隣のメリーさん
ありをり様にネタを頂いてさっそく書いてみたり。ふははは、僕の勢いは止められぬ!
目が覚めると私はゴミ置き場に、透明のビニール袋に埋もれるように倒れていた。
「う……」
これは酷い。どうしてこんなことになったのかさっぱり分らないけど、ゴミ置き場に放置の刑は酷い。酒に酔った記憶もないし、酔う以前に酒を飲んで良い年齢じゃない。
「私、メリーさん」
何故にこんな理不尽な環境で目覚めなくちゃいけないんだと口の中で呪いの言葉を吐きつつ正面を見れば、金髪縦ロールの美少女が立っていた。
「は、はあ。メリーさんですか」
自分で自分に「さん」付けする人なんて初めて見た。メリーさんは氷の様な無表情で、どうやったらここまで表情を失くせるのか聞きたくなるくらい人間らしさをそぎ落とした顔をしていた。
「貴女は?」
「茉里です。山下茉里」
「そう」
メリーさんはゴスロリを着ていた。肌が不健康なくらい白いからか黒いドレスが良く映える。ヘッドドレスも黒、日傘も黒。いつもならなかなかお近づきになれないタイプだ。だって私、ゴスロリ似合わないから。
「茉里はここで何をしてるの?」
「何も、というか気付いたらここに転がってました」
皆見て見ぬふりをしたんだろうな。ゴミ溜めに転がった人間と知り合いになりたがるようなのはよっぽど人が良いか頭のネジが飛んでるかだろうし。
「お風呂貸してあげる。来て」
「あ、有難うございます。えと、メリーさん」
「いい」
メリーさんは先導するように歩きだし、私は慌てて立ち上がり彼女を追いかけた。制服――というか、私自身ゴミ臭っ。
空は泣きだしそうな曇天。雨が降ると言うより何か恐ろしいことが起きそうな、そんな予感をさせる。と、メリーさんが私を振りかえって言った。
「茉里」
「あ、はい」
「茉里は違う匂いがする」
「……」
何と違う匂いなのか。ゴミの臭いのこと言ってるんじゃないんだろうか。傷つくよ。
「人間の匂いと違う。好き」
「……」
彼女はゴミの臭いが好きな、特殊な性癖の持ち主なんだろうか。なんだか泣きそうだ。
「ここ」
しばらく一緒に歩いて、なんだか高級そうなマンションのエントランスを抜け三階へ。階段に近い一番端の部屋に着くと、鍵を回す様子もなくガチャリと開けて入った。ぼ、防犯上よろしくないんじゃないかな?
「おじゃましまーす」
「どうぞ」
入って、黙った。部屋には生活臭のするものが何もない。まるで綾波の部屋。ないしは長門の部屋。
「お風呂は右手の奥。ゆっくり入ってて」
「あ、り……がとう?」
何を言えば良いのか分らない。私は言われるまま右手にある風呂場に行き、ホテルで置かれているような個包装の石鹸とシャンプー、リンスを使ってガシガシと洗った。やっとこさ染みついた臭いが取れたんじゃないかなと思えるようになり、シャワーで泡を全部流して風呂を出た。
「ヒッ!」
脱衣所にメリーさんが佇んでいた。着替えらしいシャツとズボン、私にサイズが合うのかは分らないけど下着を持ち、直立不動で影に溶け込んでいる彼女はホラーにしか見えない。申し訳ないけど本当にホラー。
「着替え、分らないと思って」
「……有難う」
自制心よ茉里、怖がっちゃいけない。メリーさんは好意でしてくれてるんだから。
「じゃあ出てるから」
メリーさんは私が服を受け取るとくるりと踵を返し脱衣所を出ていった。
下着は鳥肌が立つほどピッタリだった。メリーさんには目で見ただけでサイズが分るとかいうスキルがあるんだろうか?