ガンダム哲学 何故人型兵器が採用されたのか
人型ロボットは非効率的だ。
軍事的合理性は一つもない。
以前のエッセイと重複する内容だが。
ガンダムにのみ焦点を絞って、どうやって整合性を保ったか。
その解消法を紹介しよう。
●嘘:不整地踏破性
車両型では乗り越えられない地形も。
足があれば乗り越えられる。
2乗3乗の法則で。
大きさは10倍でも。
重さは1000倍。
接地圧も10倍。
この接地圧だと、普通の地面に立っているだけで、機体は勝手に沈んでいく。
不整地を乗り越えるなんて、夢のまた夢だろう。
●嘘:手≠マルチロール
突撃銃・散弾銃・狙撃銃・対戦車ミサイル・ブリーチング爆薬を、同時に持った兵士はおかしい。
いくらミノフスキー粒子により、遠距離で索敵ができなくなったとはいえ。
戦闘の事前計画が全くない、兵士の判断によって戦闘、ではおかしい。
それでは別行動中の味方部隊と、同士討ちが発生してしまう。
場当たり的に戦うわけではなく、作戦目標が定められている以上。
事前に最適な武装で出撃するのが道理だが、その実現に必ずしも手を必要としていない。
出撃拠点での、ハードポイントへのマウントで、十分実現される。
何より、バディやチームのメンバー、或いはそもそも別チームと。
互いの役割に特化、カバーしあうのが近代的組織戦だ。
総じて戦闘中に、多目的に武器を交換する必要は本来ない。
●嘘:手≠自由な武装選択
まずMSは自由に武器を持てない。
ギャンはゲルググとの、次期主力コンペで負けた。
格闘能力はゲルググを圧倒したが、総合力で負けたからだ。
もしMSが自由に武器を持てるなら。
ギャンにビームライフルを持たせれば、最強のはずではないか。
そう思って調べたら、ギャンは射撃武器を持てないらしい。
……何のための手なんだ。
実際、作中にはユニバーサル規格という、武器を各MSで使い回せる設定がある割に。
各MSのビームライフルは共通化されず、各機体独自のものとなっている。
特にビームマグナムを撃った、ユニコーン以外の他MSの腕は故障する。
※UCのビームは、発射時に物理的反動が存在し、高出力化により人間でいう脱臼を起こす為
更にZZ~逆シャアでは、高火力化の為に手を経由して、機体ジェネレータと直結している。
これらから言って、想定されない武装の運用は、想定する出力や反動の違いから。
結局撃てない・故障する、というトラブルになりかねない。
よって万全を期すなら最初から、自前で武器を携行しなければならないが。
ごく一部の強襲機体以外、標準武装は近接武器・盾・銃で、複数武装を持ってない。
●嘘:設計の崩壊
つまりMSはほぼ、近接武器を持ち替える為だけに、手が付いている事になる。
だが、こんな不条理な事はない。
敵と近距離で不意に遭遇したと仮定して。
・持ってる銃を捨て
・剣を引き抜いて
・剣を振り被って
・剣を振り下ろす
……何の為にそんな、迂遠なステップを踏んだのか。
銃を持っていたのなら、そのまま構えて撃てばいい。
なので剣は、弾切れの時の最後の手段、と言えるだろう。
しかし普通、その状況は無理せず帰還するべきだ。
特にMSという高級兵器で、特攻を前提とするのは、狂気という他ない。
●嘘:AMBAC
MSの最大の強みは推進剤を使わない、慣性移動だ。
確かに宇宙で推進剤を使わない姿勢制御・移動方法は重要だ。
地上では摩擦でいずれ停止するが。
宇宙では一度加速すれば、勝手に止まる事はない。
あらゆる行動で推進剤を使うのは問題がある。
しかし、人体は質量比的に、AMBACに不向きだ。
胴体部に最大の質量を持つので、あまり効果が見込めない。
質量比が人間と異なり、四肢に集中している。
なんて言われる事もあるが、それはもう本末転倒だ。
AMBACする時以外、死荷重にしかなってない。
推進剤を節約したいのに、推進時の障害となり果てている。
●嘘:有視界戦闘
ミノフスキー粒子が発見された。
長距離誘導兵器が使えなくなった。
有視界戦闘がメインとなった。
そこまではいい。
しかしだからといって、人型が採用される理由にならない。
特に連邦軍はいうなれば、完全武装の近代的軍隊であるのに対して。
ジオン軍の性質は、騎兵突撃を繰り返す中世の軍隊のようなものだ。
いくら濃霧が原因で負けたからと言って、軍隊を騎馬隊へ編成しなおそう等と思うか?
