなんて本当に特別になんだけど、ゴトウハルカにも君の所になんらかの話をしにくるようにしむけよう」

はい、もう確実。

 確実に桜井は私の心を読んでいる。私はゴトウハルカの名前を一度も出していないから。

 心読めるなら私にそんな仕事振らなくてもいいだろう?自分で読め、クラス全員の心を読みまくれよ。



 「私がやれるのなら、わざわざ君に頼んだりはしない」

桜井は笑っている。「それにさっきも言ったけど心を読んだわけじゃないんだよ。君の好きな男子の事は知ってたからね。私は結構生徒間の人間関係や相関図を把握している。だって担任やってる先生だから」

桜井は得意げだ。

 だが私は言った。「先生。…私のやる気を出すために、何の関係もない、2年4組でもないゴトウ君まで持ち出すのは止めてください」

「山根、先生先生と無理に先生と呼ばなくてもいいぞ、もう。心の中では桜井って呼び捨てにしてるくせに」

「先生!先生が私にさせうようとしている事は何となくわかりました」嘘だ、全然意味不明だ。「それで、何で私がそれをしないといけないかっていうと私が31番だからなんですよね?そこまでもわかりました」そこしかわからない。「でも!」普段の私からは考えられないくらい強気にきっぱりと言った。「断りたいです!」



 桜井はこれ見よがしにため息をついてから言った。

「さっき説明せんかったかな。どっちにしろ君のところにみなやってきて話をするから。大丈夫だよ。君はやって来た人の話を聞くだけ。無理に誰かの所へ行って話を聞き出す、とかじゃないんだから。ただ普通に生活していればいいだけ」

「私がこのクラスにいなかったら、それか私が田中とか中村だったら、やらなくて良かったのにって事なんですか?」

「いや…どうかな。そういう事じゃないと思うんだよ。君はうちのクラスの31番山根薫なんだから。もしも、とか考えたってね、それはただのもしもだよ。現実じゃない。君は2年4組31番山根薫以外の何モノでもない」



 「…でも先生が言ってる事の方が私には現実だと思えません」

「じゃあ説明なしでも良かったのかな?何の意味も分からず、今までしゃべった事もない同級生が次々やってきて何らかの話をするんだぞ。気持ち悪いだろう?それで終わった後急に3,4人選べとか言われたら困るだろう」


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