ユウリ君と薫ちゃん 1
「なんかね、クラスの子たちの悩みを聞く仕事をね、桜井先生に頼まれたんだよ。変でしょ?私なんかが。悩み事がある人は私に言うようにって、桜井がいろんな人に言ったらしいよ」
ウソ混じりの本当。本当混じりのウソ。
「悩み事相談?それを山根がするの?オレ聞いてない。そんな事誰からも言われてないよ?」
「…あ、そうなんだ。たぶん悩み事ありそうな人だけだよ。しかも何で私がかっていうと、出席番号が一番最後だからだって」
本当は全くおかしくなかったが、私はツブツブに笑って見せた。
「思い付きで言い出してるだけなんだよ、桜井先生の」
「でもさ、」と私は出来るだけ明るく続ける。「みんなそんな悩み事あったって同級生に話すのなんか凄い嫌でしょ?しかも私にってどうなんだろ。だから誰も言いに来ないの。何で桜井先生がそんな事思い付いたかもわかんないけど」
夕べ書き込んだ名簿のツブツブの欄を思い浮かべた。
夕べ書き込む時、こんなチョロい感じでいいのかなって思ったのだ。
「でもさ、」ツブツブが言う。「今日ヤグチがずっと話しかけてたでしょ?
山根の方向いてさ」
「あ~…うん」
「オレ、帰り一緒に帰ろうと思って声かけんのに、タイミング逃したもん何回か」
そうか、ツブツブ見てたのか。嫌だな。
「ヤグチが話しかけて来てたのはその話?」
まぁその『話』なんだけど、その『話』じゃないっていうか…
「う~~ん」と私は唸る。「ヤグチ君のはまた違う話っていうか…私も知らなかったんだけど、ヤグチ君も私と同じように昨日先生に呼ばれてたんだって」
「ヤグチも?」
「私が出席番号一番最後でヤグチ君は最後から2番目でしょ。で、私達呼ばれたらしいよ」
「ていうか、」とツブツブが私から少し視線をずらして言った。「ヤグチは山根…薫ちゃんの事…好きなんじゃないかな」
「まさか」
「やっぱ恥ずかしいね」ツブツブが笑う。「名前で呼ぶの」
うんうん、と私はうなずく。
「でもおあいこだから」ツブツブが言った。「山根…じゃなかった薫ちゃんもオレの事名前で頑張って呼んでくれてるおあいこ。それで話戻すけど、ヤグチに好きだとか言われてない?」
「言われてないよ!」
大きな声で答えてしまい、私は慌てて口をつぐむ。
「おれが約束しに行った後もヤグチが話しかけてたよね」
ツブツブの事が好きかみたいに聞かれた時だ。
「それで…山根、じゃなくて薫ちゃんはなんか…ヤグチに何か言われて、恥ずかしそうにほっぺた押さえてた」
弁解したいが恥ずかしいので話せないから、「ちょっとその…指摘されたんだよ」と答える。
「ヤグチに指摘された事って何をか聞いていい?」
私は、ん~~、と唸ってしまった。
「ごめん」とツブツブが言う。「気になるんだよ。あんまり聞いたら嫌がられるなってわかってるんだけど、すげえ気になるの」
わ~~と心の中で騒ぐ。本当にドキドキする。




