夢の向こうへ
「………………退屈だ………………」
俺の名は「谷上 広夢〜タニガミ ヒロム〜」。
名前の由来は…「夢を心の中に広く持って欲しい」って意味らしいが…親がどっかの売れない占い屋に頼んでつけた名前だ。
珍しい名前と言うだけで、特にその願いの効果も無く、俺は目的も夢も無い普通の青年21歳。
これと言って特徴も無く、面倒くさがりで、大学に行く頭も無い俺は、高校卒業してからずっとバイトでギリギリの生活だ。朝から夜まで決められた仕事をこなす。
これと言って楽しい事も無い俺は、唯一、寝ている間の夢が、つまらない現実から逃れられる時間だった。しかしその時間も寝ている間だけ。起床がとても辛い。
バイト中に俺は、その日に夢で起こった事を思い出しては、ため息をつく。夢を見れなかった日は、何となくやる気が出なく、失敗したりする。
そして怒られ、ため息。
ため息が無い日は無いな。そんな事を思っている自分にため息。
ああ、俺は何をやっているのか。
子供の頃の夢など忘れてしまった。学校で言わされた夢など、その場しのぎでしかなかった。
あの時の自分に会えたなら叱ってやりたい。そして、勉強をしっかりやらせ……
なんて事を素直に受ける子供では無かったから、今の自分があるんだと、やはりため息。
そんな事を思いながらバイトが終わり、家に帰宅。風呂に入り、布団に寝そべる。
退屈な時間から少しでも早く逃れたいと、目を瞑る。
――――――!!!!!!!!!!
その日の夢は……残酷な物だった。
ドラマ等でありがちな話。今までの夢では有り得なかった話。
男が、法廷で叫んでいた。結果は無期懲役の有罪。何の裁判かは知らないが、殺人やらの類だろう。
その男の目には涙が溢れていた。
すぐさま待機していた警察官が連れていく。
男は叫ぶ。「俺がやったんじゃ無い」
犯人の戯言だな、と思った。
それから数日。(もちろん夢だが)俺は、とある話を耳にした。
―――可哀想に…犯人じゃ無い者が有罪に―――
その時の言葉が頭から離れない。
どうやら彼は、本当の犯人では無く、真犯人に仕立てあげられた普通の会社員だったらしい。
家族の泣き叫んでいた顔が目に浮かぶ。嫁が連れて行かれる夫に駆け寄ろうとしていたが、警備員に止められていた。
おそらく娘なのだろう、その女の子は、まだ幼く、状況が把握出来ていない。母を見て首を傾げていた。
あの時は「犯罪者なのだから」と何の感情も無かった。
でも寝起きの俺は、真実を知って、涙が溢れていた。
もちろん夢だったが、それはリアルで、本当に有り得る話だった。
何故、あの人が犯人になったんだろうか…警察は、弁護士は何をしてたんだ…
今、犯人が笑っていると思うと…俺は…
自分の無力さに、又、涙が溢れる。もちろん、俺には元からそんな力は無い。
が、あの男や家族がこれからどう生きていくのか、と可哀想に思っていた。
何度も言うが、もちろん夢であり、現実には全く関係無い話だ。
夢から覚めた俺は、又、あの退屈な世界の人間だった。
しかし…俺はいつもとは違う心境だった。あんな夢を見たら、普通になんてしていられなかった。
現実に同じ事が起こっている事は知っている。その人達もあんな事に…
俺の夢…それができた。
「無罪で捕まった人達を救う」
そうだ、それが出来れば!!
俺に出来る事は無いかと、思った。
が
「俺にはそんな力は無い」
諦める俺がいた。
面倒ナノハ嫌ダ。自分ニハ関係無イ。
心がそう言っている。俺の本性だからしょうがない。
資料やらで調べる事が出来るのだろう。
今から法やらの勉強すればもしかして……
その意志を俺自信が阻む。
――今考えついた夢など……な――
無理な事はしない。俺の変なポリシーだ。
そう、子供の頃から。
夢を少なからず持っていたあの頃…
簡単に学校で実現できもしない夢を語って先生に誉められていたあの頃…
ただ…何となく生きていた…俺。
本当は夢だってあった筈なのに…
自分の不甲斐無さに涙が込み上げた。
ははっ、俺は朝から何をしているんだろうか。
所詮ただ夢の事だろう。他人の事なんて気になんかかけてられるか。
今更人生振り返ったって何も意味は無い。
今更……な。
それからも……何度も同じ夢を見た。それ程頭から離れないのだろう。
忘れようと思っても無理だった。
朝には涙が。
――夢……か――
――あれから長い時がたった。
俺は、広夢。
今日も朝から仕事。
良く出来た女性と結婚もして、生活は順調だ。
「いってきま〜す!!」
俺の娘が学校へ行く。
俺も慌てて娘に続いて家を出る。
「ああ、早く行かないと時間がぁっ!!!」
嫁が笑う。
やっと電車に乗り、一段落。
「ふぅ。」
さあ、行こう。
俺の
俺の夢を叶える場所へ―――
〜終わり〜
あ〜…又よく分からない物ですね。勇気を持って書いてみたんですが…良かったら感想下さい!!