恋する男子は黒髪の女性に弱いらしい
最近は、彼女は僕の前に居る。その長い黒い髪の毛と、まぶしい笑顔、細く可憐な二の腕。白い肌。慎ましい胸元。僕は、すべてが好きだった。でもそれは、居たいから居るのではなく、居なければならない強制なのである。
彼女が、僕の前の席になってからだいたい一週間が経った。僕は、現在高校2年であるが、どうして席替えはこんなにも心を躍らすのだろうか。小学校の頃からそうだった。あの頃は恋愛感情とかそんなものはなかったはずなのに、なぜだか席替えは楽しくってしかたなかった。そりゃ、今はなんの理由もなしに馬鹿みたいに席替えなど心待ちにしてはいない。下心があるからに決まっているのだが、小学校の頃の席替えは今となっては不思議なものと感じてしまった。
小学校の頃は純粋に環境が変わる事へのワクワク感があったのだろうか。そう考えると、今の自分はとても情けない。ある一定の時期からくる、あの「欲求」が馬鹿らしく思う。神様、なんて機能をを人間につけてくれたんだい。
だいたい、この機能の発揮にも個体差があるらしい。僕は、わりと早い方だったように思う。僕の周りの男友達はそんなっ気はまるでなく、毎日毎日ゲームだ漫画だアニメだと大忙しだった。ただ、最近になってようやく周りも起動したのか、それっ気が出てきた。先駆者としてはありがたい。
さらに最悪なのが、その個体も2種類に別けられ、その点においても発揮する時期に個体差があるのだ。そう、この時期における恋愛観は男女によって異なるのである。
これは、僕がパソコンをイジイジして調べた結果なのだが、人にはそのヤラシイ感情の波の浮き沈みは男の方が早く来るらしい。故に男は、早々とオオカミのような容相をを呈するのである。これは、本当にみっともない。何度も恥をかいた。
一方、女の子は違う。男の子とはことなり、ロマンチックなように思う。たしかに、中学校の頃、ある女の先輩にある噂が広まっていた。もちろん、こういう例外もある。が、しかし女の子はやはりロマンチックなのだ。結果よりも過程が好き。そんな印象だ。少女漫画のような恋愛を好むのだ。そう、例えば……といっても思いつかないのだがね。
さて、今までの話は、僕の脳内での約1分くらいの話である。彼女の背中を見ながらそんなことを考えていた。中二病だろうか。いいえ、きっとこの時期の男の当然の考えです。
「ねぇ、ちょっと」
僕は、誰かに声をかけられた。いや、前に座っている好みドストライクの女の子ではない。横に座っている正直好みのタイプではない女子だ。
「ん、なに? 」
僕は、とりあえず返事をしてみた。
「今日の体育ってさ、なんだっけ。バドだっけ」
僕は、考えた。先日までは器械体操だった。そういや、なんで器械体操って器械体操と書くのだろうか。機械って思っている時期は確かにあったな。
「あー今日はたしか、体育館だけどバドじゃなくってバスケだったと思うよ」
僕は、笑顔でそのとなりの正直好みのタイプではない女子に返事をした。
「マジ〜。突き指やだよー。バドが良い〜」
なんだか、ごね始めた。もしかして、これ以上話を広げる気か。いやいや、僕は君とはこれ以上話を広げるつもりはないぞ。広げた所で時間の無駄なのだからな。君のことは好きじゃないぞ。恋愛対象なんかになりえるもんか。
「そうだね、じゃあテーピングでガチガチに指を固めてなるべくパスをもらわないように自陣のゴール下でも守ってると良いよ」
僕は、その正直好みのタイプではない女子にそういった。そいつは、身長がやたら高くがっちりとした体型だった。しかし、それなのにぶりっ子というのが、輪にかけて不快だった。
「ええーそれじゃあ、プロレスラーじゃんよー。もう、真面目に返事してよねぇ〜 」
なんだ、理解しているじゃないか。意外と話の通じる頭のいいヤツなのかもしれない。
「そういえば、好きな人ととかいないわけ〜? 」
待て。いや、ちょっと待て。どうして、この話の流れでいきなりその話になる。唐突にも程がある。今すぐに地球に隕石が墜落するので、その隕石を破壊するチームを禿げたおっさんがリーダーで作ってくださいといわれるよりも唐突だ。いや、これは昨日テレビで見ていた映画の話だが。
「いや、まぁいるにはいるけど」
真面目に答えちゃうあたりどうかしてますね僕は。
「えーうっそー誰〜」
嘘じゃない。本当だ。どうして嘘をつく必要がある。もっと言えば目の前のその君とは似ても似てにないおしとやかな女性が好きなんだ。最近のやつらの会話の切り返しによく「うそ〜」と言うヤツが多いが、そんなに嘘をつかれまくっていて、確認しないといけないほど嘘は蔓延っているのか。