●嘘:人型である必然性
これらの細々した理由は、人型である理由の補強ではあるが。
人型でなければならない理由ではない。
不整地走破性なら、多脚の方が安定していい。
武器を手で持つ意味はないので、ハードポイントに直接マウントすればいい。
姿勢制御なら手足を失くして、リアクションホイールでいい。
有視界戦闘に対応した、新戦闘機・新戦車・新戦術でいい。
つまり人型である事に、軍事的な合理性はない。
●真実:人型作業機械を転用したから
宇宙世紀は名前通りに、人類が宇宙に進出した。
では居住区たるコロニーは、どうやって建造されたか。
地上と違って、宇宙には。
前後左右に加えて上下。
ピッチ・ロール・ヨーの軸が増える。
更に大気との摩擦がない為。
移動ベクトルや回転は、一度発生すると、永遠に消えない。
総じて姿勢制御や移動に、正確な計算が必要となってしまう。
戦闘機乗り以上の専門知識がないと、宇宙では作業ができない。
「X軸に何ニュートン、同時にピッチを何度、慣性停止のために逆噴射を……」
そんな職人芸頼りでは、コロニーの大量建造なんてできる訳がない。
そこで人型作業機械の登場だ。
そもそもモビルスーツが、何故スーツなのかと言えば。
宇宙服であるノーマルスーツの、延長上としてモビルスーツとなる。
乗り物ではなく、パワードスーツの類という事だ。
何が画期的なのかと言えば、その操作の簡便性だ。
複雑な機械の操縦には、行いたい動作を操作にする、翻訳が必須となるが。
人型そのままなら、その大きさに慣れるだけで操縦できる。
マスタースレーブ方式という、パイロットに追従する機体操作だ。
姿勢制御や方向転換、物を掴む、道具を使うといった作業が。
脳のボディマップにより、本来必要な膨大な計算をスキップ。
直感的に操縦可能となり、圧倒的に簡単になる。
結果として、作業員を大幅動員できる。
MSがコロニー建造用の作業機械である事は、1話の描写で明らかだ。
ザクがハッチを開けて、サイド7に潜入する。
以降居住区到達まで、ザクはコロニーに対する攻撃を行っていない。
これはコロニーが、MS用のハッチと通路を持っている、という意味であり。
何よりMSが、宇宙世紀の社会インフラに、組み込まれた存在である事を示す。
●真実:制約との合致
連邦の支配下にあったジオンが、独立戦争を仕掛けるに当たって。
MSの兵器転用は最早、必然的ですらあった。
もしジオンが新型宇宙戦闘機を、大規模に導入しようとすればどうなるか。
それまで国内になかった為、資材やノウハウを集める必要がある。
何より兵器というのは、戦争にしか役に立たない金食い虫だ。
しかも、戦闘機だけを生産すればいい訳ではない。
パイロットの育成が必要だし。
何より運用する艦艇も必要だ。
これも艦艇だけ作ればいい訳ではなく、クルーの育成が必要だ。
人も物も金も、全て大量に動く。
全ての分野に波及していく事になる。
これでは準備段階で、連邦に察知され。
計画は簡単に頓挫していただろう。
その点MSは都合がいい。
社会インフラに溶け込んでいる。
大量配備をしても、作業機械の大規模更新と言い張れる。
運用する艦艇も、既存のものの改造で済む。
老朽化等を理由に、自然な形で改修が可能だ。
何より、パイロットを簡単に用意できる。
民間のモビルスーツ搭乗者の採用も可能だし。
新たに訓練するにしても、戦闘機等より遥かに短期間で済む。
秘密裏に開戦準備したい要求と、この上なく合致していた訳だ。
MSは軍事的合理性より、政治的・経済的合理性により採用された訳だ。
この理屈は以降の、反体制的な新興勢力の全てに共通する。
●疑問:連邦は何故MSを採用した?
