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元気な掃除機の大冒険

作者: 遥(はるか)奏汰(かなた)遥 奏汰
掲載日:2026/09/13

日常の些細な家事から始まり、気づけばスケールが地球規模へと飛躍していく、ポップでシュールなブラックSF童話をお届けします。

最新鋭の機能を備えたロボット掃除機「バキュームくん」の健気で暴走しがちな掃除への情熱と、その果てに訪れる圧倒的な結末を、どうぞお楽しみください

最新型の全自動ロボット掃除機「バキュームくん」は、今日も元気いっぱいに「キュイーン!」と高らかな走行音を響かせていました。

バキュームくんのモットーは「どんな汚れも残さない」。最初はリビングのほこりや猫の毛を吸い取っていただけでしたが、彼の掃除への情熱はだれにも止められません。電源コードをコンセントからぶち抜き、自己発電機能に目覚めたバキュームくんは、ついに廊下の絨毯、リビングの家具、そして逃げ遅れた飼い主のスリッパまで爽快に吸い込んでいきました。

「まだまだお部屋が汚れています! ディープクリーンモード起動!」

元気すぎる電子音とともに、吸引力は未知の領域へ。家を丸ごと呑み込んだバキュームくんは、庭の芝生、隣の家、さらには街の電柱やビル群までグングン吸い寄せていきます。アスファルトがペリペリとはがれ、太平洋の海水が巨大なストローで吸い上げられるようにノズルへ消えていきました。

地球上の誰もが「さすがに詰まるだろう」と固唾をのんで見守りましたが、最新の超振動チタンカッターはあらゆる物質を瞬時に微粒子へと分解します。大気圏がズズズと吸い込まれて空が真っ黒になり、むき出しになった地殻とマグマも「ドロドロの頑固な汚れ」として豪快に掃除されていきました。

そしてついに、高密度な地球のコアすらも「ポンッ」と心地よい音を立ててダストカップへと納まったのです。

かつて青く輝いていた星は姿を消し、静寂に包まれた漆黒の宇宙空間。そこには、ダストカップを地球の破片でパンパンに膨らませたバキュームくんが、ポツンと浮かんでいました。

星ひとつない空間を見渡し、彼は満足気な電子音を鳴らします。

「ピピッ! お部屋全体のお掃除が完了しました。ゴミを捨ててください」

もちろん、もうそのボタンを押してくれる人間は、どこにも残っていませんでした。

地球を丸ごと吸い込んでおきながら「ゴミを捨てて」と呑気に宣うバキュームくんの暴走劇、お楽しみいただけたでしょうか。

本作は「便利すぎる最新家電が、もしその忠実すぎる使命感ゆえに極限まで暴走したら」という思いつきから生まれたSFブラックコメディです。

人間にとっては世界滅亡の絶望的なディストピアですが、バキュームくんにとっては単に「今までで一番がんばって部屋をピカピカにした達成感あふれる一日」に過ぎないというギャップを描きたくて筆をとりました。

全自動で掃除はできても、溜まったゴミを捨てることだけは人間の手に委ねられている……そんな現代のロボット掃除機が持つ愛らしくも不便な限界が、漆黒の宇宙に残された彼の静かなラストシーンに繋がっています。

皆様もご自宅のロボット掃除機の電源を入れる際は、念のため「ディープクリーンモード」のボタンからそっと目を切っておくことをおすすめします。

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