「いや、教えないって。関係ないじゃんおまえに」
一瞬、曇った表情をその正直タイプではない女子は見せた。あれ、もしかしてコイツ……。僕の事が好きなのか。え、嘘だろ。
「まぁ、たしかにね」
そういうと、その正直タイプではない女子は俺の背中を思いっきり叩いた。
「で、誰なのよ?」
おい、さっきの人の話を聞いてなかったのか。言わないと言っただろう。だいたい、今は昼休みが始まったばかりだぞ。お腹が空いてそれどころではないんだが。
「ごめん、お昼ご飯食べさせて。腹減ったから」
「あーごめんごめん。じゃあ、一緒に食べようよ」
そういうと、なぜか正直タイプではない女子が俺の机に自分の机をくっつけてきた。そして、前にいるタイプの女子は友達とお弁当を広げて楽しそうにお昼を満喫していた。ああ、もしかして自分でお弁当を作ってきているのだろうか。自分の位置から可愛らしいピンク色のお弁当箱が見えるぞ。
「わかった。言いづらいなら好みのタイプくらい教えなさいよ。良いでしょ?」
そういうと、正直タイプではない女子は、コンビニで買ったであろうメロンパンとミルクティーを机の上にのせ、豪快にメロンパンに喰らいついた。あれが、亀の甲羅であったら相当荒々しい絵が僕の目の前で展開していることが容易に想像がついた。目の前の人とは雲泥の差だ。
「君とは、正反対の人が好きかな。ははは」
愛想笑いをセットにしてやった。いや、しかし我ながら酷い返のような気がした。
「ふーん」
あれ。これはどうしたことか。少し落ち込んでいるような見えた。
「じゃあ、例えば目の前の席に座っている人とかってこと?」
おい。そんな大きいな声で言うんじゃないよ。聞こえたらどうする気だ。しかし、幸い相手は無反応のため聞こえてはいなかったらしい。セーフだった。
「まぁ……そうとも言える」
流れとはいえ、まさかの告白をしてしまった。ただ、彼女には聞こえない程度に言ったつもりだし、ほとんど声にはなっていない。ただ首を縦に振って返事をしただけだ。
その後は、たわいもない話をしながらお昼ご飯を二人で食べた。よく考えてみると、正直タイプではない女子とまともに会話をするのは今日が初めてだった気がする。まぁ、正直タイプではないことに代わりはないのだが、友達としての対象くらいまでには格上げしても良いかと少し思ってはいた。なかなか、ギャグの返しも面白いので。
お昼休みの終了のチャイムが鳴った。ここからはお昼寝の時間だ。幸いにして昼一発目の授業は国語だ。また、あのお経のような話が僕を夢の世界へと連れてって行ってくれるだろう。ラストに体育があるわけだけど。
ようやく、眠気がとれると体育館に僕は居た。バスケットは得意ではない。正直、運動は苦手だ。強いてあげる、得意な運動はキャッチボールくらいだ。バスケットのルールくらいは知っているつもりだけど、漫画の影響なのかルールをしらないだけなのか、多くの奴らが強烈なチャージングを繰り返す。バスケは原則非接触ゲームだ。サッカーとは違う。しかし、結構そんなことを知らないでやっているのだ。達観してバスケを語るくせに下手くそな自分にあきれていますよ。はい。
「ねぇ、明美」
仁美ちゃんが私に声をかけてきた。
「さっきのお昼休みのことなんだけど……」
「ああ。あのこと」
仁美ちゃんは、自分のちょっとどころかかなり出ているお腹を触りながら、私を見ていた。
「ありがとね。なんか、不自然な感じに喋りかけさせちゃってさ」
「本当だよ〜ぉ。でも、明美が聞いてほしいっていうから、聞いてあげたんだけどね。親友の頼みは断れないっしょ」
仁美ちゃんは、大声でゲラゲラと笑い始めた。つられて私も笑ってしまった。
「こらーそこー私語は慎めよー。うるさいぞー」
先生に注意されてしまった。いけないいけない。静かにしないと……。
私の恋は、後ろの席のちょっとなんだかひねくれてそうな人に向けられている。きっと、彼はまだ恋とかそういうのには興味がないのかもしれない。だから、私が気づかせてあげるの。チェリー君に私の気持ち、そして愛とはなんなのかをね。
この百戦錬磨で、中学校では後輩、先輩、先生、あまたの男たちと関係を築き、虜にしてきたあたしがね。うふふ。
不気味なその笑顔は、バスケを外野から達観して見ている男に向けられているのであった……。
この作品はフィクションです。いや、作者の悲劇の体験が少し……。