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放課後の約束 1

 5時間目の数2はただでさえいつも頭に入らないところに、もう全くわけがわからないまま終わった。

 私の動揺は半端ない。

 どちらかというと昨日桜井に話を聞かされた時より、今の方が動揺している。

 数学、今日は当てられなくて良かった。

 後で数学の得意なサクラちゃんにどうにか教えてもらおう。


 

 そして5時間目の終わりとともにヤグチがまた後ろを向いて来た。

 女子の何人かがこちらを見ている。ヤグチは目立つから嫌いだ。

 あ、サクラちゃんとミノリちゃんも見てる。2人に変な誤解されたら嫌だな。

「お前、ゴトウのどこが好き?」

ヤグチはいきなりそう聞いてきた。

 自分の顔が一瞬で紅くなるのが分かった。



 ダメだ。

 ここで紅くなったら。ヤグチに話しかけられて紅くなってると思われる。

 ヤグチがニヤっと笑って続けた。「中学一緒だったよな」

「私、トイレ」それだけ言って私は席を立った。



 ヤグチの話を聞いた方がいいのだと思うけれど、でも聞きたくない。

 昨日の桜井との話を聞かれていた事で、何だか弱みを握られているような感じもする。私はヤグチがいた事を知らなくて、ヤグチが私と桜井の話を全部知っているのは分が悪い。何だか、何かに負けたような気さえする。

 チャイムギリギリで帰ろうか。でもそうしたら放課後も捕まってしまうかも。授業中に話されでもしたら困る。

 やっぱ席に戻ろう。


 

 すぐに出たトイレの入り口で、クラスの女子のエダノノカとすれ違う。

 エダノノカは私の事を結構じろじろ見てきた。

 来るの?と思う。次に話をしにくるのはエダノノカか?でもエダノノカはちょっと不得意かも。

 さっきのヤグチの、桜井の説明を聞いてましたっていうのは3人目の告白だと数えていいのかな。


 ヤグチの本当の役割はなんだろう。

 私の仕事を見届けるってなんだろう。

 誰かの夢に出演させる3,4人も桜井は私が心で思うだけでいいって言っていたから、見届ける役なんていなくていいはずなのに。


 

 クラスに戻るとヤグチは席にいなかった。

 代わりに、私の席の後ろの窓にツブツブが寄りかかって立っている。

 ちらっと見てしまうと、ツブツブがニッコリ笑ってくれたので嬉しくて私も微笑んでみた。

 良かった。今朝は怒ったのかと思ったけど。あやふやな約束で、下の名前で呼ばなかったくらいで怒らないよね?

 あんなに喋ったのは昨日初めてなのに、名前で呼ぶなんてやっぱり恥ずかしくてなかなか出来るものじゃない。

 ツブツブがそばに立っているから自分の席に座るのが少し恥ずかしくて嬉しい。



 「今日も一緒に帰ろう」ツブツブが私だけに聞こえるように言った。

驚いてツブツブをマジマジと見てしまう。

 もう1回言って欲しい。空耳のような気がするから。

「どっちかが早く出たら校門のとこで待ち合わせしよ」

今度はちゃんと聞こえたが、ドキドキしてきて返事が出来ない。

「聞こえた?」ツブツブが微笑みながら念押ししてくれる。

 どうしよう。私は高森の所に行こうって決めたのに。



 どうしょうか迷う。

 断ったらもう誘ってくれないかもしれない。朝、機嫌を悪くしたように見えたのが気にかかる。

 それに何と言っても私も一緒に帰りたい。

 それでも私は言った。「私…今日高森のとこ行かなきゃいけなくて」

「朝断ってなかったっけ?」

「でも桜井先生に伝えてもらいたい事があるから」

あぁそうか…。『好きな男子設定』をなくしてもらったら、もうツブツブが私に話しかけてくれる事もないのだろう。

 どうしよう…何だろうな、この私の、もてない女子が急に男子から誘われて、やたら自問自答する少女マンガみたいな感じ。



「桜井、今日休みだよね?」ツブツブが言う。

うん、とだけ答える私。

「じゃあ明日でいいじゃん。また高森に変なお茶飲まされるかもよ?」

ツブツブは優しく笑った。その笑顔に、きゅん、とする自分が気持ち悪い。

「じゃあ、山根、校門のとこで待ってる」

それだけ言うと、ツブツブは自分の席に戻っていった。


 

 ちょっと頬が火照る。胸の中では「うわ~~」と大騒ぎをしているが、紅い顔を隠すために少しうつむいていると、ガタン、と私の机に前の椅子が当たった。

 ヤグチが戻って来たのだ。

 ヤグチはまた私の方を向いて腰かけた。

 さっきのツブツブとの約束に顔がにやけそうになるのを我慢する。

 ツブツブも桜井にどうにかされて私の所に来てるに決まってるのに、ツブツブに優しく話しかけられると素直に嬉しい。ミッションが終わってツブツブが正気に戻ってしまったら。ものすごく寂しい気持ちになるんじゃないかな。



 「お前さ」

急に振り向いてそう言ったヤグチにびくっとする。

 ヤグチが少し不機嫌な顔をしているように見える。さっき話の途中で私が席をたったからか?

 が、ヤグチはこう続けた。「ゴトウが好きなんじゃねぇの?」

 またゴトウハルカの話か…

 好きだけど?と思うが返事はしないでいると、私の目を覗き込むように探る目をしてヤグチは言った。

「で、オオツブは?」。

 

 正直に驚いた顔をしてしまった。

「オオツブと話してた時すげぇ嬉しそうだったじゃん。今も嬉しそうだし。何話してたの?」

言われて私は紅くなる頬を隠すために両頬を手で覆う。

 言いたくない、ヤグチには。


「今朝もオオツブと一緒に来た?」

ドキリとする。…来たけど。

「一緒にバス乗ってんの見たやつがいた」

「たまたま会って。昨日送ってもらったから、そのお礼言ってたらいろいろ話してくれて…」

何でこんな言い訳みたいな事ヤグチに言わなきゃいけないんだろう。

「あいつチャリ通だろ?」

ヤグチしつこいな。今度はムッとした声で答えてしまう。

「自転車壊れてたらしくてバスで来てたの!」

あんたに関係あんの?

 そこでチャイムが鳴った。

 ちっ、とヤグチが舌打ちをする。




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