しかしそれらは弱小勢力の理屈だ。
体制側であり、専門の軍人を抱える、連邦には必要ない。
前述の通り、軍事的な合理性では、MS採用を説明できない。
●連邦:ずっと続く軍縮
実は連邦の機動戦力は、更新が止まっている事がわかる。
1年戦争開始時で、地上部隊の主力は61式戦車。
この61とは採用年の事なので、約20年前から更新が止まっている事がわかる。
ジオンのMS採用でも説明した通り。
純粋な兵器の開発・生産は反体制側には難しい。
つまり連邦には、警戒する敵勢力がいなかった事になる。
軍事力の必要性を疑問視され、軍縮路線にあったらしい。
その為に機動戦力の更新は滞り。
少ない予算はサラミス級・マゼラン級の、各種艦艇に費やされた様だ。
そして、1年戦争が終われば、ティターンズの暴走。
タカ派の台頭による、組織内の対立構図となった。
これを嫌ってまた、軍縮路線が進行。
更に決定的なのが、シャアの反乱の終結。
この出来事は1年戦争から続く、宇宙移民との紛争の。
明確な1つの決着・区切りと見做された。
結果、以降の軍縮路線は決定的な事となる。
Vガンの時代156年に、逆シャアの時代93年のMS。
ジェガンが現役稼働していた程だ。
こうして見ると、連邦はグリプス戦役以外では。
ずっと軍縮路線だったのがわかる。
●連邦:機種転換と時間的制約
ミノフスキー粒子により、精密誘導兵器が無効化された連邦は。
否応なしに有視界戦闘という、機動兵器が主役となる戦場に突入。
歴史的大敗を喫した。
MSが優れていたというより。
機動戦力が欠如していたのが、何より大きいだろう。
そして戦争状態はそのまま継続する。
連邦はこの危機的状況を打破するのが急務となる。
有視界戦闘が基本となった。
それなら有視界戦闘に対応した、戦闘機・戦車を作ればいい。
巨大人型兵器より、全く軍事的に合理的だ。
しかし、時間的制約がそれを許さない。
何せ連邦において機動戦力は、20年前に更新が止まった技術。
技術の世界は日進月歩。20年の停止による遅れは深刻だ。
基礎技術の研究が必要だが、悠長に研究している暇はない。
連邦の勢力圏は今も、宇宙も地上も侵されているのだから。
そしてもし完成させても、それで終わりではない。
パイロット達の育成が必要だ。
20年前の機動戦力からの機種転換は、膨大な訓練時間を必要とするだろう。
そこで注目されるのがMSだ。
社会インフラに組み込まれている以上、連邦にも基礎技術はあるし。
鹵獲したザクから、最新のデータを転用できる。
訓練コストの低さから、戦場への投入まで速い。
主に時間的制約から、MS以外の兵器を主力化するのは困難だったのだろう。
●連邦:デファクトスタンダード化
そして1度、MSを主力化した連邦は。
サンクコストとスイッチングコストに苛まれる。
ティターンズ系タカ派の台頭もあり、1年戦争終結後の連邦は、軍拡路線なのだが。
だからといって軍事的合理性のみで、主力戦闘機は採用できない。
何故なら1度MSを採用した以上、軍にはMSが存在している。
いくら優れているからといって、既存の全てのものを。
一斉に更新するなんていうのは、むしろ非効率的だ。
普通は老朽化等を理由に、順次更新していく事になる。
しかしMSは、一斉に導入したばかりだ。
暫くは現役で稼働するのは明白。
そして一部にでも、戦闘機を導入するには。
戦闘機用の生産ライン、整備施設、訓練プログラム等が必要となる。
MS用の生産ライン、整備施設、訓練プログラム等とは、完全に別物だ。
1度確立したインフラを、作り替える必要が出てくる。
既に支払った費用。
体制を切り替える為の費用。
これらを無視するのは、連邦程の大組織では容易ではない。
いわゆる、組織の動脈硬化、等と呼ばれる現象だ。
●連邦:アナハイムとの癒着
何より無視できないのが、アナハイムだ。
ジオニックとティマットの技術を吸収。
MS産業を独占支配した形になる。
MSを売り込もうとするのは、ある種必然的な動きだ。
特に連邦は軍縮路線となるので、アナハイムからの賄賂は。
軍派閥の、重要な資金源となるだろう。
そして同時に、反体制組織の側にも。
資金的・戦力的な提供を行い、抗争を激化させる。
そうする事で、より大きな利益を獲得する。
この黒い動きは、筆者の独自研究ではなく。
UCで描かれたアナハイムの、死の商人としての側面から事実と言える。
連邦軍はこういった悪循環に陥り。
MSを継続的に使用していく事になる。
●連邦:何故有人機なのか
MSが人型な理由には、パイロットの存在が大きい。
自律AIによる無人機なら、必要ない考慮ばかりだ。
宇宙を生活圏とする技術力で、AIが開発できない道理がない。
というか初代ガンダムが、自動操縦でジオングと相討ちになってる通り。
最初から自律AIは、実現可能だったのは明白だ。
ジオンをはじめとする、反体制組織はもしかしたら。
軍用の高度な自律AIを、実現できなかったのかもしれないが。
連邦が無人機採用に踏み切らなかったのは、大きな謎だ。
正直、雇用の確保といった面でしか。
合理的な理由は考えられない。
……自律AIは当たり前に実現できたのに?
ALICEはなんで画期的みたいに描かれていたのか?
いや、映像作品じゃないから非公式だし知らない(逃げ)。
●ORIGIN:MWによる全ての破綻
ここまで人型兵器が主流となった理由を見てきたが。
ORIGINでは全てが破綻する。
モビルワーカーという存在という存在が登場する。
ザクの前身として登場した、いかにも試作段階で未完成、といった無骨な風情の。
片手がこれ見よがしな、大型クローになってる機体だ。
……この機体、何?
というのも、宇宙世紀の開拓史から言って。
この時代に、こんな未成熟な機体が、出来上がる筈がないのだ。
これだけ洗練されてない、という事は。
それまで人型作業機械なんて、まるで存在していなかった事になる。
じゃあ、コロニーはどうやって建造したのか。
人型でない作業機械で建造したのだろう。
非人型機械の操縦は、先述の通り困難だ。
AI操作による無人機である事が想像できる。
つまりジオンは、それまで培われた技術を捨て。
突然あんな不格好な人型有人機を採用しよう!と決断した事になる。
……何の為に?
しかも社会インフラに、組み込まれてない以上。
艦艇類が全く、MSの存在を前提としてない事になる為。
完全に新規に設計・生産しなければならなくなる。
事前準備段階で、連邦に察知される事必至。
その癖にコロニー内には、MS用の通路やハッチがある。
合理的な非人型作業機械は、MSサイズより遥かに小さい筈なのに。
一体あの世界に何があったのか、まるで理解できない。
MWの登場1つで、世界の整合性が、連鎖的に破壊されていく。
無印のいわゆる旧ザクは、ザクの前段階として。
非常に説得力ある姿をしていたし。
シャアの言い草的にも、完全に作業用だし。
ここを深堀りした方が、良かった気はする。
●種:MA→MSの進化
ちなみに種のMSが主力化した理由は。
戦闘機・MAでは旋回半径が大き過ぎて。
ドッグファイトでMSが、大幅優位だかららしい。
元々ザフトではMAが正式採用されていたが。
上位機種としてMSが登場したようだ。
……何故、そんな事に?
人型ロボットが地上で方向転換するのに。
どういう運動が必要かイメージするには。
アシモの方向転換を思い浮かべればいい。
即ち、その場で足踏みを繰り返し。
足首の角度を細かく変えていく方法だ。
或いは宇宙でならAMBACで。
地上よりはマシな速度で、旋回できるかもしれないが。
両方とも、その場に留まる動きなのが問題だ。
戦闘機類の旋回半径が大きい、というのなら。
逆に人型兵器は、旋回中が無防備と言っていい。
というか戦闘機類の旋回は普通、マニューバによってスムーズに実現されるが。
あれだけの技術力で、マニューバが開発されなかったんだろうか、あの世界?
そもそも攻撃子機ありとは言え。
劇中では戦闘機がMSと渡り合えていたが。
こちらも不自然な技術発展だ。
●G:競技用ガンダム
まぁ種を論わなくても、殆どの宇宙世紀以外の作品は。
人型兵器である必然性がない事が多いが。
MAへの忌避感をベースに発展した、鉄血が健闘しているぐらいか。
飛び抜けて整合性があるのは、明らかにGガンだろう。
ガンダムファイトはスポーツ的競技であり。
各国は最高のファイターを育成し。
その能力を活かす機体を用意する。
ファイターの優れたボディマップを活かす為。
モビルトレースシステムによる、完全なマスタースレーブを実現。
人型を採用するのに、これ以上なく矛盾がない理屈だ。
ルールによる制約で重火器は使用できない為。
戦車や戦闘機を主力化しても、意味がない。
後は代理戦争としての側面を持つ為。
技術力によって、国威を示す場でもある。
非人型機の採用は「逃げ」と見られかねない。
地味にモビルトレースシステムのあのタイツ。
非常に強い加圧で、体力に劣る子供等は着用できない。
耐Gスーツの理屈的に妥当だろう。
リアル路線から外れている割に。
設定の整合性は相当高いと言える。




